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サルコジ外交

近年のフランスの政治家の中でサルコジほど毀誉褒貶激しい人もないでしょうけれども、その理由のひとつに彼がいったい何をやりたいのか、何をしているのか読み難いという点が挙げられるでしょう。あれやこれやに手をつけては中途半端に終わるただのショーマンさという揶揄を受ける一方で(口の悪さと軽卒さから小さな失点を重ねて軽侮され易いところがある)、原則論的な批判をどんどんすり抜けていく政治的狡知のある行動派の政治家だという声もあります。煙に巻かれているようで私には判断がつき兼ねていますが。

SoredaさんのところのEU絡みでサルコジがどう動くのかという話でどう応答したものかとしばし考えたのですが、正直難しいですね。リスボン条約批准交渉は続けるでしょうけれども、欧州連合の野放図な拡大にはもともと慎重な立場ということもあり、原則論的部分はごまかしてでも、安全保障、移民、エネルギー、食糧あたりの問題を賭け金として実質的な部分でコアの部分の統合の強化を進めていくつもりなんでしょうか。それが具体的にどういう姿をとるのかは例によってさっぱり見えないのですけれども。

英語圏のフランス政治経済ウォッチャーの中でたぶんベストなんじゃないかと思っているアーサー・ゴールドハマー氏がサルコジ外交について書いた記事を発見しましたので、これを紹介しておきます。サルコジの外交スタイル全般についての論評です。なかなかバランスよくまとまっていると思います。

まず最初にサルコジは確かにフランスの外交のスタイルに変化をもたらしたが、実質をも変えただろうかと問い、これに力強い肯定形で答えています。サルコジはゴーリストの遺産を継承しているかもしれないが、彼らの「偉大さla grandeur」のエートスはほとんど共有していないといいます。1958年に「将軍」がフランス国民の偉大を称揚し、ゴーリスト神話を打ち立てたのは米ソ対立の2局構造の時代であったが、50年後にこうした発言をしたら狂気すれすれの常軌を逸したものになるだろう。サルコジのフランスは再編されつつある多極的なグローバルな舞台で影響力拡大を目指す数ある中規模国家のひとつに過ぎないのだからといいます。

そしてこのフランスの姿はライバル達との権力闘争に勝ち抜いたサルコジ自身の政治的キャリアに重なり合うといいます。ここは論者が強調しているポイントです。それによると、彼はこれまでひとつの舞台で物事がうまくいかない時には別の舞台に進めるように、常に同時に複数のゲームを慎重に戦い、他人には気付かれないような制度を道具的に使いこなし、メディアの注意を集めるよう影響力を最大化することを学び、権力をもつ者とももたない者とも、意見の合う者とも合わない者とも関係を結び、必要とあれば、躊躇なく関係を断ち、友を悩ませてでも敵を懐柔してきたと。

それでサルコジはこうした戦術のすべてを最初の1年で外交政策にも採用し、多くのフロントで主導権を発揮したと評価されています。例えば、欧州連合とはリスボン条約の同意を得ること、リビアとはブルガリア人の看護婦を解放して、政権と取引し、カダフィを地中海連合の中に組み込むこと、ロシアとは西欧へのガス供給を議論すること、アフリカとは旧植民地との新しい関係を構築し直すこと、中国とは経済問題で交渉し、核のリアクターを売ること、レバノンとは新政権を支援すること、英国とはフランスが「アングロサクソン的」になった思わせて英国を称揚すること、ドイツとは欧州中央銀行や地中海連合についてアンゲラ・メルケルとの意見の違いを調整すること、NATOとは軍事機構への完全統合を考慮すること、米国とはより柔軟な立場を示すことといった具合にです。

