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チベット経営はペイしない

雪斎殿が相変わらず非情なまでの正論(褒め言葉です)を述べておられますが、確かに現在、中国に石橋湛山がいるならばチベットなど放棄せよと主張することでしょうね。ご承知のように湛山は日本帝国の植民地経営がまったくの持ち出しであることを根拠に植民地の全面放棄を訴えた戦前を代表する自由主義者です。というわけで中国にとってチベット経営は経済的観点から言ってどうなのかという問題について、時に抑えた筆致で冷酷なまでの正論(褒め言葉です)を語ることで知られるEconomistの"Skewed gains"という記事がありましたので訳して紹介します。

中国によるチベットへの大規模投資はほとんど成果がない
中国西部の奥地の開発に取り組んでいる指導者に対して、チベットでの今回の騒乱と引き続く緊張は控えめに言っても大いなる困惑をもたらしている。ラサでの漢族やムスリムの回族のビジネスへの憎悪の爆発はこの「自治区」への北京からの記録的移転支出や大規模な商業的投資というコストによって保証された安定というファサードを打ち砕いた。多民族の調和的共存が国家プロパガンダの中核のひとつではあるが、チベットの急激な経済発展は、貧困なままで北京の寛大さとかいうものに不満と猜疑心を抱く大多数のチベット人に潤いをもたらしていないことが今や明らかとなった。

実際、今日の状況は1980年代末の騒乱の頃よりも不安定であると北京在住のチベット人学者Wang Lixiongは論じる。というのも中国統治への怨恨はチベット農民や国の労働者にまで広がっているからだという。「1987年の最後の大規模騒擾と1989年の騒乱の際に戒厳令がしかれたが、ラサ市に限られていたし、僧侶、知識人、学生だけが関与していた」と。「しかし今回の騒乱はチベットの他の地域へ、そしてあらゆる方面の人々へと広まった」と彼は言う。

民族的に排除されている
騒乱発生以来、中央政府の役人達はチベットでの開発政策を騒々しく擁護し、大規模予算の補助金の成功や、地域の経済成長を駆動する国の補助を受けた投資について長々と論じ立ててきた。しかしチベットに注目するロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのエコノミストのアンドリュー・マーティン・フィッシャーによれば、2005年までだけだが利用できる詳細な統計が示すのは「民族的に排除された成長」パターンだ。実際、チベット経済は2000年から2005年まで2倍に規模を拡大した。しかしこの成長は政府と党組織が絡む第三セクターの急激な拡大、それから西海チベット鉄道や新しい高速道路網のような巨大インフラ建設ブームによって駆動されたものである。

この政府がスポンサーとなった発展の真のコストはきわめて大きいものだ。例えばフィッシャー氏によれば2001年にチベットの経済成長の1人民元あたりで中央政府の支出は2人民元にも拡大した。この年だけでも国家支出は75%も拡大した。2004年までに0.65人民元の経済成長のために補助金や国の投資の1人民元が必要であるといった風にこの状況はわずかにしか変化していない

道理に合わないことに、巨大国家プロジェクトの建設と政府と党組織の拡大のためのこの不均衡な巨額の政府支出はチベット社会の社会格差を拡大した。チベット人メンバーを含むほんのわずかな地元住民、役人、その他の国の労働者が、貧しく、農民的で、文盲なままの大部分のチベット人を犠牲にして裕福となった。教育を促進し、官僚の脂肪を減少させるために適した支出がなされている他の地方とは異なり、チベットでは治安への懸念がこの反対を要求した。2005年の政府の投資全体の6%しか教育に向けられていないとフィッシャー氏は明らかにする。その一方で13%が政府と党組織に関係する部門に費消された。その結果として2005年には、チベット人口の45%は文盲なままで、彼らは北京語の知識を不可欠とするこの経済的チャンスから利益を得ることができなかった。

中央政府は中国共産党指導部によるこの遠隔地とチベット人民の飼いならしの長期的な模索を継続しているところだ。巨大な天然資源がこの自治区には埋蔵されている。中国最大のクロム鉱と三番目の銅鉱などである。2000年に前主席の江沢民によって開始された大西部開発政策(「ゴー・ウェスト」)の下でチベット経済の中国経済への統合は新しいインフラ建設や中国の他の地域からの経済移民の流入とともに加速されてきた。

しかし胡錦濤新主席、温家宝首相の新指導体制が開始された2003年になってはじめて中央政府はチベットを含む中国の後背地の開発を緊急の優先政策にした。胡氏は中国西部の党役人として働いた長い経験を持ち、内陸地方の恵まれない大衆に経済的繁栄をもたらすることを最も重要な仕事のひとつと見ている。チベットに勤務した(1989年の政治的な暴動を戒厳令をしいて処理した)政治局常務委員会の唯一のメンバーとして、彼はこの自治区の党メンバーの人事や中央政府の経済政策の運営を監視している。

