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利上げしましたね

欧州各地でバブルがつぶれ阿鼻叫喚の声があがっている最中にインフレ闘士としての本領を発揮して利上げを断行するECBの益荒男ぶりを目にして、ハイパーインフレの悪夢の再現の阻止を至上命題とするブンデスバンクの遺伝子と「大陸ならでは」を追い求めては止まないENA経済学の真髄とを見せつけられたような気がして身の引き締まる思いを新たにしました。結局のところ金融政策というのは延長された政治なのですねと。というのはもちろん真っ赤な嘘です。ともかくサルコジやべルルスコーニやサパテロの罵声を浴びながらECBが予想通り利上げをしました。

この景気減速の中での成長かインフレ抑止かという政策判断は大変だったでしょう。ECB内部でも意見対立があったようです。各国の政治家の介入を排除して物価の安定という目的のためにセオリー通り動いたECBを賞賛する声と石油や食料の価格高騰に対してはECBの利上げは効果がなく、結局、景気の悪化を招くだけだと非難する声とどちらが正しいのかを現時点で判断するのは難しい訳ですが、「バイアスなし」とのトリシェの言葉を信じるならば、これは多分に象徴的な身振りでしょうから特に大騒ぎすべきではないのかもしれません。以下はフランス語圏の論調の一部の紹介です。

"Trichet seul contre tous"[Le Figalo]
まず利上げ直前の7月3日付のフィガロ社説ですが、「トリシェ対世界の戦い」という風に揶揄しています。4%の記録的インフレを前にしてECBの使命を果たそうとしているのだろうが、この使命は果たせるだろうか。それは不確実だ。なぜなら1970年代を想い起こさせるこのインフレの劇的な復活はエネルギーや食料の高騰という外部的要因によるものであり、全世界の金融担当者の協調行動を必要とするものだからだ。当面、欧州のユニラテラルな利上げは物価の上昇を止められないだろうし、未来についてもなんの保証もない。賃金上昇の効果も止められないだろう。フランスの経済的損失を最小化すべくECBとトリシェに釘を刺し続けてきたニコラ・サルコジももはや孤立してない。マーストリヒト条約の作成者はインフレとの戦いの権能をECBに与えたが、成長の維持は条約に書かれていない。これはおそらくは条約のもともとの欠陥のひとつである。欧州人が今まっさきに着手しなければならないのがこの問題だ。以上、サルコジは正しい、ECB単独の利上げはインフレを止められない、成長の維持も目標に入れよという内容でした。なお「バイアスなし」発言を受けてフィガロの論調もその後ややトーンダウンしている印象を受けます。

"Le temps de la réflexion"[La Tribune]
経済誌ラ・トリュビュヌの社説は決定の後に書かれたものです。まずトリシュエは「明瞭に語り」、約束したことをなした。これを撤回するなどあり得なかった。金融政策に関して冗談というものはなく、インフレ率の上昇は疑い得ない正当性を与えたのだから。経済が減速する中でこの決定によって今後のシナリオ作成の自由を得たのだ。信じられているところとは異なり、トリシェも他の中央銀行もインフレのみに執着している訳ではない。短期的な景況の不確実性があるからフランクフルトも次の動きを決める前にこうして反省の時をおいたのだ。インフレ抑止のために連続して利上げしたら最悪の影響を与えるだろう。景気のいっそうの悪化を招くことになる。インフレ抑止のための利上げの連発の後に経済拡大のための利下げの連発というのは破滅的なシナリオだ。そんなことになったらECBは評判を市場で失うだろうと。以上、今回の決定は妥当だ、今は今後のシナリオづくりの反省の時だ、金利の爆上げはなしねという内容です。

なお他の主要紙は事実報道記事や分析記事は掲載していますが、社説ではこの問題はとり上げていないようですね。気になった記事をあげると、

"On va sans doute connaître des désordres monétaires"[Liberation]
経済学者ジャン・ピザニ・フェリーとのインタビュー記事です。
ECBの決定は正当かという質問に対して。ターゲットの2倍の水準にインフレ率が達し、インフレ期待も上昇していたのだから利上げそのものは不可避だ。しかし0.25ポイントの利上げはインフレを抑止できない。これは合図だ。インフレ・スパイラルを抑止するために期待のコントロールをしているのだという答え。
なぜECBは賃金の上昇を恐れるのかという問いに対して。石油ショックというのは国民所得への外部からの課税のようなものだ。2007年から2008年の成長による所得の上昇は石油の請求書が増えることで吸収されるだろう。賃金に石油上昇分を上乗せするというのはこの課税に支払い拒否をするようなものだ。インフレスパイラルに入り込むことなり、取得に関してなにも得るものはないという答え。
石油や食料を除くインフレ率は2%ほどのままだが、利上げは石油ではなくこのインフレ(註 コアCPI)に影響しないかという問いに対して。エネルギーと農業生産物のようなリソースが世界経済の成長のブレーキになることにみな気付きつつある。需要に供給が追いついていないので価格が高騰をしているが、これは2000年代初頭とは異なる。限界速度を超えたのだ。短期的には世界経済の需要を抑えないといけない、つまり金融政策を引き締めないといけない。ユーロ・ゾーン単独ではなく政策協調しないといけないという答え。
ユーロが対ドルで上昇する危険はないかという問いに対して。全くだ。インフレに対する態度が同じでないと市場が判断したら為替レートに結果が及ぶだろう。Fedはインフレリスクに今後関心を向けるだろうが、中国や日本は同様の態度を示していない。かつては物価の安定に世界が集中したが、今後はおそらくショックに対する応答が異なるような段階に進むだろう。金融の無秩序を経験するのではないかという答え。

うーむ。イメージは湧かなくもないですが、ここで言う限界速度を超えたという表現の意味がよく判らないのですが。また今回、世界的な政策協調を訴える声をよく見るのですが、我々を巻き込まないでくださいねと言いたい。日本にそんな能力ないですから。我々は我々の道を進みますのでそこのところはよろしく。FTもインフレ万歳言ってますしね。なるほど。これは政治的に使えそうですね。

それから共産党のユマニテはさかんにECB批判していますね。経済減速に拍車をかけ、低所得者層にも打撃を与えると。事態を本当に理解しているのかは別にして、これはこれで正しいと思うんですよね。貧者の友としては。これに比べて共産主義者や社民主義者がデフレ不況下にも関わらず金融の引き締めを要求し続けた(んですよね、違っていたらすみません)日本というのはどういう国なんでしょうか。

話が逸れました。あとはまあサルコジの発言ですかね。相変わらず方々に喧嘩売っています。人として好きなタイプという訳では決してないですし、まわりにいてほしくはないタイプなのですが、やっぱり見ていてなんとなく楽しいですね。この人のどことなく憎めない部分の正体をうまく表現できないのがもどかしいのですが、ユーロ・エリートともそのへんのおっさんとも同レベルで罵り合えるところですかね。品位のなさと言ってしまえばそれまでですが。まあこのへんは演出された部分もあるんでしょうがね。

追記
消費者物価ですが、Eurostatにデータがあります。HICPというのがどう定義され、どう計算されているのか、日本のそれと同一視できるのかどうかよく判らないんですよね。専門の方に解説してもらえるとありがたいのですがね。

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