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離婚の危機

フランスの仲介で一応の区切りを見せたかに見えるグルジア情勢でありますが、真打ちのお出ましのようですね。仏語圏の一部では冷戦的修辞が復活しています。曰く、スターリン主義の復活だの、東西対立だの、大西洋同盟の一致だの。しかしながらこうした論調の訴求力は限定されたものに留まるでしょう。「リアリズム」の名の下にそれなりに格好をつけながら振る舞うのでしょうか。それはそれで賢明なことですが、それでいいのか、フランス、といいたい気持ちもない訳ではない。例えばドイツなどとは違って動こうとすればもう少し動けなくもないのですから。東欧の離反を制御するためにももう少し欧州をリードしたらいいじゃないのと思わなくもないのです。和平案の提出以上になにが出来たかと考えると、とりあえずすべきことはしているとは言えるでしょうけれどもね。一方、我が邦は・・・ここは目立って動かないのが吉なのでしょう。功利主義的にいくしかなさそうですね。ロシアの視線が西ばかりでなくもう少し東に向いてくれるとありがたいのですがねえ。西洋への対抗心を抑えたならば誰が真の脅威なのか判りそうなものなんですが。

などといったヨタ話はそのぐらいにして先日のブルマ氏の記事が扱っていたベルギーの問題を少し紹介しておきます。高校レベルで教わる話ですからご存知の方も多いと思いますが、ベルギーには南北問題があります。確認しておきますと、北部のオランダ語系のフラマン語を話すフラマン系住民と南部のフランス語系のワロン語を話すワロン系住民の間の対立です。他にもドイツ語を話す住民もいますし、フランス語系といってもワロン語の他にもシャンパーニュ語だのなんだのといった「地域語」を話す人々もいたりします。両者の対立ですが、政治経済的には、ざっくり言えば、豊かな北部と貧しい南部の対立です。北から見るとなんで俺たちの税金が・・・となるのですが、そこに文化的アンデンティティーが絡むとさらに対立が亢進しがちであることはある程度は想像できると思います。

こうした文化対立はずっとあったわけですが、特に1970年代ぐらいから文化ナショナリズム的な運動が強くなるにつれ、「言語戦争」とまで呼ばれるような文化の対立状況が生まれたとされます。1993年に連邦制に以降し、現在に至るのですが、両者の溝は深まるばかりのようです。かなり荒っぽい話やそこまでやるかみたいなニュースが報じられたりしています。なおワロン運動フラマン運動については英語版のWikipediaでも概要がつかめますので紹介しておきます。下の記事で登場するRWFは合併派ないし連合派(Rattachisme)の流れの団体ですね。

なお私自身はこの件に関してワロン側の不満の声を聞き過ぎたせいかあまりバランスのとれた見方ができていない自信のようなものがあります。分離独立やフランスとの合併というのは正直に言って現実的な選択とは思えないのですが、Economistのもう別れたらというラディカルな提案記事の記憶が鮮明だったのでリンクしておきます。これは半分冗談の記事ですが、本当に分離したらその波及効果はかなりのものになると思いますね。こういう問題を抱えた地域は他にもありますから。EUのエリート層もベルギー情勢の推移には戦々恐々でしょう。まあ「西洋人」同士でも文化的に違いがあると一緒にやるというのは難しい訳です。多文化共生って本当に大変なことなんです。以下、フィガロからワロン系住民の最近の声を伝える記事を紹介しておきます。現実的な選択肢というよりも気分としてフランスとの合併もいいかもなあという声が大分広がっているという話です。

「ワロン系住民はフランスと一緒になりたいと考える」[Le Figaro]
離婚の脅威はタブーを打ち破っている。フラマン系住民に拒絶されていると考えているワロン系住民がフランスへの傾斜を示している。178年の結婚の後にベルギーの結婚解消が完遂されたならば彼らの49%がフランスとの「合併」に魅了されているというのだ。

ベルギーの新聞Le Soirとフランスの日刊紙La voix du Nordに報じられたIfop調査のこの仰天すべき数字は言語境界の両側の緊張を確認している。これまで4百万人のワロン系住民は王国の最後の壁のようなものであった。ずっと彼らは同胞たる6百万人のフラマン系住民の要求になにも言わずに耐えてきたし、逃げ出したいという密かな意思も隠してきた。今日では彼らは拒否し始め、競り値を上げている。

フランス語圏では南の偉大な隣国との連合のようなものを誓う政治家はほんのわずかだ。Rassemblement Wallonie-France(RWF, ワロン・フランス連合)みたいなそうした党派や少数グループはせいぜい1%でしかない。フラマン系側でも分離派は─チェコとスロヴァキアのような選択的で友好的な分離─有権者の10人に1人程度の票しか獲得できない。

この調査は単なる悔しさの身振りなのだろうか。「これはむしろ叫びなんですよ。フランス語圏の住民はひどく怒っているのです。フラマン系の政治階級が王国運営に押し付ける数の論理に対して。それから火消しにして火付けでなにも決断できない首相イヴ・ルテルムに対して。離婚は今日明日のことではないです。でも不幸な時にはワロン系住民はフランスが避難場所になるんだと信じたいんですよ」とLe Soirの編集者のリュック・デルフォス氏は説明する。

しかしながら同アンケートによるとワロン系住民の大多数はベルギーという夫婦の存続に関しては楽観的なままだ。確かに危機の深まり、深刻さ、リスクについてはほぼ一致して認められている(93%)。しかし夫婦の解消と消滅を今日是認できると評価するのはフランス語圏のベルギー人の23%のみだ(59%が反対)。こうした場合には彼らはフランスの胸に身を預けることだろう。しかしこれは最悪の場合のシナリオだ。避けられるならそれに越した事はない。

しかし親フランス的なRWFの創設者にして代表のポール・アンリ・ジャンドビアンはその時が来たと信じている。「これはベルギー国家の加速する退廃の結果です。この危機に瀕してワロン系住民は安全と安定の必要を感じているのです。フランスという解決はしがみつくべきなにかなんですよ。熱狂からにせよ。諦めからにせよ。フラマン系住民との分離というのは通過すべき悪い瞬間にすぎないでしょう」と彼は言う。

イヴ・ルテルムの三度目の辞任(国王に拒否された)以来、合併派は頭をもたげている。長い間なきな臭い[?sulfureux 硫黄臭のする]テーマであったヘクサゴン[註 フランスのこと]との連合はもはや完全には冗談ではないと政治学者のパスカル・デルヴィトは語る。RWFは王国のスローガンを脇にのけて至る所にビラを貼っている。「フランスと一緒になれば連合は力を増すだろう」と。ポール・アンリ・ジャンドビアンのようにフランス好きはフランス革命、ナポレオン、そして王国の基本理念の遺産たる文化的、司法的、行政的な近さを強調する。「1830年にベルギーは第二の小フランスになろうとしたんだ」と彼は言う。しかしこうしたロマン主義は堅固な現実と衝突するリスクがある。ケベック同様に、しかし今度は直接の近隣で、フランスは現状アクロバティックになり得る方針をとっている。つまり干渉しないが無関心でもないという方針だ。

欧州連合は他の25カ国のメンバーとともにローマ条約の6カ国の署名国の1カ国が消滅してしまうかもしれないことを心配している。ましてや旧大陸の統合モデルは、その制度の本質を宿す王国が消滅するようなことがあれば、困難な時を迎えるだろう。状況が悪化し、国境線の訂正があるようなことになったら・・・

追記
一文変更しました(8.14.2008)。

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