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民族主義とか

"This Isn’t the Return of History"[Newsweek]
このザカリア氏の論説のタイトルは、この間のケーガン氏の論説への応答でしょう。グローバル化と統合の時代が過ぎ、列強の衝突する19世紀的な世界に戻った云々という話に対して、諸大国の台頭はグローバル化の結果そのものであり、ナショナリズムとこれに対抗する諸力、つまりグローバル化、統合とがせめぎ合う時代なのだという世界観を開陳しています。それからこの紛争がもたらしたのは米欧の接近であり、ロシアが得たものは少ない、56年のハンガリーや68年のチェコではなく79年のアフガニスタン侵攻にむしろ似ているのだとしています。また英仏が旧植民地に今のモスクワよりもはるかに粗暴な仕方で干渉したのはつい50年前の話だと述べ、この紛争への世界的な反応そのものがルールが変わったこと、我々が21世紀的にいることを証しているのだといいます。

さらに今各国の外交官は対ロシアの制裁手段を探しているが、問題はロシアとの間の絆の弱さ、レバレッジのなさにあり、ロシア側が世界秩序に統合されないまま、ルールを破っても失うものがないと感じているところに問題があるとしています。ロシアの孤立主義は西洋の外交政策がもたらしている側面もあるが、石油が関係している、従ってとるべき戦略は

The single best strategy for bringing Russia in line with the civilized world would be to dramatically lower oil prices, which would force the country to integrate or stagnate. Pending that, we should shore up Georgia and assist countries like Poland and Ukraine. At the same time we should stay engaged with the Russians so that we continue to work on issues of common concern—like nuclear proliferation—but also to develop leverage with them. A strategy that further isolates Moscow would only reduce the levers that we have to affect its behavior.

という風に石油価格を劇的に下落させ、グルジアやポーランドやウクライナを支援しつつ、ロシアを孤立化させないように包摂していく必要があるとしています。相変わらず冷静で楽観的なザカリア氏ですが、どちらも引くに引けなくなってしまっている現状では当面はどうもそんな風に事態が進むようにはあまり思われないのは私だけでしょうかね。関係ありませんが、ここしばらくの英国メディアの煽りっぷりにはなんだか余裕のなさを感じてしまいます。経済の見通しの暗さもあるのかもしれませんが、らしくないですね。論調そのものというよりもトーンに妙に悲愴なものを感じます。

"Un effet de la politique soviétique des nationalités"[Le Monde]
Thorniké Gordadzé氏のグルジア、アブハジア、南オセチアの民族主義についてのインタビュー記事。グルジアには確かに民族問題があるが、少数民族はアブハジア人、オセチア人だけでなく、アルメニア人、アゼリ人、ロシア人もいて数的にはこちらの方が多い。つまりアイデンティティーだけの問題ではない。両民族が統合されなかったのは政治と歴史の問題だ。またグルジアと南オセチアの民族主義を語るのは本質的なものを見失わせる。つまりロシアのナショナリズムだ。グルジアは周辺地域で集権的な王国を形成した時期は短く、周辺の帝国に支配されたが、民族的アイデンティティーは強かった。アブハジアについてはグルジア王の支配を多かれ少なかれ受ける領邦が15世紀から19世紀に存在したが、南オセチアについてはボルシェヴィキの発明品だ。オセチア人は中世以来グルジアの複数の領邦や王国の下に暮らしてきたが、この民族的-政治的単位が出来たのがソ連時代だという意味だ。1921年にボルシェヴィキがグルジアを征服した際にグルジアは反ボルシェヴィキ的、ブルジョワ的、貴族的ナショナリズムの地とみなされたが、オセチア人とアブハジア人は抑圧された農民的民族とみなされた。南オセチアとアブハジアはソビエトから自治的な地位を得たが、このことが両地域のネーション意識の形成に貢献した。

従ってソ連の民族政策の結果なのだ。民族文化の創造を促進する地元の共産党エリートというものが生み出されたのであり、ソ連時代に自治的な地位を得ていた周辺地域で1990年代に紛争が勃発したのも偶然ではない。グローバル化と人の移動の加速が「前にそこに誰がいたのか」の問題を深刻化させている。私はグルジアのナショナリズムを最初に非難した者の一人だ。しかしこれはカフカスの諸民族に共通した態度だ。特定の民族が特定の地域で特権を得るためには時には石器時代に遡る民族起源の「科学的」物語が必要だったのだ。グルジア初代大統領はこうした考え方に凝り固まっており、この国に民族的緊張をもたらし、オセチア人とアブハジア人をモスクワ寄りにした。サーカシビリについても非難は出来るが、彼のナショナリズムはソビエト時代のものではない。彼は統一グルジアを望んでいるが、排他的な民族イデオロギーに基づくものではないと。日本語でも解説がでていますが、アブハジアと南オセチアではまた違うようなのが複雑ですね。

なおここで民族主義と訳したのはエスニック・ナショナリズムnationalisme ethniqueのことです。日本の政治家の皆さんも誤解されないように注意してくださいね。必ずしもそうでもない人でもそうとられる発言をしているのを見ることがあります。シビック・ナショナリズムnationalisme civiqueはセーフだけれど前者はPC的にもうアウトになりつつあるように見えます。なお私は両者の区別は難しいと思っていますので、こうした傾向はどうなのかなと思っていたりもするのですけれどもね。いえ、勿論ごりごりの民族主義は好きではないですよ。ただエスニック/シビックのこの二分法は少し単純過ぎるし、後者だからいいのだという話ではないようにも思えるのです。

