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学生売春をめぐるファンタズム

なにもこの世の中から一切の嘘や誇張や偏見がなくなる日がやって来ることを痛切に待望するだとかあるいはそういう輝かしき時の到来に向けて努力を惜しまないことが人として大切であるとかわたしは信じているというわけではないですし、人が自分の信じたいことを信じ、信じたくないことは無視するという傾向性は、わたしも含めてですが、有史以来変わりがないようですから、それはそういうものなのだと言えばそれまでの話ではあります。

とはいえできるだけ正確な像を提供しようという努力に対して声援を贈りたいものだなというぐらいの心がけは持ち合わせてはいます。前に後藤氏のサイトにリンクして少し言及しましたが、90年代以降の若者をめぐる諸言説が社会科学的方法論を十分に経由していない、また定量的なデータではなく例外的な事例の一般化に基づくファンタズムに等しいようなものばかりであったことはどうも確からしいようであります。こうした中和的言説が主流メディアを流れないという問題はどうやら日本ばかりの話ではないということで、ちょっとフランスの話が続き過ぎのような気がもしますが、日本でも報じられた仏国における「学生売春」幻想の事例を紹介したいと思います。

またたびたびお世話になっているRue89からです。ちなみにこれは左翼誌リベラシオンの元記者達が中心につくったインターネット新聞ですが、主流メディアの制約に飽き足らないジャーナリストがネットを舞台に対抗言説をつくるという動きは非常に活発でありまして、その論調は時にどうなのだと思わせられることもあるのですが、やはりジャーナリズムの精神は確かに強かに生きているのだなと感心させられることが多いのもまた事実です。

「学生売春。数はわずかだが、幻想は巨大」という記事によると、まず2006年にle syndicat SUD-Etudiantという学生団体が40000人の女子学生が売春を行っているという報告をしたのですが、この時にはメディアにほとんど採り上げられなかったといいます。それが2007年末にMax Miloという出版社から2冊の学生売春に関する本が出版されたことで大騒ぎになります。エヴァ・クルエさんのトゥールーズ大の社会学課程の修士論文と学業のために売春をしている学生のローラ・Dさんの証言本の2冊です。

この本によると彼女達の動機は同じで、学費、家賃を支払うためにお金が必要だということらしいですが、で予想通りにこの「学生売春」は既に強力な記号として機能し始めている模様です。これを新しい時代のセクシュアリテのあり方として容認するリベルタンとフランス社会の道徳的退廃を嘆く道徳主義者の間の言説ゲームのコマとして。なんだか見たような光景ではありませんか?

でイデオロギーズはとりあえず置いといて、実態はどうなのだという問題があります。先ほどの学生組合の40000人という数字、実に学生の57人に1人が売春をしているというこの数字がメディアを駆け巡っている模様であります。警察発表によると、フランス全体で売春をしている人は15000人から20000人といいます。そしてそのうち学生はミニマムな割合でしかないという発表です。また国立売春研究所(というのがあるのですね)によると、学生売春は「周縁的な」現象でしかないそうです。これはOCRETHという組織も認める事実だそうで、それによると、「学生売春はむしろ個人的で臨時の活動である[...]この現象は人目につかないので数量的に把握するのは困難である。また非難されるべきものとも言えない」と。

ではこの40000人という数字がどこから出たのかという問題になりますが、これは例の学生組合のアジビラに書かれていた数字だったのだそうです。で今はこのビラは取り下げ、ネットのホームページでも数字は掲げていないといいます。組合は学生の貧困についての2000年のドーリャック報告を掲げて自己防衛しているそうですが、この報告には売春に関する情報は含まれていないそうであります。

国立売春研究所によれば、学生売春の神話は真実というよりも「都市伝説」と呼ぶべきものだそうです。「フランスには特別に学生売春現象なるものはないけれども、ネットを通じた臨時の売春現象は存在している」そうですが、その中で占める学生の比率はそれほど高いものではないといいます。またL'OVEという組織によれば、学生売春に関するいかなる情報も確かな数字もなく、メディアを流通する数字は「注意して扱うべきだ」が、前に出た2000年の報告書に基づいて貧困学生の問題を訴えたそうです。記事は学生売春をめぐるこの珍騒動は少なくとも学生の貧困という問題に光をあてたという意味でのメリットはあったようだ、これを改善する措置をいつとるのですか、と締めくくっています。

以上のように世界中で報じられた─日本でも一部でWaiWaiやってました─この学生売春はどうやら社会問題を捏造したがる社会学と儲かれば事実などどうでもいいメディアがつくりだした幻想といっていいようであります。この記事のコメント欄で日本でも報じられたワールドカップの際にドイツで売春が爆発的に増加したというニュースについて触れて、これもまったくのデマであったことを訴えている人もいました。眼鏡女子大生と出会いたいという俺の幻想は叶えられないのか、がっかりな話だ、みたいなコメントもありますが、ともかくこの種のセックス・ニュースは本当に食いつきがいいわけでして情報の取り扱いには細心の注意をしないといけないのですよ、いいですか、毎日新聞さん。

PS. ルール無視の自殺報道がまた自殺の連鎖を生み出しているという話もありますね。こちらはまったく洒落にならない話ですから、報道規制をかけるよう諸機関による働きかけを求めます。公権力の介入は最小限であるべきだと思いますが、このような状態が放置されるようでしたら、生死にかかわる問題でありますから、どういう形かは議論があるでしょうが、介入の正当化も可能だろうと思います。

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