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サルコジ=ゴーリスト?

NATO首脳会談関連のニュースに絡めてサルコジが「アトランティスト(大西洋主義者)」と目されている点について簡単に触れましたが、その点に関しては実に膨大な議論があるようです。フランスのメディアからはアメリカのポチ呼ばわりされていますし、また英語や日本語のメディアを漫然と追っているとやれアメリカでI love youのラブコールをしたとかイギリス議会で英国崇拝者のような演説をしたとかいったニュースばかりでその印象は強化されるものと思います。エルヴィスの物真似をした小泉首相のイメージと重なるむきもあろうかと思います。

アメリカの圧倒的な影響力を前にしてフランスの独自性を守ること、また欧州という地域秩序において主導権を握ること、こうした国家目標からフランスが冷戦の最中にあって西側陣営に属しつつも多大なるコストをかけて独自外交路線をとり続けたことはよく知られていると思います。ゴーリスムと呼ばれるもので、これは左右関係ない。例えば、左翼のミッテランもゴーリストです。NATO統合軍事機構からの脱退がその象徴でしたから、これに完全復帰しようとするサルコジが反ゴーリストと目されるのも当然の話です。実際、フランス・メディアもそのラインで報じています。衰退する大国アメリカと接近するのは誤った賭けだと左右の多極主義者が激しく批判する一方で、テロとの戦いで英米と連携すべしと親米主義者(少数ですが)は拍手喝采しています。

この点に関してわたしはやや違った印象をもっているのですが、Justin Vaisseというブロガーのエントリがこのアマチュア的な印象を強化してくれる内容でしたので紹介したいと思います。この論者は「サルコジ、コンプレックスなきゴーリスト」というエントリでサルコジ外交が第5共和国のすべての大統領が共有したコンセンサスの路線の中で展開していることを論証しようとしています。

サルコジ外交を批判するジャーナリスト・ブロガーに対して、まず「アトランティスト」と「ゴーリスト」という概念の使用は事態を明確にするのではなく逆に不透明にするだけだと主張しています。実際、フランスは既にNATO統合機構に80%以上参加しており、時には軍事作戦を指揮し、いくつかの分野ではリードをしていると指摘し、残りの20%の敷居を超えることもフランスの独自政策を放棄することにならないと論じます。

老いたるゴーリストといった感のあったシラクについても、1996年と97年にNATOの軍事統合機構への復帰を宣言していたこと、しかもサルコジよりも少ない復帰条件であったこと、そればかりでなくコソボの時にNATO内部でその影響力を行使したためにアメリカに嫌われたことを想起させています。NATOの外にいて独自外交をできるのは当然だが、NATOの中にいて独自外交もできるのだといくつかの事例を挙げて結論づけています。

なぜ人はサルコジを「アトランティスト」とみなし、アメリカの友と呼びたがるのか、それは第一にサルコジ自身が戦略的な断絶を語っているからであり、第二にジャーナリストが彼の語ることの詳細や歴史を無視してただサルコジの言葉を繰り返しているからだと言います。ゴーリストのシラクからアトランティストのサルコジへと実にマスコミが喜びそうな対比であると。第三にジャーナリストやオブザーバーが見ていないのはイラク戦の時のシラクはそれ以前のNATOに接近したシラクとも、その後の米仏和解がなされた時期のシラクとも違っていることを忘れているからだと言います。実際、サルコジは政策的な対比ではなく、知覚的な対比を利用しているに過ぎないのだと。

米仏関係や英仏関係の重要性について演説するのもほぼすべての大統領がしたことであるとして、ここでキューバ危機の際にキューバに同情的であった国民世論と対立して米国に「留保なき友情」を誓ったド・ゴールの例を挙げ、彼はアトランティストなのかと問うています。

そしてサルコジの演説をとりあげ、「国際舞台におけるフランスの代替不能な役割」とか「欧州がもっとも強力な極になるべき多極的世界」とかいった文句はまさにゴーリストのものであり、国民国家を国際システムの基本単位とみなす点も、軍事力を主権の根源とみなす点も、統制経済主義的でフランス経済の防衛者としてふるまう点もすべてド・ゴールを想起させると言います。そしてなによりもド・ゴール同様にプラグマティストであると。

最後にサルコジの言葉は確かに親米的でアトランティスト的ではあるが、その行動との間には大きな溝がある点を指摘しています。以下サルコジ外交の特徴を断絶と連続性とに分けて列挙しています。

「アメリカの要求に合わせた断絶」

アフガニスタンへの軍の派遣

「ゴーリスト・シラクとの連続性」
イラン 言葉遣いが強くなっただけ
イラク 米仏の具体的な協力がなく変化なし
イスラエル・パレスチナ 言葉遣いだけ変化
欧州防衛の独立性 サルコジの方が熱狂的
NATOとの再接近 基本路線の継承
中国への武器禁輸の解禁要求
反ワシントン的な気候変動問題への態度

「アメリカの要求に反する形でのシラクとの断絶」
トルコの欧州連合加盟の拒否
シリアとの対話
レバノンの交渉でのヒズボラの取り込み
チャベスの歓迎

といった具合でむしろシラク以上にゴーリストなんじゃないのという結論になります。事例のとり上げ方で変わるでしょうが、こうして見ると確かにどこに断絶があるんだということになります。言葉と行動の間の落差がすごいわけでこれが吉と出るのか凶と出るのか分かりませんが、日本の政治家にもこれぐらい派手なワード・ポリティクスができるといいのだがなあ・・・という素朴な感想が湧きます。まあ日本は無理せずに誠実外交でいいですけどもね。

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コメント

フランスの状況というのはほとんど無知でしたが、非常に参考になりますね。
日本の場合、やはり選択肢が少ないのが、つらいところですね。

投稿: 空 | 2008年4月 5日 (土) 17時12分

戦後の日本外交もアメリカに対しては実はけっこういろんなカードを切っているんですけれどもね。ソ連カードとか中国カードとか中東カードとか。かならずしもアメリカべったりであったとは思わないし、実はアメリカもそうは思っていない。日本とフランスを並べて独裁国との寝技が得意だからな、あいつらとよく言っています。

選択肢が少ないのは軍事的に抑制的であらねばならないという国民的合意から来るものですからそれはそれで致し方ない。この点で外務省を責めるのは気の毒な話だと思います。弱点はありますけど、よくやっていると思います。なんか偉そうな言い方ですけれども。

投稿: mozu | 2008年4月 5日 (土) 19時11分

なるほど、おもしろいですね。
私はアジアにNATOに近似するような組織があったほうが安定し、また、日本も選択肢が増えるんじゃないか、とも思うのですが、どうでしょうね。

投稿: 空 | 2008年4月 6日 (日) 03時02分

アメリカとの二国間の同盟関係しかないですからね。同盟国同士の横のつながりを密にしていくというのはあるでしょうね。ただNATOみたいにまとまる理由がはっきりしない。共通の敵は誰なのか。対中国ということで一致できるのかどうかは不透明ですね。また中国も入れた枠組みとなると現在では難しいでしょう。そういう信頼は中国にはまだないし、中国自身望んでいないでしょうから。欧州にくらべるとアジアはなんとも混沌としていますね。

投稿: mozu | 2008年4月 6日 (日) 10時24分

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