あえぐ経済、支持率低迷 台湾・馬総統就任100日[朝日]
総統の支持率が景気の悪化で低迷しているという記事ですが、ここしばらくのニュースを眺めているに台湾の民主主義の土台はなかなか堅固だなという印象を深めています。こうなると国民党政権も世論の圧力を無視したりは出来ないでしょうね。変な世論主導の動きもあるようですが。ところで最近台湾が韓国に盛んに喧嘩を仕掛けているようなのはなぜなんでしょう。誰か火に油を注いだりしていてはいないでしょうね。

イタリア、リビアに25年間で50億ドル投資 植民地支配の補償[AFP]
フランスの動きに連動するかのようにイタリアもリビアに接近しているようです。カダフィもうまいことやってますね。パリ訪問の時は格好良過ぎて笑いました。東の方面が膠着する一方で南の方面にリーチを伸ばしていく動きは加速しそうな印象を受けます。クシュネルも飛び回っているようです。なおこの記事にはありませんが、この交渉では移民の管理の問題がかなり大きいようですね。

大本営発表という権力[池田信夫]
もう今更の話なんですけれど、どう見てもあれは独裁国のやる戦争ではなく、民主主義国の怒りの戦争ですよね。いくら未熟な段階で、許されざる人権侵害があったとしても。あの大正デモクラシーの後になぜという問いはそもそもおかしい。ただ選挙結果などを見てもかなり微妙な動きをしていますから世論の動きについては慎重に論じないといけないと思いますけれども。また軍国主義と無辜の国民云々という話は別にしても、国民世論がどれほど非合理に傾こうともそれをうまく説得して制御するのが為政者の務めなんですから、それに失敗した政治の責任の重さは変わらないでしょう。新聞については日露戦争の頃から売らんかなだった訳でなにも大本営を持ち出して批判することもないように思えます。黄門様の御印籠みたいなこの時代の使い方は好まない。とはいえ今の新聞にけっこうシビアな評価であるのは変わらないです。よくある新聞批判に与するつもりはないのですが、やはり物足りないですし、もっとできるはずです。

追記
タイトル変更。フレーズ追加(8.31.2008)

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コメント

台湾の韓国批判ですが、この記事なんかを見ていると、中国の韓国批判に同調して起こっているような感じがしますね。

http://www.chosunonline.com/article/20080808000042

中国にとって、日本批判は体制を揺るがしかねない危険物ですが、韓国批判はそんな心配のない安全なガス抜きという認識があるのかもしれませんね。
台湾と韓国批判で同調している限りは、中台関係に影響もなさそうですし。これが日本やアメリカだと、微妙な影響があるでしょう。

投稿: Baatarism | 2008年9月 1日 (月) 11時49分

中台接近で台湾の中の中華意識みたいなものが現れているのかなと漠然と思うのですが、なんだか不思議な動きですね。日本からすると楽になっていいような話ですが、韓国からするとどうにもならない感じがなんとも・・・。アメリカのアジア系の世界にはどう影響するんでしょうね。

投稿: mozu | 2008年9月 1日 (月) 13時09分

日本は大事な時期ですのに・・・。
題材とは違いますがHPを拝見しているときにnewsが飛び込んできました。
9月は鬼門でしょうか?そして同じ農水大臣問題とイラク給油延長法延期時期!!
また、1年で投げ出し辞任なんて海外に恥ずかしいです。

投稿: thavasa | 2008年9月 1日 (月) 21時58分

指摘されれば当たり前のことですが制裁しようとしても、相手に応える切り札がないと難しいのですね。日本は角落ちの将棋や一桁の手でブリッジをやらされているようなものですね。しかもプレーヤーはアマチュアトップクラス、相手はプロなのに。これはさすがに失礼かな。

投稿: arz2bee | 2008年9月 1日 (月) 22時18分

あれ、辞任されたのですね。今、確認したところです。私は福田政権は評価していなかったのですが、確かにこうもコロコロ首相が交代すると国際的に信用を失ってしまいますね。本当に困ったものです。

投稿: mozu | 2008年9月 1日 (月) 22時22分

>arz2beeさん
イギリスが経済制裁に乗り気な雰囲気ですが、フランスやドイツはこれを抑えようとしています。欧州は分裂気味ですね。たぶんないでしょうが、もし発動してもロシア経済のあり方からいって制裁の効果はほとんどないでしょうね。象徴的な意味合いはあっても実効的なカードにはならない。

米露の経済取引もたいしたことはないのでアメリカもこれといった経済カードはないですね。黒海あたりで軍事的に威圧したり、東欧諸国やグルジアやウクライナをバックアップするぐらいしか。紹介したザカリア氏の石油価格の話がキーになりそうですね。多分今年中に調整されるとは思ってはいますけれども、経済カードみたいな使い方ができるのかどうかはよく判りません。

日本は対ロシアでなにか出来るようなポジションにないと思いますね。英米とロシアの仲介役ぐらいで。後は資源開発や対露投資で損しないといいなというぐらいですかね。

投稿: mozu | 2008年9月 1日 (月) 22時55分

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