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フリー・コルシカ?

中国の反仏デモでデモ参加者の一部が掲げたハーケンクロイツの書かれた三色旗はフランスのメディアで大きくとりあげられました。大衆レベルではどうもこれがひとつの象徴になってしまっているようで、それはそれで不幸なことだと思います。別にこの旗ひとつのせいで中仏関係がどうなるというわけではないのですが、またそのせいで現在フランスで反中感情が亢進しているというわけでもないのですが、こういう画像というのは人々の無意識にけっこう訴えかけてしまうわけです。一部の愚か者の軽挙が無関係な多数の運命に直接的ではないにしても微妙な仕方で作用してしまう理不尽になにか言いようのない感情を覚えますが、これだけメディア化、情報化が進んでしまった世界ではこの種のノイズの果たす役割は無視できなくなるのでしょうね。

で、この旗にはジャンヌ・ダルク=娼婦、ナポレオン=変態、フランス=ナチとか中学生レベルの中傷が書かれていましたが、最後にフリー・コルシカ!というのがありました。これに対しては、は?という反応がフランスでも一般的なわけですが、Marianne2がこの件でコルシカに取材していましたので紹介しておきます。

その前に、コルシカの複雑な歴史については、日本語のWikipediaでも概要はつかめますので御一読を。この島の歴史は周辺諸国の動向に左右され続けています。先史、古代は割愛しますが、中世に入ってカール大帝がこの島を版図に組み込んだ後にローマ教皇に譲渡し、教皇はピサ司教にこの島の管理を委任しています。こうして中近世を通じてイタリアの都市国家ピサ、そしてジェノヴァの植民地の時代が続いています。コルシカ史にとって重要なのが独立運動の指導者であるパスカル・パオリ(1735-1769)の時代で、近代のコルシカ独立運動もこの時代の記憶に依拠していると言われます。パオリの下でジェノヴァに対する独立宣言がなされ、憲法、国歌、国旗、通貨、徴兵制など諸制度を創設しますが、フランスの介入によってこの近代国家樹立の試みは頓挫します。この憲法がフランス啓蒙思想家に与えた影響は意外に大きく、アメリカ合衆国憲法にも着想を与えたと言われるほどです。その後、ナポレオンを生み出したことで有名なフランス領コルシカになるわけですが、言語政策などを通じて徐々にフランス化します。コルシカのイメージにとってメリメの旅行記が果たした役割が大きいわけですが、日本でもヴァンデッタ(復讐)とマフィアの島のイメージはけっこうあるでしょう。

断続的に政治運動はあったのですが、1965年から1970年代にかけて地域主義者、自治主義者、民族主義者の運動が過激化します。有名なのが1975年のアレリアで医師エドモン・シメオニが先導した武装集団の闘争で死傷者も出ました。76年にはFLNCが民族自決権を要求しますが、政府は地域議会を設置し、2つの県に分割してこれに応じます。この後コルシカ議会が権限を徐々に拡大していくことで過激な主張は後退していきますが、孤立化する民族主義者によるテロが断続的に起こっています。今でもたまにニュースになっています。また民族主義者はマフィアとのつながりが深い。そういうわけでコルシカの民族主義者というとこわいイメージがあります。ちなみに選挙や調査の結果から島民の9割は独立は望んでいないことが知られています。文化的なアイデンティティーの主張という点で民族主義者が共感を呼ぶ土壌はあるようですが、フランスに経済的に依存していることもあり、高度な自治の享受というのが主流のようです。

話が前後しましたが、以下記事を訳します。コルシカのリアクションです。

「コルシカ人民共和国万歳!」[Marianne2]
中国の「フリー・コルシカ」のスローガンは美の島で困惑をもって受け止められている。民族主義者は別の同盟者を好んだだろうし、地方当局も別のスローガンを好んだだろう。

「フリー・コルシカ」。中国の新しいスローガンは皆にとって不意打ちであった。ボイコットとチベットの状況への非難に直面して、数万人の中国人が今週末、北京から昆明、青島を経由して合肥に至るまでの多数の都市でコルシカ独立を訴える旗を掲げた。美の島では・・・不満。

