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最適通貨圏なんて関係ないさ

欧州経済の見通しについてやや暗いことをこれまでにもちょこちょこ書いてきましたが、Economistのユーロ懐疑派の雄たる「シャルルマーニュ」がわたしが想像しているのと完全に同じ図柄を分かりやすく描いていましたので訳して紹介します。わたし個人はラテン諸国への思い入れがあるのではありますが、さすがに経済に関してはアングロサクソンの洞察力のほうを信じてしまうわけでしてユーロに関しては懐疑的なスタンスをとってきました。ここまでなんとかもってきたわけですが、さてユーロ圏はこの危機を乗り越えられるのか。ベルルスコーニ・サルコジ枢軸がどう出るのか見物であります。

「強いユーロに立ち塞がる危険」
ユーロ圏は内憂外患に直面する

2001年1月のダヴォスの世界経済フォーラムのムードは沈鬱だった。ドットコム・バブルが派手にはじけ、ナスダック証券市場が崩壊し、アメリカ経済が景気後退へと転じようとしているところだった。しかし大陸欧州人のほとんどが陽気で楽観的だった。アングロサクソンに自分達のやり方が不適切だと説教される長い年月も終わった。欧州は賢くもドットコム熱を回避し、新通貨ユーロは大陸を景気づけていた。世界経済の牽引役を引き受けることを夢見る欧州人すらいた。しかしそうはならなかった。欧州はすぐにアメリカ以上に深刻な景気後退へと落込んだのだ。

7年後のこの平行性は異様なものがある。大陸欧州はアメリカのサブプライムの愚行を賢明にも回避したと論じられている。銀行の状態はよく、平均7.1%の失業率は20年で最低水準で、ユーロは再起している、人を惹き付ける欧州経済委員会のホアキン・アルムニア委員は景気後退の兆候はどこにもないと主張している。委員会は今月末に経済見通しを調整する予定だが、ユーロ圏の成長率は今年も2%近くにとどまりそうだ。フランクフルトのECB(欧州中央銀行)がアメリカのFed(連邦準備理事会)のようにクレジット・クランチに対応して金融システムに流動性を供給したのは事実だ。しかしFedとは違ってECBは金利を引き下げる必要性をそれほど感じてこなかった。

しかし2001年の時のようにユーロ圏の経済見通しは楽観論者が期待するよりもかなり急速に悪化しているように見える。結局、ECBが金利引き下げに消極的な最大の理由は成長の足下が堅固だからではなくインフレが3.5%─ユーロ導入から9年で最高の水準─まで上昇したからだった。地域最大の輸出市場の困難─アメリカの景気後退とイギリスの減速─が効果を発揮し始めている。とりわけドイツからのアジア向け輸出は強かったが、ほとんどの国で神経質になっている消費者は消費に積極的ではない状態だ。

そして二つのより大きな懸念が浮上した。第一にユーロの強さだ。弱いドルはアメリカの輸出ブームをひき起こしている一方で強いユーロは欧州に反対の効果をもたらしそうである。アルムニア氏はユーロは過大評価されていると述べ、そのインパクトはここまでは緩やかなものだが、「私達は限界を越えていないにしても限界に達している」と付け加える。ユーロ圏の輸出がこのコストにもかかわらず快調であり続けると想定するのは錯覚だ。

第二の懸念は住宅市場だ。欧州はアメリカのサブプライム禍を回避したかもしれないが、いくつかの国では住宅価格はアメリカよりもバブルになっていた。スペインとアイルランドでは既に価格は下落しているし、ユーロ圏の外ではイギリスでも下落し始めている。不動産の値崩れはアメリカ式のモーゲージの大暴落を生まないかもしれないが、建設に過度に依存している(スペインとアイルランドのGDPの15%以上に相当)経済を確実に揺るがすだろう。

実際、アルムニア氏の故郷のスペインが特に被害を蒙りそうだ。アングロサクソンのコメンテイターはスペインの見通しについて過度に悲観的だと彼は言い張るが、急激な下落の印は再任された首相ホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ氏にも明瞭に理解されている。首相はスペインがこの「動乱」を切り抜けるように財政的刺激を与えることを宣言した。スペインが最近のユーロ圏の成長の核で、ユーロ圏の半分近くの雇用が生み出されたことを考えると、その減速は大幅に実感されるものになるだろう。経済だけではない。例えば動揺する経済でCO2輩出削減の欧州の野心的な計画を売り込むことも難しくなるだろう。

ユーロ圏経済のパフォーマンスが異なっているために政治的な副産物は別の方面でも実感されるだろう。フランスとイタリアはドイツよりも大分弱いとアルムニア氏は認めている。まもなくフランスとイタリアの指導者が(シルヴィオ・ベルルスコーニが今度の選挙に勝利したなら特に)ユーロの強さやECBの柔軟性のない金融政策についてギャーギャー叫び出し、おそらく自国の産業が「不公正な」競争から保護されるよう要求し出すだろう。一方、ユーロの強さに満足し、ECB批判を常に嫌うドイツによってこうした圧力は抵抗を受けるだろう。

成功の暗い面
ユーロが世界通貨としてドルのライバルとして10年ほどの間地位を確立し、大変な成功を収めたことはユーロの批判者ですら認めるだろう。しかしこの成功は二つの弱点を覆い隠している。第一にいくつかの国は他の国よりもユーロの規律に優等生的に対応してきたということだ。ドイツとオランダは労働コストをカットし、経済を競争的にするための改革を導入した。フランス、スペイン、特にイタリアはそれほどのことをしていないし、ユーロの上昇とグローバルな減速の両方に苦しみつつある。

第二の弱点は成功の皮肉な裏面だ。1990年代末にユーロの資格を得るのに、イタリアやスペインのような国は大幅な財政的、構造的適用をしなければならなかった。しかし通貨危機から弱い国々を守ることでユーロは今や改革を継続する圧力の多くを和らげている。実際、諸国が競争性を回復し、相対的に低い生産性の成長を相殺するために自国の通貨を切り下げるというオプションを喪失した。アルムニア氏が哀しそうに認めるところでは、「政策協調や同輩圧力を通じた改革への市場のインセンティヴの欠如を補う」ことが不可能であることが証明された。

実際、生誕10周年が近づくにつれて、ユーロはその短い生涯で最大の試練に直面しつつある。もし欧州がアメリカに続いて景気後退に落込んだなら─きわめてありそうなのだが─ドイツや北欧よりも地中海諸国の方が痛みははるかに大きくなるだろう。驚くまでもなくこの二つの地域の政治的反応はかなり違ったものになるはずだ。たとえさらにスロヴァキアや他の東欧諸国へと拡大する用意があるとしても、ユーロはそれがまだ最適通貨圏ではないような世界を開示することになるだろう─そしてその実証は愉快なものにはならないはずだ。
(了)

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