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ドイツの裏切り?

東欧情勢を枠づける地政学的に重要な要素としてドイツとロシアの関係があることは、この地域についてあまり知らなくとも、地図を開けばすぐに予想できると思いますが、実際に、この地域の歴史を多少とも齧れば、現実感をもって理解することができます。東欧諸国は西のドイツと東のロシアに挟まれて両国の動きに翻弄され続けるという地政学的運命に置かれているわけです。そして先日のNATO首脳会談におけるグルジア、ウクライナ加盟見送りの背後にあったのも、この2つの大国の関係であります(それだけではないわけですが)。現在、緊張のますます高進しているアブハジア情勢もこの結果を─直接的かどうかはともかく─受けたものである点については別のエントリで紹介しました。

ロシアの帝国主義的な外交姿勢にもかかわらず、現在のドイツとロシアの関係は比較的良好であると言っていいと思います。ドイツが人権問題に口をつぐんででもロシアに接近したのはエネルギー供給やビジネス上の理由だけではないんでしょうが(ドイツに詳しい方にお聞きしたいです)、いずれにせよ対ロシア警戒感の強い東欧諸国にとってはこれは裏切りと映じているようであります。東欧に対するEUやNATOの影響力が弱まっているらしいことは以前から指摘されていますが、原則論的な部分をないがしろにしてあんまりぬるい外交ばかりやっていると欧州の統合のビジョンも絵に描いた餅になってしまうような気がするのですがね。

「モロトフ・カクテル」[Economist]
東欧の蜜月の終わり

ドイツの視点から見れば、東欧がEUに魅力を感じなくなってきていることは不実であり、おそろしく不愉快なことだ。東欧諸国を欧州連合に加盟させたのが─いくつかの既存加盟国にとっては早すぎた─ほかならなぬドイツの圧力であったのに、いかにして東欧諸国がドイツに裏切られたと感じるなどということがあり得るのだろうか。ドイツはこの地域の巨大な投資国にして、安定の保証人にして、旧共産主義国の強力な代弁者だ。これが、少なくとも、ベルリンで広まっている見方なのだ。

しかし東欧の政策担当者の冷ややかな評価は違っている。「EUは破綻した。NATOもそうだ。残された唯一の存在はアメリカだ」と、ある人は述べる。

彼らの憂鬱の原因はドイツが今や間に位置する諸国の利害を無視してロシアとの関係を重視しているという感情だ。ポーランドを迂回するバルト海海底のノース・ストリーム・ガス・パイプラインへのドイツの支持はこの前兆だ。ブカレストでのNATO首脳会談でのドイツの役割は─ウクライナとグルジアに加盟への明確な道を与えるアメリカ案を阻止した─この印象を強化した。

ロシアとドイツの間に不吉な意気投合といったものを見るものはほとんどいない。その代わりに彼らは金を非難する。「ドイツ人が決定を行ったのだ。あの体制との友好と交換で数百億のビジネスという決定を」と別の東欧の外交官は言う。アメリカの関係者は、より慎重ではあるが、こうした懸念に共鳴する。

EUとNATOの両者におけるドイツの役割に対して、少なくともいくつかの国から見れば、疑念が投げかけられるという結果になっている。例えば、ロシアがカリングラードの飛び地へのトランジットをめぐるリトアニアとの対立、あるいはエストニアやラトビア─数万人がロシアの市民権をもつ─での言語、市民権をめぐる対立を引き起こす可能性を想像してみよう(こうしたシナリオはありそうもないが、不可能ではない。アブハジアにおけるロシア市民の存在が当地でのクレムリンの介入の部分的な正当化を与えているのだ)。

いかにNATOは大西洋憲章第5章による援助要請に答えるのだろうか。 これが問題となった際の北大西洋理事会の会合を想像してみよう。明確に新加盟国の味方をしてくれるだろうか。それともドイツは平静を呼びかけ、双方が紛争を別の場で解決するよう示唆するのだろうか。

ドイツの担当者はこうした考えを不合理だと考える。ロシアとの対決を避ける最良の方法は関与政策(engagement)だと彼らは言う。貿易と投資が拡大すればするほど、西側との関係は改善するのであり、クレムリンが地政学的ゲームを演じる可能性は小さくなると。旧共産主義諸国はめそめそ言っていないで、ロシアとの強固で賢明な関係を構築する上でドイツの例─他の多くの西欧諸国の例─に倣うべきなのだ。

おそらく彼らはそうすべきなのだろう。EUとNATOの新規加盟諸国のほとんどは現在少なくとも公的にはロシアとの取引においてはっきりと非対立的である。「EUに加盟した時、これでと我々はロシアとの取引に敢然と立ち向かうことができるのだと考えたものだが、今では他のすべての国と同様に我々自身が取引をしなければならないことに気付かされたよ」とバルト海議会のある議員は言う。

重要な例外はリトアニアで、この国は交渉権限の強化を目指して新しいパートナーシップと協力の合意に関するロシアとEUの会談の開始に賛成票を投じている。このポジションはひどく孤立的なものに見える。18年前に戦前の独立回復を宣言して世界を驚かせ、クレムリンに反抗したこの国にとって孤立というのは相対的な概念であるが。

ドイツのような豊かな大国がロシアと取引をするのは正しいのかもしれないし、確かに容易いことだ。しかしかつてソビエト帝国の一部であったより小さくより貧しい国々にとってはこれは決して同じにはならないだろう。これはベルリンの政策担当者が理解するのに困難を覚えるように見える事柄だ。
(了)

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