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レバノン緊迫中(1)

アブハジアと並んでレバノンが国際政治上の焦点になってきているようです。与党勢力と野党勢力の間の戦闘によって緊迫している状態です。レバノンも我が国にはあまりなじみのない国ではありますが、この地域の中では非常に重要な国ですのである程度は知っていたほうがいい国だと思います。フランスとの結びつきが強く、移民も多いこともあってこのニュースは現在フランス・メディアを賑わせています。レバノンはこの地域の中では比較的西側寄りで世俗的なスタンスの国だったわけですが、内戦の憂き目に遭い、政治的宗教勢力の巻き返しで非常に不安定な状況になっています。

レバノンの政治勢力ですが、スンナ派の「未来運動」、キリスト教徒の「ファランヘ」、「レバノン軍団」、ドルーズ派の「進歩社会党」などが多数派の与党を構成しています。一方、これに対立するのがシーア派の「ヒズボラ」と「アマル」、キリスト教徒の「自由愛国運動」、「エル・マラダ」、ドルーズ派の「民主党」などであります。政党が非常に多数あるのですが、宗派の影響力の方が強いようです。キリスト教徒(30%も占める)だからといってすべてが親西欧勢力とも限らないのが興味深いところですが、宗派によって地域がモザイク状態になっています。また各政治勢力がそれぞれ民兵組織を持っていますので、「近代的」な意味での治安秩序は確立していません。政治的宗教的に分散して互いに武装して火花を散らすという状態です。政権は親西欧、反シリアのスタンスをとり、野党側が親シリア(反イスラエル)のスタンスをとるというように外交政策をめぐって分裂している状況です。それで問題になっているのが、イランとのつながりが強いとされるシーア派のヒズボラです。イスラエルやアメリカがテロリストとして敵視していることはご存知でしょう。ちなみにフランスはシラク時代は反ヒズボラでしたが、サルコジはこれも交渉相手とみなすという柔軟なスタンスに切り替えています。

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日本語ソースでは例の如くAFPニュースが充実しています。「レバノン首都、与野党支持者の衝突で空港閉鎖」「レバノン野党勢力、撤退開始」「レバノン北部、首都で与野党支持者が戦闘、16人死亡」あたりで状況はだいたいつかめると思います。事実としては7日以降首都ベイルートで市街戦が展開され、ヒズボラが西部を一時的に軍事的に制圧下に置くという事態となったが、軍の決定を受けて撤退を開始する一方、11日には戦闘が北部のトリポリ周辺でも展開されたという流れです。この戦闘での死者数は少なくとも38人で内戦以来最大規模となったといいます。

記事にもありますが、この戦闘の直接の引き金となったのは政府が空港保安責任者を配置換えし、ヒズボラの通信網を捜査すると発表したことにあったとされます。軍は声明でこの責任者─ヒズボラに近い人物─を留任するとし、通信網については政府による捜査を延期し軍が独自に調査を行うと発表したといい、これを受けて首都からの撤退を開始したということです。この地域になじみのない人にも判りやすいのでEconomistの記事を紹介しておきます。フランス語圏の方がつっこんだ分析が多いのでいずれ紹介したいと思います。

「真実の瞬間」(Economist)
レバノンの悪魔的に複雑な政治が2006年7月のイスラエルとの戦争の後に2つの激しく反目する党派に分極化して以来、1975年から1990年までの間レバノンの内戦を支配した種類のカオスへと傾斜するのではないかとオブザーバー達は予測してきた。しかし言葉上の中傷合戦や国家をまとめる弱体な憲法メカニズムの衰退、さらに2、3の暗殺と時折の銃撃を別にすれば、それほど大きなことは起きなかった。しかし、突然、事態は劇的にエスカレートした。

