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地中海のための連合

革命記念日の前日にパリに欧州諸国、地中海諸国の43カ国の首脳が集まり、地中海連合の正式発足が宣言されたことは日本でも報じられていましたので、みなさまもご存知のことでしょう。この耳慣れない地域的な協力機構でありますが、サルコジ肝いりの外交的プランであります。この設立に至るまでのゴタゴタについては日本語版wilkipedia(英語版の訳のようですね)でもだいたいのところは掴めますのでおすすめしておきます。要は自由貿易圏の創設を謳い上げた1995年のバルセロナ宣言の後継プランとしてサルコジ政権が提唱したこと、トルコの欧州連合加盟交渉問題とリンクさせたために紛糾を呼んだこと、加盟国を沿岸諸国に限定しようとしたため欧州諸国(特にドイツ)の反発を呼んだこと、最終的にはバルセロナ・プロセスのラインに引き戻され、名称も地中海連合(UM)から地中海のための連合(UPM、以下面倒なので地中海連合と呼びます)に変更されたというのがここまでの経緯です。

日本語ソースもけっこうありますが、AFPの記事と産経の山口昌子氏の記事をリンクしておきます。
EU、トルコとの加盟交渉を再開[AFP]
地中海周辺およびEU諸国による「地中海連合」が発足、中東和平への期待高まる[AFP]
「相互に愛し合う方法を」、パリで初の地中海連合会議開催[AFP]
EU首脳会議で地中海連合構想発表へ[産経]
第1回地中海サミット 海洋汚染防止など採択 サルコジ大統領「大満足だ[産経]
中でもシリアのアサド大統領の首脳会議出席が注目すべき点で、中東和平への米国とは異なるフランス主導のアプローチの始動としておおむねメディアからは好意的に迎えられているようですね。ご承知のようにイスラエルとシリアの間で交渉が行われている最中でもあります。フランスが深く関与しているレバノン情勢もあって(ハリリ首相暗殺の件で反シリア・デモも起こっているようです)この複雑な連立方程式をどのように解いていくのか見物であります。そう簡単にはいくまいとは思いますが、いろいろアプローチがあっていいんじゃないでしょうか。

フランス国内の論調を少し紹介します。
「勝利するパリ」[Le Figaro]
フィガロ社説はこの第一回会合をパリの外交的勝利として讃えています。以下概要で訳ではありません。グラン・パレでの会議はフランス外交の成功であり、ニコラ・サルコジの個人的勝利だ。大統領選挙キャンペーン中に表明された地中海の北と南を共同運命体となすべく欧州とアラブとイスラエルを同じテーブルにつかせるなどといった話をいったい誰が信じられたろう。当初のプランは取り下げられた。北欧や東欧─ドイツを先頭にする─の我らのパートナー達はこのラテン諸文明の起源たる「我らの海」からは遠いからだ。エリゼの決意(ゲアンとゲノのデュオ)と大統領の信念が不可欠な妥協を可能にした。これにより地中海連合からバルセロナ・プロセスの後継者として皆が受け入れる地中海のための連合となった。他の点、中東の平和や軍事的、外交的錯綜の点でもグラン・パレの首脳会議は良い方向へと向かっている。イスラエル首相オルメルトとパレスチナのアッバス議長の間の直接交渉の追求は緊張緩和を生んでいる。シリアによるレバノンの独立承認と両国の大使の劇的な交流はもうひとつの良い報せだ。シリア大統領を歓迎するという賭けは勝利に終わりそうだ。アサド大統領はレバノンのテロリスト支援と断絶することで文明諸国の協力体制へと再統合する意思を示しているからだ。アメリカ新大統領とフランスの支援の下でイスラエルとの直接の平和交渉を開始することを決断したならばそれはより容易くなるだろう。全体として1年間でサルコジのスタイルと方法は中東で際立っている。将来の新展開や不可避的な危機がどのようなものであれ、ニコラ・サルコジの主導によるグラン・パレの会議は中東のカオスの歴史に白い石で刻まれることだろう。以上、中東和平交渉進展への貢献の期待を込めてサルコジの外交的勝利であったとしています。