蛇のキス
一方で民族主義者は悦に入っている。この世界的に報じたられたデモは彼らの地獄の広告となっている。「ここではメッセージは広まったよ、もちろん。みんなそのことについて語っている。中国人がコルシカ独立を望んでくれたことは嬉しいよ」と独立主義政党Corsica Nazione Indipendenteの闘士ジャン・ギ・タラモニは反射的に喜ぶ。民族主義の指導者は北京を同盟者にしたいのだろうか。彼は言う。「別に驚かないよ。フランスはいつも全世界に人権について説教をするが、コルシカ問題でフランスに反対する人も稀ではないし」と。例えばパリがコソボ独立に賛成した時にセルビアのメディアにインタビューを受けたことを彼は誇り高そうに想起する・・・難しいのは、今週末にメディアで伝えられた中国の旗に「ジャンヌ・ダルク=娼婦」さらにはなんと「ナポレオン=変態」の文字を読むことができたことだ。なんのことだろう、フィガテーリ(コルシカのソーセージ)を食べて喉を詰まらせるではないか。もう一つの小さくない問題。民族主義者はチベット人よりも中国人の列に並ぶつもりなのだろうか?あえてオリンピックのボイコットを呼びかけることはしないが、自分の運動は「その文化が消滅の危機にあるもう一方の人民」への共感を表明せざるを得ない、とジャン・ギ・タラモニは認める。簡単に言うと、世界的な反響を呼ぶ支持を拒否し難いが、この支持は望んだようなものではないことを認めざるを得ない、ということだ。

不満は「共和主義」の地方当局の側でもっと大きい。コルシカ議会の議長のカミーユ・ド・ロカセラ(UMP)はチベットとこの美の島とのこの比較には「シュールリアル」なものを感じると述べる一方で、「このスローガンを重要なものとしないため」にどうするのかという事に関しては質問に答えることを拒否する。バスティア市長(PRG)のエミーユ・ズカレッリはもう少しまじめだ。「チベットの状況がそれほど深刻でないならば、中国政府によるチベットとコルシカの同一視はただの茶番で済むだろう」「しかし状況は私を意気消沈させる。なぜならフランスと中国の間の重要な差異─民主主義─を覆い隠すことをねらった馬鹿げた工作だからだ。コルシカ独立に関する議論は自由で民主主義的な選挙の際に選挙民によって常に多数によって拒否されている」と付け加える。もう少し静かにして欲しいと願っているようである。もし中国人が他の場所を見て「フリー・コルシカ」で旗を汚すのを止めるならば、ズカレッリは文句を言わないだろう。バスティアの市庁舎では警戒が走っている。「よし、彼らはTシャルを投げたのか」(意味不明。民族主義者のテロを警戒しているという意味でしょうか)。いや、まだだ・・・
(了)

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コメント

この中国の反仏運動といい、反欧米メディア運動といい、極めて参考になりますね。
日本の右翼の人も考えてもらいたいですね。
もちろん反論レベルが同じだというつもりはないですけど、やはり、欧米の常識、スタンダードに乗って反論していかなくては、彼らの感情を逆撫でして、逆効果。まあ、今回の中国の場合、大局において反論しようがないですから、むしろ黙っていた方が注目浴びずに済んだ分だけよかったかもしれませんね。マイネザッハさんの美女軍団作戦はまじ効果的だと思いますが、日本の街宣右翼もあれ、採用したらいいとおもいますけどね・・・

投稿: 空 | 2008年4月23日 (水) 23時05分

ええ、本当に日本の右派も自己満足の世界からはやく卒業してほしい。国際派の保守層が育たないようでは困ります。慰安婦の決議案の時の広告は本当にがっくりきました。もちろんいわゆる「歴史認識」ではなく宣伝の次元の話です。あちらの文脈を研究しないで生の声をぶつけてしまうとは、あちゃーという感じです。

また政治的中道層がもっと声を出して極端な連中を言論の世界で周縁化しないといけないのですが、残念ながらこの層が大人し過ぎるのが問題です。またイデオロギー的なものへの免疫がないのかなんとなく同調してしまう。結果、左翼だの右翼だの人口的超少数派の声ばかりが国内はもとより海外メディアの注目を集めてしまう。

街宣右翼についてはいわゆる反社会勢力として認定できる部分(マフィアとのつながりがはっきりしている部分)は、公権力が断固たる意思をもって介入すべきだと思っています。また民間企業などへの脅迫等を通じた圧力に対してもどんどん告訴できるような支援体制を社会の側がつくっていく必要もあるでしょう。このへんの甘さは日本のいいところのようでもありますが、やはりよくないところだとわたしは思います。

投稿: mozu | 2008年4月24日 (木) 01時43分

追記
別に右翼だけを弾圧せよというつもりはないのでその点強調しておきます。言論の自由は当然確保されるべきで、明らかに反社会的な勢力に関しては極右だろうが極左だろうが殺人カルトだろうが公権力が介入して市民社会をきっちり守りましょう、そのために我々の自然権の一部をトラストしているんですからという主旨です。

投稿: mozu | 2008年4月25日 (金) 06時42分

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