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ジャック・アタリの大陸大連合

これまでNATOと欧州連合の動向についてたびたび言及してきたのですが、ジャック・アタリがレスクプレスのブログで短い記事ながらもひとつの見解を開陳しているのを見つけて、しばらく唸ってしまったので紹介しておきます。氏は有名なエコノミストで思想家ですが(邦訳も多数あります)、欧州復興開発銀行総裁や大統領補佐官としてミッテランの側近を務めたり、話題になったアタリ・リポートを提出して現サルコジ政権に対しても経済アドバイザーのような役割を果たしている人です。現実的かどうかは別にすれば、それなりの合理性のあるひとつのヴィジョンにも思えてくるから不思議なものです。実際、似たような事を言っている人は何人かいますね。NATOは解体して欧州連合にロシアを包含するという松岡洋右ばりの大連合構想ですね。「でかいこと」を言うのがこの人の常ですが、まあアメリカは許すまいし、東欧は同意すまいでしょうね。ただとっても大陸的な発想ですね。

"Inutile OTAN" par Jacques Attali[L'Express]
周知の危機をもたらしたNATOへのグルジア加盟問題はまもなく大規模に炸裂することになろう。ブリュッセルの12月の西洋軍事同盟の外相会談でその加盟が首相議題となるだろうウクライナとともに。この会談はまた米国大統領選挙の結果に非常におおきく影響されることだろう。大統領選ではウクライナとポーランドの利害を代表する圧力団体が加盟を支持する候補を獲得したが、この地域におけるロシア帝国の2世紀にわたる支配に対してポーランド、ウクライナが復讐する夢を育んでいるのだ。

ロシアから見れば、ウクライナのNATO加盟は戦争事由となり得る。というのもそれはロシアが1000年来受け入れなかった事柄、すなわちバルト諸国から中国までのロシア包囲網を完成するものだからであり、ウクライナにはロシアの主要な海軍基地とロシアの軍事産業の本体が集中しているからである。このような加盟が実現したならば、ロシアは部隊を国境に集中し、ますます権力を軍に委ねることになるだろう。他方でウクライナの統合もまた問題となるだろう。

こうしたことは我々をより古い問題へと導く。なぜNATOを維持したのかだ。この組織はソビエト連邦やワルシャワ条約機構に直面してこそ意味を持った。今日では両者は消滅し、世界はテロリズムに対する惑星的な(軍事ではなく)警察連合を必要としているのだ。欧州は経済的、政治的、軍事的組織を必要としている。しかし消滅した敵を対象とした組織など誰も必要としておらず、敵がソビエト連邦でければ意味のない軍需品を生産する西洋の軍事産業の圧力以外による以外にこの組織の存続は説明できないのだ。

したがってNATOを解体し、3つの存在でこれを代替することを要求する勇気を欧州は持たねばなるまい。ひとつは防衛的欧州連合だ。2004年に紙上で誕生した欧州防衛局がその萌芽となるのだ。第二に欧州連合をウクライナへ、さらにロシア、トルコへ拡大することだ。第三にNATOを対テロリズムの世界的警察連合に変化させることだ。ロシアはそこで自らの場所を占めるだろう。

いずれにせよ米国の次期大統領と対話せねばなるまい。

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コメント

『多くの人たちは、中くらいの義理に対しては感謝の念を抱くが、大きな恩恵に対しては、恩知らずの振る舞いに出ない人はまずいない。』ラ・ロシュフコー
これを語るジャック・アタリさんが、会議の席上で会社の大胆な組織改革に熱弁を揮いながら、遠くの席に座っている実力社長の顔色をチラチラと伺っているサラリーマンに見えてしまいました。

投稿: chengguang | 2008年9月21日 (日) 11時51分

ははは、うまいこといいますね。ただこの熱弁家はなかなか侮れないんですよね。欧州連合にせよ地中海連合にせよ、そりゃないだろうと思ったことが現に動いてしまっているので。NATOをどうするのかはともかく欧州連合の軍事化の声は徐々に大きくなっている印象を受けますね。

投稿: mozu | 2008年9月21日 (日) 15時09分

ジャック・アタリさんの唱えるような組織としては、現在既に欧州安全保障協力機構がありますので、ジャック・アタリさんの意図は、フランスの悲願である、アメリカを排してフランスが大陸の政治的主導権を手中に収める、にある気がします。

投稿: chengguang | 2008年9月21日 (日) 21時15分

ええ、OSCEを使える組織にするというのもひとつの選択だと思います。今はあまり存在感がないですね。よくいる反米家やゴーリストではないですが、この人には欧州の自立性への志向、言い換えればアメリカの影響力を低減させたいというモチーフがありますね。おっしゃるようにフランス主導でね(笑)。

あちらさんがどう考えるにせよ、英米、欧州とロシアが対立することが日本にとってプラスかマイナスかという分析はこちらもすべきでしょうね。今のところ私にはマイナスのほうが大きく感じられるので「新冷戦」的展開はあまり望ましくように思えます。というわけで欧州がヘタれているのもそれはそれでいいのかなとも思っています。東アジアへの影響についての透徹した分析を見た事がないので直感にすぎないですけれども。

投稿: mozu | 2008年9月21日 (日) 22時29分

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