« ドイツの裏切り? | トップページ | レバノン緊迫中(1) »

EUの経済的メリット

アメリカの大幅な減速と国際金融市場の混乱の影響を受けて少なくとも今後2年ほどの欧州経済の見通しが暗そうであることはこれまでのエントリでも書いてきましたが、FTから記事を追加しておきます。4月28日付の記事ですが、「欧州経済の見通しの悪化」[FT]では、欧州委員会の出した経済成長見通しを伝えています。欧州連合27カ国の経済成長は2008年が2%、2009年が1.8%、ユーロ圏の15カ国ではそれぞれ1.7%と1.5%と予想されました。11月の段階では欧州連合全体で2008年、2009年がともに2.4%、ユーロ圏ではそれぞれ2.2%と2.1%という予想でしたから大幅な修正となりました。「金融混乱はより深刻かつ広範で持続的となることが明らかになりつつあり」、特に2009年の経済成長のリスクが高まる一方で、インフレのリスクが上がり続けるといいます。

この予想に対する加盟国からの反応ですが、フランスのラガルド財務相は2009年の見通しは「悲観的過ぎる」と述べ、疑念を呈しています。フランスは2.5%の見通しを修正しないとのことですが、欧州委員会の予想ではフランスは2008年が1.6%、2009年が1.4%だそうです。ちなみにドイツはそれぞれ1.8%、1.5%、イギリスはそれぞれ1.7%、1.6%の予想ということです。ふう。一番悲惨なのが我らがイタリアでそれぞれ0.5%と0.8%とのこと。真っ暗ですね。スペインは2.2%と1.8%だそうですが、ここずっとバブルが続いていましたから突然の暗転です。

一方、インフレのほうは欧州連合で2008年が3.6%、2009年は2.4%、ユーロ圏ではそれぞれ3.2%、2.2%という予想になっています。短期的にはインフレが最大の問題ということですが、ただ2009年にインフレ率の低下の予想がサルコジやベルルスコーニのようなECB(欧州中央銀行)批判の急先鋒を宥めることになるかもしれないと記事は予測しています。そうなるといいですがね。最後に財政赤字に与える影響に関しては、懸念の英仏ですが、フランスが2008年はGDPの2.9%、2009年は3%に、イギリスは両年とも3.3%になることが予想されています。むー、イギリスもしんどいですね。

また5月9日付の「欧州連合の経済効果には疑問あり」[FT]という記事では、欧州統合の経済効果は推進論者が主張するほどのものではないという経済学者の意見を紹介しています。カリフォルニアのバークレーのBarry Eichengreen教授によれば、欧州連合が存在しなかったならば欧州の所得は5%ほど低くなっただろうということです。つまり生活水準の向上にとってそれなりのメリットがあったわけですが、最近の評価に比べるとはるかに低い数値とのことです。

この研究ですが、たとえ今日のEUのような制度がなかったとしても自由貿易や安定した為替レートや規制緩和がなされただろうという仮定に基づくものだそうです。1960年代の欧州の域内貿易の上昇は共通市場の貿易障壁の撤廃と急速な経済成長によって助けられたものであると教授は論じています。同様にEU単一市場プログラムがなかったとしても英米式の改革が1980年代の自由化の追求を欧州の諸政府に推進できただろうと言います。一方で統合へのコミットメントが改革と自由化を推進するのを手助けしているとも論じています。「しばしばヨーロッパという言葉は規制緩和への国内の反対に対するシールドとして使用されている」と。教授によると最大のメリットをもたらしたのは貿易障壁の撤廃であり、保護主義的な共通農業政策はロスをもたらしている。さらに最も野心的なプロジェクトである通貨政策に関してはこれまでmildly positiveにとどまっており、イタリアの改革努力を遅延させるかもしれないということです。

同様のリポートは以前にいくつか読んだことがありますが、域内の自由貿易を活発化させればいいのであって、なにも大げさな機構をつくったり、通貨を統合する意味はあまりないんじゃないかというのがどうも少なくない経済学者の間の合意のようでありますね。いろんな意見があるでしょうが、私自身はこちらの考え方に説得力を感じています。政治的にもスケール・デメリットが大きいような気がして仕方がないのです。いずれ進展と後退を繰り返しながら時間をかけて合理的かつ現実的な枠組みに成熟していくのかもしれないので断言はしないでおきますけれどもね。

|

« ドイツの裏切り? | トップページ | レバノン緊迫中(1) »

欧州情勢」カテゴリの記事

経済」カテゴリの記事

コメント

個人的にはEUの「成功」はユーロそのものではなく、ユーロとポンドのように通貨が違っても「統一市場」はできるということを示したことだと思います。あとは、仏独ベネルクスあたりの中心部はユーロのままでも構わんので、周辺国が離脱してリラとかが復活すれば、中心・周辺それぞれの経済状況に応じた金融政策がとれて全体が英国並みの成長になれるかも。(今のままですら日銀よりはましなんだよな…orz)

投稿: koge | 2008年5月11日 (日) 17時01分

ええ、ここまで綱渡りをしてきましたが、私も共通通貨政策のネガティブな面がだんだんはっきりしてくるだろうと思います。イタリアが最右翼でしょうが、アイルランドあたりからも声が出てきそうな印象がありますね。

投稿: mozu | 2008年5月11日 (日) 19時13分

I strictly recommend not to hold off until you earn big sum of cash to buy different goods! You can take the loan or secured loan and feel yourself comfortable

投稿: PATTON25Josephine | 2012年5月16日 (水) 10時54分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/507226/20875977

この記事へのトラックバック一覧です: EUの経済的メリット:

« ドイツの裏切り? | トップページ | レバノン緊迫中(1) »