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外人ブログ

ちょっと重たい話を。ほとんどの日本人に気付かれていないですが、この広大なるウェブの世界には日本関連ブログや日本関連フォーラムの世界というものがあります。そしてこうしたJ-blogやJ-forumの一部として「外人ブログ」および「外人フォーラム」というものがあります。こうした舞台で活躍しているのは主として日本在住のアングロサクソン系の人々のようです。ここで「外人」という言葉は使うのは、彼ら自身がその名称に固有の意味を付与してしまっているからです。私はこの語は差別語だとは勿論思わないのですが、少なくない「外人ブロガー」はこれを差別語とまではいかなくともある種の負の記号と認識した上で自称に使っています。つまりここには微妙なアイロニーと共同体意識があります。

それで外国人なり非日本人を書き手とするブログにはいろんなタイプがありますが、乱暴に言えば、「美しい日本の伝統を愛する派」と「日本っておもしれー派」と「日本を告発する派」に分かれると思います。ことわっておくとこれは専門家や批評家のブログではなくアマチュアの話です。

最初の美学派は日本好きに多いひとつの古典的なパターンです。私はオリエタンリズムの名の下にこういう人々の興味や関心を政治的にぶった切るやり方は好まないのですが(誰にも幻想を愛する権利はあると思うんです)、彼らの愛する日本はこのせせこましい日常からはかけ離れた日本です。私も日本の歴史や古典文化には興味はありますし、勉強になることも多いのですが、私が呼吸して生きているこの日本ではかならずしもない。

次の娯楽派は現代日本のサブカルチャーにはまった人たちです。海外にもオタクがけっこういることは、政府が日本の宣伝に使うご時世ですからもう有名ですが、実際、日本関係のブログではこれがいちばん多いでしょう。アニメやマンガはもちろんですが、映画やTVやJ-POPやアイドルやAVや電子ガジェットなど思いつく限りのネタに関してブログもフォーラムもあります。オタクですから海外でも非常に濃いです。まあこれはよく知られていますよね。在日外国人のブログでもサブカル関係ネタが多いです。以上は日本文化に興味のある層で、一部非常にシニカルなものもあり、またステレオタイプの生産を担う効果は必ずしも無視できないのですが、趣味の世界にとどまっている限り実害はそれほどない。

で問題なのが最後の社会派です。gaijinを自称するブログやフォーラムの多くはこのカテゴリーに属していると言ってもいいのかもしれません。私はこれまで半ば見て見ぬ振りをしてきたのですが、ここのところどうにも無視できないような「事件」があちらこちらで起こっているし、また彼らの言説がメディアにも微妙に影響を与えつつあるようなので、これは日本人に広く知られてしかるべきだと思うようになりました。大多数の与り知らぬところで少数の英語話者の間で物事が進んでいくというのは非常に好ましくない。

こうした社会派の生態をThe Westerner's Fear of the Neonsignというブログがユーモラスに描いています。引用すると、

It's impossible to live in Japan for any decent length of time and not become cynical about politics. In the early stages, political views tend to be half-formed ones like knowing the LDP is “full of shit” but only being able to suggest that the Japanese electorate mates with “the other guys, you know, the good guys”. But the event that triggers the onset of becoming an ill-informed activist is either a horrific racist ordeal involving a Japanese pensioner gagging at the sight of your freakishly dishevelled chest pubes in a public bathhouse or, for people who aren’t Debito, buying a copy of Alex Kerr’s Dogs and Demons, taking it home and reading it fully clothed.

政治に対してシニカルにならずに長く日本に暮らすことはできない。最初の段階では、政治の見方は、自民党がクソだと知って、日本の選挙民が「他の連中、つまりいい連中」と組むように提案するといったような不十分なものになる傾向がある。しかし「無知なアクティヴィスト(ill-informed activist)」となる端緒を拓く出来事は、公共浴場で異国風に乱れた胸毛を見て我慢できない日本人年金受給者を巻き込んだおそるべき人種主義の試練だったり、あるいはDebitoでない人々にとっては、アレックス・カーのDogs and Demonsを買って家に持ち帰って読むことだったりもする。

From this it becomes obvious that Japan is a bad tooth in need of some severe canal work. But the Japanese people themselves don’t realise this; the ill-informed activist alone can save them from their political mire. That is, if he can escape from the clutches of arch-nemesis, Black Vans. Such a person always goes into a paranoid flap at the sight of said nationalist sound trucks, even when the announcement is actually saying: “Takeshima belongs to the Japanese! Advance this position strongly at the next Asian summit! And please buy a lottery ticket!”

これ以来、日本はやっかいな治療の必要な虫歯のような存在であることが明らかとなる。しかし日本人はこのことに気付いていない。無知なアクティヴィストのみが日本人を政治的窮地から救うのだ。復讐の神たる「ブラック・バン(註、街宣右翼のあれ)」の魔の手から逃れることができたならば。こうした人間はたいていナショナリストのサウンドトラックを見てはパラノイドの興奮状態におちこむ。実際には次のように叫んでいたとしても。「竹島は日本領だ!次のアジア・サミットでこの立場を強く訴えろ!どうか宝くじを買ってください(註、意味不明、ダフ屋のイメージ?)!」

Now don’t misunderstand me here. Real activism and self-empowerment are noble indeed. This particular activist, however, shuns actual engagement. He tends to rely on the latest op-ed in The Japan Times for information and his protests never go further than the audience of his English-language blog.