懐疑の中の我らの海[Le Monde]
ル・モンドに掲載されたエリック・ル・ブシェルの論評です。同じく以下概要。政治と経済のどちらが社会発展を支配するのかについてよく議論される。しかし人口動態と呼ばれる三番目の変数がある。これが地中海連合の中心的なモチーフだ。欧州では少子高齢化が進み、衰退を迎えているのに対して、アジアは2世紀にわたる従属の復讐を行っており、南から北へとラテン化するアメリカの人口動態はダイナミックだ。地中海周辺には2億6千5百万の住民が生活し、その3分の1が15才以下だ。さらにブラック・アフリカには2025年には10億に達する大陸が存する。確かに別の言い方もできるだろう。経済的に惑星は「オレンジの薄切り」のように組織されている。アジアは韓国-日本-中国-インドネシア枢軸で統合され、資源庫であるオセアニアへと伸びている。北米と南米も相互に結合している。政治についても同様だ。イスラミズムの高まりへの応答は戦争ではなく、共同運命体、共生体の構築であることを欧州は示さなければならない。このような平和的な企図、共通文明の野心によって欧州は21世紀に他の諸文明に対して自らの位置を見出すだろう。地域安定のための地中海連合。イスラミズムの脅威を低減するための地中海連合。隣人と共同で発展し、移民を管理するための地中海連合。3度ウイと言おう。ニコラ・サルコジは正しい。しかし、誰もこれを信じてはいないのだ。それぞれが賭け金を理解し、これに加わろうとするだろうが、我々の未来を痙攣させてしまうほどに躊躇いや反対も数多いのだ。障害のリストは長い。まず1995年のバルセロナの試みの失敗の原因であるイスラエル・パレスチナ紛争。東では東欧、ロシア、中国の市場が興隆している。南では植民地化への非難、贖罪の要求が渦巻いている。北では民主主義の前提条件が立ちはだかる。そして移民が両岸の間に鉄の壁を立てている。かくも遠隔の経済格差のある人々を日常レベルで統合させる困難は言うまでもない。最後にアングロ・サクロン世界はサルコジの保護主義を非難し、欧州市場の開放が南の発展の最良のてこであると(正当にも)述べている。ラッパが鳴り終えた時、なにが残るのか。翌朝からなにをするのか。プランだ!具体的なプランが必要だ。地中海連合はこれを欠いている。汚染の防止、海洋の連携の強化、エネルギー、石油以後の思考の開始。これ以外にはほとんどない。東欧再建の時の銀行のようなものすらない。北の財務大臣達や官僚達の拒否!というわけで市民社会に頼らなければならない。善意には欠けていない。しかしまたビジネスにも頼らなければならない。アラブ諸国は石油や太陽光の降り注ぐ海岸を有するし、国内総生産も年5%の成長をしているし、中産階級は消費をしているし、昨年の投資は600億ドルにも達した。しかしこうした麗しい宣言の背後には懐疑主義がつきまとう。プランの準備が悪いのか。たぶんそうだ。南の劣悪なガバナンスとライバル心のせいか。勿論だ。しかし北の無関心しか見えないのだ。「ノン」の欧州はもはや戦略をもたない。飽食した欧州は進歩を疑う。引っ込み思案な欧州は偉大なる未来への投企を放棄している。欧州は老人達の大陸だ。以上、ヴィジョンそのものは素晴らしいが、誰も本気で取り組もうとしてないのが問題だという内容でした。

というようにローマ帝国は言うまでもなく、ブローデルのヴィジョンを想起して、そうだ、地中海とはかつては一つの文明、あるいは諸文明の交錯する空間だったし、常に既にそうなのだ、とこの希有壮大な構想にロマンを感じる人もいるかもしれませんが、勿論21世紀初頭の生々しいパワーのせめぎ合いの中にこの構想は置かれているわけです。こういう麗しいカバーをかけて影響力の強化をはかるというやり方はいかにも大陸的で我ら島国的な外交伝統にはあまりなじまないかもしれませんが(大東亜共栄圏というのがありましたし、今でもいろいろやっていますが)、参考になる部分もあるのかもしれません。また欧州連合のように大きなプロジェクトもささやかな分野での協力関係から始まったことを思えば、現時点でむきになってこの試みを擁護したり、非難したりする必要もなく、さあどうなるんでしょうねえと折に触れて観察していくのがおそらくは極東の見物人がとるべき正しい態度なのでありましょう。

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