対決は先週切って落とされた。西側が支援する議会多数派とその内閣─5月14日運動として知られる─が、強力なシーア派の民兵組織をもった政党のヒズボラ─シリアとイランの支援を受けた非常に幅の広い野党の中の主要な勢力─によってレッド・ラインとされたものを越えたとされた時に。首都ベイルートの南部の郊外の拠点とシーア派が多数のこの国の南部、東部を結ぶためのヒズボラの洗練された通信網を違法であると宣言したのであった。

野党は強硬に応答した。水曜の労働組合によるストライキは急速に首都のスンナ派とシーア派の地区を分けるラインに沿った衝突に転じた。シーア派の民兵組織は東部のバリケードとともに空港へのアクセスを含むベイルートの幹線道路をブロックした。スンナ派はベイルートとシリア、南部を結ぶ主要道路をブロックすることでこれに応じた。

木曜遅くにヒズボラのカリスマ的なリーダーのHassan Nasrallahがイスラエルとの戦いを成功裡に進めている「レジスタンス」に敵対する戦争行為として政府の動きを非難して賭け金をあげた。「通信網はレジスタンスの武器の主要な部分だ」と彼は宣言した。「我々はレジスタンスの武器を標的とする手を切ることになるのだと私は言った・・・今日がこの決定をなす日だ。」

彼の言葉は分派主義─イランとシリアを主要な陰謀者と見る者達に対してこの地域を支配せんとする西側の企ての餌食としてレバノンを見る者達を対抗させる─を超えた深刻な政治的分裂をハイライトするものだ。こうしたラインに沿って出来事のナラティヴ─イスラエルとの2006年の戦争の責任者は誰かといったような─は分岐するが、レバノン人はほとんど同じように両者のサイドに分裂する。

金曜までにシーア派のガンマンは相対的に豊かでスンナ派が支配する西ベイルートへと進撃した。5月14日に同盟する武装、組織化の不十分な民兵組織によるレジスタンスはすぐさま姿を消した。マシンガン、スナイパーライフル、ロケット推進グルネードで行われた戦闘で少なくとも11人が死亡したが。相対的に非分離主義的な稀少な国家組織のひとつであるレバノンの国軍は、分離主義的な小競り合いに引き込まれるのを警戒して、市街戦からは身を遠ざけていた。卓越した勢力であることを誇示したヒズボラがスンナ派地区の挑発的な占領を維持することを控えるサインの中、軍は5月14日の政治家や関連する組織を保護すべく交渉を行った。

この数日間の紛争はヒズボラとその同盟者─もう一つのシーア派政党のアマル、元軍司令官のMichel Aounの支持者のキリスト教徒、シリアに忠誠を誓う諸党を含む─をより強いポジションに置いたように見える。2006年11月以来彼らは政府を非合法であると宣言し、内閣のシート、新選挙法、レバノンの民兵組織の非武装化を求める国連安保理決議からの「レジスタンス」の除去を要求している。5月14日運動は自らを議会多数派であるとし、イランとの共謀でヒズボラを非難し、アメリカとその同盟国からの支援を信頼してその地歩を築いてきた。昨年の11月以来、2つの党派間の言い争いは軍司令官のMichel Suleiman将軍の大統領職の適格性をめぐる合意にもかかわらず新大統領の議会による選挙を妨げてきた。

ヒズボラに対する5月14日の最近の挑戦は部分的にヒズボラとAoun主義者のキリスト教徒─権力から排除されたことに憤っているが、シーア党の武装や反西洋的なレトリックに特に熱心というわけではない─の間の2年にわたる同盟関係に楔を入れる試みであったようだ。この戦略はうまくいかなかった。多くのキリスト教徒の離反にもかかわらずこの同盟関係は維持され、ヒズボラに対してより広い分離主義的なカバーをかぶせることになった。この権力のシフトは政府を破壊しなかったが、野党の選好への一層の妥協を求める圧力を非常に高めることになった。憲法ルールの最後のイチジクの葉が吹き飛んでしまう前に。
(了)

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