ここで誤解しないで欲しい。本当のアクティヴィズムとエンパワーメントは確かに尊いものだ。しかしこの特殊なアクティヴィストは実際の社会参加は避けるのだ。彼は最新のジャパン・タイムスの社説に情報を頼る傾向があり、彼の抗議は英語ブログの読者より前に進むことはないのだ。

というようにカルト的なネット・アクティヴィストの集団がいるんですね。ここで触れられているデビトという帰化した日本人、小樽の温泉で入浴拒否されるという「事件」(その背景は複雑なようですが)を契機に人権活動家に転身したとされる人物ですが、外国人識者からこれまでも多くの批判がなされてきたにもかかわらず、一部ではカリスマ扱いされています。彼とそのフォロワーの特徴はおそろしく独善的で奇妙な迫害妄想を抱いている点にあります。この独善性は遅れた存在である日本人を教導せんとする優越コンプレックスと日本にいて酸っぱい生活をしているという惨めな現実のギャップによって日々強化されているようです。

主に外国人差別の問題を針小棒大にとりあげてはデマをひろめて歩いているわけですが、それだけなく第二次大戦時の戦争犯罪を持ち出しては日本人がいかに残酷なのかを訴えたり、あるいは軍国主義の復活が近い!といった妄想をまきちらしたりと英語圏の日本関連の情報を汚染することを生き甲斐にしている奇特な人々です。本人達は人権の闘士で反差別運動の旗手のつもりなのですが、この崇高な目的ゆえに彼ら自身の日本人への偏見や差別は正当化されてしまいます。実際、ひどいものです。この手のアクティヴィズムには往々にしてともなうわけですが、本人達は栄誉ある行為をしていると真剣に思い込んでいるという点に問題があります。つまりブレーキがない。

なにに似ているかというと偏執狂的なところも含めて2ちゃんねるの嫌韓厨が思い起こされます。違いがあるとすれば、嫌韓がアジア系同士の同族嫌悪的な部分が強いのに比べて、この無知なアクティヴィスト達は欧米至上主義者、ひどい場合には無自覚なアジアフォビアであるという点でしょうか。別に嫌韓のほうがましだなどとは言うつもりはありません。まあどちらに似たようなものだと思います。ただ困ったことに嫌韓は公的場面からはほぼ排除されているのに対して(ネットが公的場面なのかどうかは問題ですが)、おめでたいことに無知なアクティヴィストをありがたがる日本人もいるわけですね。土人扱いされているのも知らずに。

日本語がほとんどできないこともあって、もっぱら英語ソースに頼っているわけですが、ジャパン・タイムズとかジャパン・フォーカスとか左傾の英語メディア、また毎日新聞の英語版などが情報元になっているようです。ここから彼らの嗜好に合うニュースだけを選択して都合の悪いニュースは無視するわけですね。こういう非常に偏った情報環境にあって日本人とろくにコミュニケーションがとれない状態で同志うちで固まっていくわけですからどんどんカルト化していくのも無理はない。それで企業や学校に脅迫メールを送ったり、押しかけたり、裁判の被告のプライバシーを暴いたり、海外のメディアに登場して日本の悪口を言ったりするのですから実害が出始めている。困ったことにそのオーディエンスも日本語情報に接することができないので彼らのデマに簡単に同調してしまう。このネットにひきこもっているアクティヴィスト達の最大の問題は「日本人vs非日本人」というマニ教的な対立図式を奉じて日本人との間のコミュニケーションを拒絶している点でしょう。つまり差別的な個人ではなくて記号としての「日本人」(そんな実体は存在しない)と戦っている訳です。

さすがにこいつらおかしいということで最近になって英語のできる日本人ブロガーや日本のことをよく知っている在日外国人ブロガーが批判を始めています。どこかでブレーキをかけないとバックラッシュがいずれ来るでしょうから批判すべきは批判したほうがいいのでしょう。そのことはいずれ書くとしてまず私たちの与り知らないところでこんなプロレスが行われていることをとりあえず紹介しておきます。日本人ブロガーも日本語にどっぷりつかっていないで日本関連の英語ブログの世界を覗いてみて、また英語のある程度できる人たちはコメント欄などに下手でもいいから自分の意見を表明してコミュニケーションすることをおすすめします。いろいろ学ぶことが多いですし、相互性の欠如がどれほど不幸な事態を招いているのか身に染みて自覚できると思います。もっとも2ちゃんねらーみたいなノリで参加しないでくださいね。それは彼らを利するだけですから。

追記

誤解のないように言っておきますと、私はここで我々日本人は名誉にかけて「反日外人」と戦わねばならないなどと主張している訳ではありません。問題はコミュニケーションの欠如にあり、英語話者のネットワークで流言飛語が広まっている状況に敏感たれと言いたいのです。かなり不健全な状態だと思います。正確な中和的情報をどんどん流す一方で、日本人だけではなく在日外国人と協力して悪質な部分については周縁化していく戦術をとるべきでしょう。日本社会の側が在日外国人の声のうち正当とみなし得るものに対して謙虚に耳を傾けるべきことは言うまでもありません。一方、コミュニケーションを拒絶しようとする輩についてはイデオロギーではなく事実に基づいて批判していくべきでしょう。特にリベラルな感性の人々に言いたいのですがね、この手の状況を放置することで結果として社会の不寛容を高めてしまうんですよ。なお通俗的な日本人論をこよなく愛するのは文化保守と左翼とこの手の人々だというのはなんとも皮肉な話ですねえ。

再追記

「美学派」と「サブカル派」と「社会派」について言及しましたが、「日常派」に言及しないのはまずかったですね。心和まされるのは最後の人々です。こういう人々が多数派なのでしょう。

再々追記

このエントリを書いて以降、情報の多様化も進んで状況はだいぶましになりつつあるように思います。いくつかの悪所がつぶれ、無知なアクティヴィストへの批判の声も強くなりました。日本語ができる若い人達も増えていますし、将来にはさほど悲観的ではないです。

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