そしてこのうちのどれに本当にコミットしているのか、どういう優先順位なのかについてはいつものサルコジ流で答え難いといいます。首尾一貫性のなさが彼のアプローチの特質なのだとまで言っています。例えば彼が本当に批判者が言うように親米主義者ないし大西洋主義者だとしたら、シリア大統領を地中海連合を議論するためにパリに呼ぶ危険を犯すだろうかと問いを発していますが、この背景には、アメリカはシリアとの対話を拒絶している一方で、イスラエルはシリアと対話をしており、アメリカがフランスを通じたもうひとつのコミュニケーション回路を開くことに関心をもつかもしれないという読みがあるといいます。この戦略において地中海連合とはこうしたコミュニケーションの便利なカバーであると同時に地域のブローカーの役割を高める枠組みであるといい、また独裁者との対話への国内批判をかわすためにレバノンの新政権との連帯を演じてみせたりしているとされます。

こんな風に一見バラバラに見えても複雑な策略があって単にサルコジをショーマンに過ぎないとは見なせない。外交政策の入り組んだゲームでの彼の動きは非常に計算され、互いに補完的なものであると評価しています。目的は限られたリソースで最大限可能なものを達成することであり、失敗は別の得点で救済されていると。また米国から独立して行動する自由がアメリカの政策と補完的な役割をフランスが担うことを可能にしているともいいます。

サルコジは多数のアドバイザーに囲まれていますが、その中でも重要なのが元駐米大使のジャン・ダヴィッド・レヴィット、欧州連合関係ではジャン・ピエール・ジュイエ、リビアやチャドを含めた多くの問題ではクロード・ゲアン、地中海連合や新アフリカ政策に影響を与えているのはスピーチライターのアンリ・ゲノであろうと論者は主要人物の名前を挙げています。特にベルナール・クシュネルを外相に任命したことは人権や人道支援へのコミットメントを象徴していて、チベット問題での中国批判やタリバンの女性問題の批判などに見られるように、時折思い出したようにこうした理念に連なることを可能にしているとされます。もっともコストが低いと見なされた時にそうする訳で、中国訪問やロシア訪問のような場合には人権は姿を消してしまうとも付け加えています。クシュネルは国内での野党社会党からの批判封じの意味もあり、さらに先ほどの欧州統合関連のアドバイザーのジュイエも左翼出身者でこの起用はフランス左翼を分裂させる意味合いを持っているといいます。

フランスとて人権の重要性が経済問題となると後退するのは他の国と同様ですが、とりわけサルコジは企業家精神を尊重する人物ですのでいつでもCEO達を引き連れて外遊し、かならず契約を結んでから帰国するというスタイルです。特にエネルギー関連が政策の主要な軸をなしているといいます。ロシアと北アフリカからのガスの供給の確保に全力を注ぎ、原子力のプロモーションにもコミットしていますが、特にリビアとの取引は世界的に驚きをもって迎えられたのでご存知の方も多いでしょう。

最後に再び現在の多極的な世界でのフランスの位置を示し、このゲームをどうすればいいのかサルコジは本能的に知っていると評価しています。最後の締めの部分は英語のままにしておきます。ちなみにサルコジは禁酒家で有名です。

The world may have to find a way to avoid cataclysm without relying on France, but the Gaullist knack for combining bluff with bravado may prove to be a winning strategy for la Grande Nation as it shakes off its last lingering delusions of grandeur. Sobriety has its compensations, and Sarkozy seems to have made up his mind to enjoy as well as exploit them.

というようにゴールドハイマー氏は首尾一貫性を欠いた(ように見える)サルコジ外交にそれなりのロジックを見出しています。こんなスタイルですから次になにをするのか、前にやっていてことが後でどう繋がるのかとても予見しにくい訳です。任期の一年目にあちこちに種を蒔いておいてこれからそれをうまく育てて料理していくところなんでしょうから、あまり短期的な成果がどうこうと言っても仕方がないかもしれません。リスボン条約の否決には動揺したでしょうが、当面は─喜々として─失点をリカバーしようと動いていくのでしょう。フランスの国益上のリカバーのことです。この記事は変化について語っている訳ですが、善かれ悪しかれ、ゴーリスト的な部分は確実に今後も残るだろうと思います。それが欧州連合にとってプラスになるのかマイナスになるのかはよく判りませんけれども。

一部修正しました(6.24.2008)

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