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惜しい人々

ソルジェニツィーン氏が亡くなりました。同世代の大多数にとっては無縁な話でしょうが、私はアカの家の子だったこともあって子供時代には奇妙に不自由な思考回路に閉じ込められていたような記憶があります。別に親からイデオロギー教育を受けたということではないのですが(そんな話をしたことは一度もない)、どうもそうした空気というのはそれなりに感染してしまうものみたいです。なにを考えていたのかはもうすっかり忘れてしまいましたが(子供の考えることですから)、まあそういうこともあってこの偉大な文学者には「イワン・デニーソヴィッチ」以下で自由を与えていただいたなあという感謝の念のようなものをひそかに感じていたりします。

主要メディアはどこも弔辞ですが、ハーバード演説が特筆されているのが特徴でしょうか。ロシアの反体制派知識人として共産主義批判を期待して招待したところ西洋世界の道徳的堕落を延々と糾弾したという有名な演説です。左派系メディアがこれを強調しているのがなんだか奇妙な感じもしてきます(リベラシオンのコメント欄で同意の合唱している素直な君ら。君らみたいのがソルジ氏に一番馬鹿にされていると思うのですがね)。この人は「自由の闘士」とか「反体制派ヒューマニスト」とかではないと思います。いや、なにも私が言うまでもなく、「作家の日記」のドスト氏と一緒で政治的には超反動派ですよね(凡庸な反動ではなく超反動)。時にスターリン体制を擁護するような発言をしたりもしたこの人の複雑性を知らない訳でもないでしょうに。こんな語りに回収されてしまうとなんだか不満を感じます。私の中ではその意見にはまったく同意はしないが魂の深部において震撼させられる一群の人々の一人であって(妙にロシア人が多い)、こういう人達にはありふれたイデオロギー的な擁護や批判は無意味だと思います。無意味というか無力というか。いろいろ読んでみましたが、NYTのこの長大な記事が多少面白かったです。キッシンジャーが警戒したエピソード(正しい直感ですね)や晩年の「反ユダヤ主義的」発言への微妙な言及の仕方とか。ソルジェニツィーン氏に政治的な首尾一貫性を求めても無駄だと思いますがね。そんな世俗的なところで思考している人じゃないですから。

また戦後の我が国を代表するギャグ漫画家もまたこの世を去ってしまいました。トキワ荘の人々ももういなくなりました。なんだか寂しいものがあります。リアルタイムで読んでいた訳では勿論ないのですが、なぜか家に揃っていたので子供の頃にほとんど全部読んでいました。晩年の様子はテレビのドキュメンタリーで見ましたがなんとも痛々しい印象を受けました。林屋喜久蔵氏と仲が良かったようですが、とてもよく判る話です。日本を代表する愛すべき真性の馬鹿を日本を代表する馬鹿になるべく奮闘努力をしてきた人が憧れるというのは。私は氏のギャグ漫画よりも少女漫画のほうが好きでしたが(本人の偽わざる資質が自然に発揮されている感じがして)、読み返したくなりました。なんだかしんみりした気持ちになります。なお私には赤塚氏というのは我が邦において古より存在してきたなんだかよく判らないが愛すべき一群のおのこの一人に見えます。19世紀のロシアの文学者ならきっと魅力的に描いたでしょう。

死者達への言及はこれぐらいにして、欧州経済の見通しに関するEconomistのこの記事なんですが、抑制された筆致で懸念事項を列挙して景気後退はどうも避けられないかもねえと他人事みたいな書き様がエコノミストらしいです。主要国はどこも輸出も内需も駄目そうですねえ。他が沈み、あるいは停滞する中、ここはモーターになってほしいフランスも「改革」の短期的な成果たるや微々たるものでしょうしねえ。私の見た限りでもあらゆる指標がしばらく駄目かもですと告げてます。サブタイトルは「ECBは規律正しい金融政策をとっているが、その報酬は景気後退かもしれない」ですね。そうですね。

"Fukuda calls for stimulus package"[FT]
"Fukuda recruits rival to boost LDP"[FT]
どうも私はFTのある種の日本関連記事には不満を覚えるようなのですが、それはなぜなのでしょう。根本的にはずした事を書いているということでもないですが、政局がらみではもうちょっとインフォーマントを選んだらどうですかという感じでしょうかね。私みたいなズブの素人から見てもそれはないみたいな話がよく平気で掲載されたりしてますから。このたびの内閣改造についてはあまりこれといった感想はないですね。「停滞」という語が自然に浮かびます。与謝野氏就任が波紋を呼ぶところかもしれませんが、現状ではたいしたことはなにも出来なさそうに見えます。どうなんでしょう。朝日にもなんだか微妙な記事が掲載されていました。麻生氏についてはまた国際ニュースになってますね。これ自体はつまらぬ軽口ですが、しっかりBBCは狙いを定めているようで。面白キャラなのは判りますがね、イエロー過ぎますよ、Chris Hoggさん。ただ今の政局だとメディアが叩きに走っても平気そうな気もしてきますね。それからわざとはずしたような政局記事が出回っているのもなんなんでしょうね。この手の話を盛り上げるためだけの政局記事はどうにかしてほしいんですよ。くだらん政局ネタ記事にいったいなにを真面目になっているんだと思われるかもしれませんが、けっこう有害だと思うのです。政治的waiwaiとでも言っておきましょうか。misinfomationともdisinformationともつかぬなんとも呼びようがない情報群のことですね。例の「実話(=虚構)」とは異なってこちらは日本国民でも信じる人もそれなりにいるでしょうし、もう日本語圏だけで情報が流通する時代でもないですからね。やっかいな時代ですね。

追記
いくつかのフレーズを追加し、変な部分を修正しました。

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