2006年に胡氏はラサと他の鉄道網とを結ぶ世界最高度にある青海チベット鉄道の除幕式を執り行った。社会福祉プロジェクトとみなされるこの鉄道は、チベットと他の地方の交易を刺激し、この遠隔の山岳地帯への旅行者や経済移民のより便利なアクセスを可能にする手段となってきた。

哀しいことにこの両面で達成された成功が普通のチベット人をさらに疎外したのだ。チベット旅行局の統計では自治区は2007年に400万人以上の旅行者を集めたが、この年にはじめて280万人の人口を旅行者数が追い抜いたのだ。同時にラサへの経済移民は激増し、30万人もの非チベット人が流入したが、これはチベットの古都の住民の2倍である。こうした活動は農業や牧畜を営むチベット人の大部分にほとんど経済的インパクトを与えていない。産業からの利益─大部分はチベット外からの移民がコントロールしている─は地元で再投資されるのではなく移民の故郷の地方へと送られている。

回収見込みのないプロジェクト
未来の政府の政策がこの経済パターンを変化させることを示すものはほとんどない。例えば回収見込みのないプロジェクトへの投資の傾向は減少しない模様だ。中国人のエンジニアは最近2億ドルをかけてエベレストへの108キロメートルの新高速道路を完成させて、6月にチベットを通過する聖火リレー─300人の走者が聖火を運ぶ予定だ─のためにこれを開業させることを望んでいる。

おそらく中央の政策担当者の製図板から出たチベットのための開発プランで最も議論の的になっているのが「大西部ライン」と呼ばれる新しい水利計画である。これは水路、トンネル、貯水施設の建設からなり、チベットから水を中国北部の乾燥した平原まで引くというものだ。この部分的に地下をも利用する人工水路は毎年80億立方メートルを運ぶことができると言われる。しかし開始日はまだ決定されていない。もし中国指導者が常識をわずかでも持っていたならば、この計画を無限に延期するだろう。
(了)

というわけで完全に持ち出し経営で地元のチベット人にも還元されていないという予想通りの図のようです。以前放映されたNHKのよく出来たドキュメンタリーでその雰囲気の一端は伺い知れましたが。あれ、今売ったらどうですかね、NHKさん、世界中で需要がありそうですよ。

以前のエントリで満州国を「新帝国」概念で捉える論文を紹介しましたが、それと同じパターンです。曰く反植民地主義的で多文化主義的で啓蒙主義的なプロパガンダと古典的な「搾取型」ではなく「開発型」の従属地域経営の組み合わせ。グローバルな覇権目的なので経済的にはペイしないというのが日本および米ソの帝国の特徴だったそうですが、それをどういう名称で呼んでも構いませんが、そのまま現在の中国に適用できそうですね。

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コメント

経済的にいえば、チベット維持というのはペイしないのでしょうね。
後進国としてが先進国と肩をならべようとするときの「意地」のようなものがあるのでしょうか?
それと、チベットを手放したときの他の地域への波及効果、すでに流入してしまった漢民族、そして強力なナショナリズムを抱いている国民への面子のようなものがあるのかもしれませんね。

投稿: | 2008年4月12日 (土) 03時36分

表には出てきませんが、中国の国際協調主義的な自由主義的なエコノミストの中にはきっと石橋湛山みたいな発想をする人はいると思いますよ。経済合理的な発想をすれば当然でてくる結論だと思います。でも現実にはそうはいかない。帝国を維持するという政治的、軍事的発想の方が上回るのでしょうね。

特にソ連崩壊を目撃したトラウマがあるんじゃないでしょうか。引き金を引いたのはバルト三国の独立でしたが、連鎖的に連邦崩壊までいきましたから。共産党政権にとっては悪夢のシナリオなんだと思います。国際的にどれだけ非難されてもチベットを自ら放棄するようなことはないでしょうね。

投稿: mozu | 2008年4月12日 (土) 04時25分

中国の胡錦濤が「チベットは自分のものだからチベット人を大量虐殺してもいいんだ」とうそぶいているのは最悪だ。胡錦濤はマスコミ人に袖の下を渡してこっそり数百万人ものチベット人らを虐殺してきた凶悪な殺人鬼だ。てめえは漢族に生まれたのをいいことにでかいツラをしてウイグル人やチベット人らの大量虐殺を楽しんでポストをもらったが、ウイグル国やチベット国は独立国であって漢族のものではない!周りの国を全部漢族の奴隷にしてやるとたかをくくっているようだが、大量殺戮によって資源を独り占めして栄耀栄華を送っている漢族を決して許すことはできない!海外でも家来にした現地日本政府を操って、何の罪もない新井泉さんを長いあいだ強制的に監禁虐待してすべてを強奪して虐殺している漢族はまさに凶悪な悪魔だ。北京オリンピックなどやめろ!

投稿: ともよ | 2008年4月13日 (日) 13時55分

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