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保護主義の声

このたびの金融危機を受けてあちらこちらから保護主義的な声が聞こえ始めているような印象があります。例えば、日本でも地味に人気のあるフランスの人口学者のエマニュエル・トッドがFrance Infoのインタビューでグローバリズム批判をしているのをさきほど見ました。最近ではイスラム主義の「近代性」を論じるなど異色の議論を展開している人です。

サルコジの対米追従を批判する中で(この点については以前別の議論を紹介しました)保護主義への待望が語られます。曰く。諸問題の根源にあるのは自由貿易なのだが、このことについてエリートは沈黙している。自由貿易主義のもたらす問題を解決するのは保護主義だけだ。我々の社会は保護主義を待望しているのにエリートはこのことを理解していない。しかしいつまでも抵抗はできないだろう。政治的カタストロフィーを待つしかない。第一次世界大戦とナチズムを生み出したのは最初のグローバル化であった。またヒトラーの台頭に貢献したのは自由主義のエコノミスト達であり、そういう歴史をいずれ書きたい

テレビのインタビューから刺激的な発言だけを引用するのは反則的ではありましょうが、それなりに影響力のある知識人がこうストレートに語るようになっているのは兆候的に感じられます。かの国では「経済愛国主義」的な声は特に珍しくはないのですが、トッドが想定しているのはどうもEU規模の保護主義のヴィジョンのようです。むう。景気後退が長期化するようならば、こういう声はだんだん大きくなっていきそうです。

一方、クルーグマンのブログで紹介されていた"THE RISE AND FALL OF WORLD TRADE, 1870−1939"という論文。残念ながらモデルの解説の部分が私の理解能力を超えているのですが、序論と結論を読む限り、面白そうな話です。以下概要です。

Measured by the ratio of trade to output, the period 1870−1913 marked the birth of the first era of trade globalization and the period 1914−39 its death. What caused the boom and bust? We use an augmented gravity model to examine the gold standard, tariffs, and transport costs as determinants of trade. Until 1913 the rise of the gold standard and the fall in transport costs were the main trade-creating forces. As of 1929 the reversal was driven by higher transport costs. In the 1930s, the final collapse of the gold standard drove trade volumes even lower.

というように19世紀後半から第一次世界大戦まで─いわゆる帝国主義時代─は最初のグロバール化の時代と最近では言われますが、それが一転して戦間期に世界貿易が縮小することになったのはなぜかという問題です。勿論グローバル化をめぐる現在の議論を意識しています。グローバル化の研究は戦後に集中しているが、教訓を引き出すべき重要な失敗例があると。普通は1920年代に広まり、大不況の時代に頂点を迎える保護主義が犯人として非難される訳ですが、論者達によれば、この通説の定量的な根拠は非常に貧弱なんだそうです。

それで結論ですが、通商政策や関税に加えて、通貨制度(金本位)や輸送コスト(海運コスト)をめぐる摩擦の果たした役割が非常に大きかったといいます。曰く。関税は1914年以前には最小限の役割しか果たしていなかったのがそれ以降はより影響が大きくなる。貿易量の変化の大部分は支払い(金本位)をめぐる摩擦に左右され続けた。輸送コストは世界貿易の盛衰に重大な役割を果たした(1914年まで劇的に減少したが、その後増大)。というわけで論者達は保護主義(関税バックラッシュ)の影響はどうやら思われているよりは限定的で、むしろ通貨や輸送コストといった要因を重視しています。それゆえ関税に対して現在の先進国は基本的には自由主義的な立場をとっている訳ですが、問題がないわけではなく、今後のグローバル化の進展にとっては後者のファクターが重要になると予言しています。

輸送コストの増減というのが戦間期の貿易収縮にこれほど影響を与えていたというのは初耳でしたのでちょっと意外でした。個別の国家の議論でなく全世界を対象とした研究なので日本のデータも使われているようなのですが、これ日本近代史でそれほど強調されている論点ではないですよね。あるいは私が絶望的に無知なだけで常識なのでしょうか。第一次世界大戦後のコスト上昇の要因としては、いわゆる生産性ショック─他の産業に先行して生産性が上昇していたが、20年代になると自動車のような花形産業が誕生する─、海運カルテルによる独占的な行動、労働運動の影響によるコスト上昇の三つを挙げています。これ日本にもあてはまるのでしょうか。このファクターは地政学的な状況にかなり左右されるような気もしますね。

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