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欧州極右近況報告

90年代から再活発化した欧州の極右の動きについては日本でも時々報道されることがありますのでみなさんもご存知のことでしょう。ここ十数年で「欧州の右傾化」は確かにずいぶん進んだものだなあという印象を持ちます。ここで極右というのはutra-rightとかextreme droitと呼ばれる立場で単なる右派(保守)とは異なりますが、なだらかな連続性もある。もちろん右派は極右を激しく非難し、自らを中道右派と位置づけます。ここでいう連続性とは選挙で極右の支持層を取り込むために、また奇麗ごとでは済まない現実に対処するために、徐々にその主張を受け入れていったプロセスを指しています。実際には右派だけでなく、左派もかつては極右の専売特許だった主張を密輸入していますから、全体として「右寄り」になっていくわけですね。何が右で何が左かはもうよく分からなくなっていますが、ともかくそうメディア的には認識されている。

フランス、イタリア、オーストリアあたりの例が日本では比較的知られていると思いますが、かなり裾野は広いです。極右の支持層というのは国によっても違いますが、多くて10%程度でしょうから、なにかとてつもない政治変動でもない限りは、ファシズムの復活!と左翼がパラノイア的に喚くような事態にはならないでしょう。が、現在の欧州の政治風景を理解する時に無視できる存在ではない。日本の極右(右翼)はアウトロー的な存在ですが、欧州の極右は特に地方議会でけっこうな議席を持っていますし、欧州議会の議員も出しています。

ここしばらく沈静化しているような印象を受けますが、極右の近況についてフランスの有名なインターネット新聞「89番通り(rue 89)」にジャン・イヴ・カミュという専門家による関連エントリがありましたので紹介したいと思います。まず「都市のイスラム化に対抗する極右諸政党」という記事が概観をつかむのに便利です。最初にイスラムという存在が欧州極右を分裂させていると述べています。例えば、フランス国民戦線党首の娘マリーヌ・ル・ペンがスイスの著名なイスラム知識人ラリク・ラマダンと討論したり、ドイツのNPDのような過激グループが反ユダヤ主義的観点からハマスやイランを支持する一方で、多くの民族主義的な政治勢力が今年1月にアンヴェールという都市に集結し、「イスラム化に対抗する都市」運動を訴えたと言います。つまり、乱暴に言うと、反ユダヤ親イスラムと反イスラム親ユダヤというたすきがけ的な対立です(もちろんどちらでもないのもいる)。それで後者が徐々に増えていると。

アンヴェールの集会を指導したのはベルギーの「フラマンの利益」党首のフィリップ・デウィンターですが、オーストリア自由党のハンス=クリスティアン・ シュトラッへ、ドイツのプロ・ケルン(Pro-Köln)運動の弁護士、元国民戦線で現在は地域主義運動「アルザス第一」のリーダーなどの人士が集まった模様。またドイツの「共和派Republikaner」やイタリア、デンマーク、オランダ、スペインの団体も参加したそうです。なんというか壮観です。

これは広く指摘されていることですが、この記者が注目しているのはレトリックの変化です。もともと極右は文化主義的、人種主義的なレトリックで反移民の主張をしてきたのですが、911テロ以降、イスラムへの恐怖を煽るなど宗教的なレトリックに変化している。このテーマは白人キリスト教徒の欧州連合を訴える「アイデンティティー派」と呼ばれる極右勢力、それから右派と極右の中間にあるような勢力によって使用されているそうですが、後者の例として「フランスのための運動」、スイスのUDC、ノルウェーの進歩党、それからオランダの自由党などが挙げられています。最後の自由党のヴィルダースは例の反イスラム映画で話題になったばかりの人です。この両者の特徴としてイスラム過激派ではなくイスラムそのものに反対していることです。彼らによればイスラムは欧州の大地になじまず、不当な要求ばかりをする存在である。ヴィルダースに至ってはマインカンプと同様にコーランの販売を禁止すべきだと主張しているとのこと。むー、そこまでの人でしたか。

フランス新右翼のギヨーム・ファイエが「新しいユダヤ人問題」を2007年に出版しますが、このイスラムに対抗すべくシオニストと連携すべしという本は成功を収めたそうです。というわけで上に名前の挙がった極右政党の多くが反ユダヤ主義的な起源をすっかり忘れて親イスラエル的な言説に変貌したとのことです。この反イスラムのトランスナショナルな動きですが、マルセイユに2007年12月に設立された「ヨーロッパのイスラム化にストップ!」(SIOE)が今後のコアになるものと記者は睨んでいます。

また同記者の「国民戦線内部の分裂から新しい党が生まれる」によると、2007年の大統領選挙でサルコジに票を奪われて大敗した国民戦線が、ル・ペンの娘のマリーヌの「近代化路線」をめぐる対立と同党の後継者争いで分裂状態に陥っているそうです。3月29日にパリで分派が新しい運動を開始したそうですが、その核となるのが「移民侵略とイスラム化の拒否」「我が文明の基本的価値の擁護」「強い欧州の建設」といったイデオロギーだそうで、これは上に述べたように、全欧州的な極右の二極分化の傾向を反映しているとみなせます。つまり一方は国民国家の枠組みに忠実で、国民国家内部の多民族性への進化をある程度認める方向(マリーヌ・ル・ペンに代表される)と完全に反統合主義的かつイスラム嫌悪の欧州というものに立脚して欧州ナショナリズムを訴えるトランスナショナルな方向と。お気づきのように、ここには欧州主義的な極右よりも国民国家派の極右の方が移民に対して相対的に寛容だという逆説があるようです。

当たり前ですがこうした勢力には対抗する勢力もあり、またほとんどがこうしたイデオロギーはくだらんと思っているわけで、今後も基本的には少数派にとどまると思います。というわけでここだけとって欧州はどうだと議論はすべきではないのですが、欧州の政治動向を理解する上で極右運動というのはある種の症例として捉えていく必要はあるでしょう。上の例だけでも、地域主義、民族主義、国民国家主義、欧州主義の軸があり、さらにキリスト教、イスラム教、ユダヤ教という宗教の軸が出てくる。なお日本ではどうも欧州統合を国民国家の枠組みを乗り越える実験として無批判に褒めそやす傾向がいまだにあるような気がしますが(反米的な意識の持ち主に特に)、そんなに単純なものではありませんよということは強調しておきたいと思います。欧州在住のブロガーの方がここは肌感覚でよく理解していると思いますけどね。

PS ここで出てくる国民戦線のマリーヌ・ル・ペンですが、中絶や同性愛への寛容を訴えたり、反ユダヤ主義を批判したり、ムスリムとの対話をしたりとソフトな路線をとっています。こうなると極右というよりも伝統保守ぐらいのほうがいいような気もしてきますね。政治的レッテルなんてつまらぬと言えばそれまでの話ですが。

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