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抑止戦略におけるMDの位置

軍事的知識が乏しいにも関わらず、MDについては何度か言及してきました。現時点におけるミサイル迎撃能力の低さと開発コストを理由とした反対論に対してその政治的な意味合いから擁護したいという立場からです。もちろん過大な期待は禁物ですし、これに過度に入れ込むのはいろいろな意味でリスクがあるでしょう。通常戦力の強化を粛々と行うのが基本的には正道だろうと思います。

Coming Anarchyという人気ブログがミサイル防衛のネタをとりあげていました。軍事に詳しい人にはどう思われるのか分かりませんが、わたしみたいな素人にはなるほどなあと頷かせる話でしたのでメモしておきます。テーマは抑止戦略におけるMDの位置づけです。以下要約です。訳ではありません。

抑止(deterrence)とは軍事戦略である。本質的に抑止という戦略は敵の攻撃の決定にネガティヴに影響を与えることを目的としている。これは2種類の抑止によって達成され得る。ひとつは抑止、もうひとつが拒否的抑止(deterrence by denial)だ。前者は攻撃の際に敵に対する大規模な反撃で威嚇するもので、後者は敵の目標の達成をそれをする価値がないほどに困難にすることを目指す。前者の方法は相互確証破壊(MAD)の基礎として有名だ。

抑止にはいくつかの問題含みの仮定が存在する。まずその有用性は敵が理性的であり、理性的な決定を行うという仮定に基づく。またそれは意思決定過程における、技術的なものであれ人間的なものであれ、欠陥というものを許容しないし、敵対国家の意思決定過程におけるならず者(rogue)の影響もまた許容しない。最後に外交過程における失敗や誤解も許容しない。

こうした問題があるにもかかわらず、冷戦時代に抑止は機能した。歴史に名を残す大量殺戮者の一人たるスターリンはパラノイドであり、理性的な行為者と特徴づけるのは困難であるにもかかわらず、我々はなおここにこうして生きていらている。冷戦以後の抑止について最近公表された文書によれば、敵の心理に恐怖と不安を注入することに依存する概念枠組みは厳密に言って理性的なものではなかったし、またこの枠組みは機能させるのに理性的な敵を必要ともしなかったと言う。

ここまでが抑止についての一般論です。理論的にはともかく現実には敵が理性的でなくとも機能したという話ですね。恐怖と不安という人間心理によって。この後、MDの話に移ります。

ミサイル防衛はアメリカによって構築されつつあり、現在NATOによって支持されているが、イランや北朝鮮のようなならず者国家(rogue nations)による核攻撃を防衛するためのものである。イランは抑止可能なのかとかテヘランが核能力を獲得することを許容できるかとか議論されているが、抑止の歴史が教えるところでは、必ずしも敵対国家が理性的な行為者である必要はない。大規模な反撃を通じた抑止は、費用対効果の分析の結果をネガティヴなものにさせるだけではなく、恐怖と不安をひき起こすことも目的だからだ。しかし、ならず者の影響(ならず者司令官やその他個人)、欠陥のある意思決定過程(スタニスラフ・ペトロフの事例)、外交的失敗ないし誤解の可能性が残る。ミサイル防衛はこうした可能性に対するヘッジである。

以上のように抑止戦略にはもともと問題含みの仮定があったわけですが、MDにはこうした可能性を狭めるというヘッジの役割があるという結論です。より洗練された抑止体制を構築するのにプラスであるという評価ですね。相互確証破壊を崩してしまうから危険だという批判を目にすることがけっこう多いわけですが、これはむしろ補強するという説になるのでしょうか。もうひとつは抑止可能な相手とは誰かという話です。いわゆるならず者国家でも抑止可能であるという論点は、北朝鮮についてともかくも朝鮮戦争以降この地域で抑止は効いてきたというライス長官の発言を想起させます。最後に抑止不可能なものとして過激なテロリストの存在に言及して締めくくっています。世界が今直面しているのはこの抑止不可能な相手をどうするのか、どうしたらここに核が拡散しないようにできるのかという話なわけですが、我が国の世論はこちらにはどうも関心が向いていないような気がしますね。日本がイスラム過激派のテロの標的になるという実感が乏しいこともあって。中国や北朝鮮の軍事的な脅威についてこの世の終わりのような悲壮感でもって議論しているのを見ていると、まあでも基本的には抑止可能な相手だからそこまで興奮することもないでしょう、淡々といきましょうよ、と密かに思っているわたしは楽観的に過ぎるのでしょうか。

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