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サルコジのシリア訪問

先日のEU首脳会談では各国の利害の不一致にもかかわらずなんとか対ロシアで共通メッセージを発することができたわけですが、その後もサルコジは動き続けているようです。以前書いた地中海連合立ち上げの際に最も注目されたのはシリア大統領アル・アサドのパリ訪問、そしてシリア、レバノンの国交樹立であったことを記憶されている方もおられるでしょう。アメリカとは異なるフランス主導の中東安定化の動きとして注目されたのですが、その話の続きです。

外相クシュネルのレバノン訪問に続き、4日大統領サルコジがダマスクスを訪問し、トルコ首相、カタール首長も交えて4者会談を行いました。
シリア:和平プロセス「枠組み案」提示[毎日]
仏、シリアなどの4首脳会談 中東安定化へ新枠組み[産経]
産経は共同配信記事ですが、短信ですので全文引用します。

フランスとシリア、トルコ、カタールの4カ国首脳が4日、シリアの首都ダマスカスで会談した。議題は、シリアとイスラエルの間接和平交渉の促進に向けた方策や、停滞するパレスチナ和平交渉への対応、イランの核開発問題など。会談にはシリアのアサド大統領とフランスのサルコジ大統領、トルコのエルドアン首相、カタールのハマド首長が出席。トルコとカタールは最近、中東各国の対立や争いを解決に導くため仲介外交を活発化させており、フランス、シリアとともに新たな枠組みで中東安定化を目指す動きといえる。

この場でアサド大統領がイスラエルとの交渉の「枠組み案」を仲介役のトルコに手渡したとされます。シリアとイスラエルは今年5月からトルコを介して間接和平交渉を進めている最中なのですが(現在4回)、イスラエル側の「枠組み案」がトルコに手渡された後には、両国の直接交渉に移行するという段取りになっています。なお第5回目の間接和平交渉は諸事情により延期された模様です。またイランの核問題についてシリアが西洋とイランの仲介役を果たすよう要請した模様です。

"France's Fling with Syria"by Bruce Crumley[Time]
これはよくまとまった記事です。ブッシュ政権はシリアの孤立化を目指してきた。サルコジはシラクに比べてフランス外交をワシントンに接近させようとしている。ではなぜサルコジはダマスカスを訪問するのか。アメリカと同じゴールを目指しつつフランスの独自性を復活させる外交ゲームを演じるためだと言います。レバノン首相ハリリ暗殺事件以降シラクはシリア批判の急先鋒となったのですが、サルコジはシリアが国際社会復帰への意志を持っていると睨んで現在のアプローチに展開したとされます。確かに人権上問題は大きいが改善の兆しも見えると。この記事で重要なのはカタールについての言及だと思います。

Whereas Chirac had relied on Saudi Arabia as his primary Arab interlocutor, Sarkozy appears to have turned to Qatar as the key intermediary to re-establish contacts and prepare visits and exchanges between Paris and Damascus. Evidence of Qatar's mediating role is clear in the fact that the Gulf State will participate, along with Turkey, in a four-nation summit Thursday during the second day of Sarkozy's Syria visit.

シラクがサウジアラビアに依拠したのに対してサルコジはカタールに目を向けている。この四者会談にカタール首長が加わっているのが仲介者の役割の明瞭な証拠であるといいます。またイランとシリアを切り離し、西側寄りにすることを目指しているのでアメリカの戦略とも一致すると。さらに記事はグルジア紛争の際に国際的非難の中シリアがロシア支持を表明した点を指摘しています。ポーランド、チェコのミサイル防衛システムに対抗するロシアのミサイルシステムを設置することをシリアはロシアに提案し、ロシアは軍事演習と武器売却を約束したといいます。ただこの点についてはフランス側は西側の気を引くための演技だと見ているようです。以上、この記事はいかにアメリカの中東戦略とサルコジ外交が合致しているのかを強調しています。

一方でアメリカとの間でいざこざがあったことを報じる記事もありました。
"France elbows U.S. aside in Syria negotiations"by Zvi Bar'el[Haaretz]
イスラエルのハアレツの記事によれば、アメリカは会談への参加を説得されていたが、フランスがシリアへ「強行」することでアメリカの決定を当面キャンセルさせたといいます。国務次官補のウェルチがトルコでのシリア・イスラエル会談でのオブザーバー参加を予定していたが、ワシントンはフランスの後追いをするつもりはないとしてウェルチの参加が取りやめになったそうです。アメリカが不参加であるゆえにアサドはこのフランス・カタール・トルコの支援するイスラエルとの直接交渉でなんとかやるつもりだとしています。またこの首脳会談は米仏が通した国連決議1559を無にするものである。この決議は外国軍のレバノンからの撤退とヒズボラを含む民兵の解散を定めたもので、レバノンのハリリ首相暗殺の遠因にもなったとされるものですが、フランスとシリアの関係改善とともにこの決議の履行を推進する者はいなくなったと記事は締めくくられています。

このアネクドートは一見小さな外交的駆け引きの話にも思えますが、けっこう広い射程をもった話のような気がしています。再三述べていますが、やはりゴーリスムの伝統というのはなかなかに強固なものであってアメリカの戦略とより連携したとしてもこの国が独自外交を諦めるはずがないのです。ゴルドハマー氏はこの四者会談でのトルコとの接近に注意を促していますが、トルコの地政学的重要性はこのたびのグルジア紛争であらためて焦点が当たり始めているところですから、欧州連合加盟交渉で冷えきった仏土関係にも新しい展開があるのかもしれません。と考えると地中海連合という枠組みは思わぬ形でその有用性を発揮し始めることになりそうですね。企画倒れだという声もけっこう大きかったのですが、これは使えそうです。勿論資源の話も絡むわけですね。複数のゲームを同時に展開するというサルコジ外交の持ち味が出てきているように思えます。やはり手数は多い方がいいのですねえ。

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コメント

トルコに関しては、こっちのアルメニアとの関係改善の動きも気になりますね。

トルコ大統領、アルメニア初訪問へ 関係改善へ一歩
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20080904AT2M0400O04092008.html

アルメニアがトルコを憎む様は、韓国が日本を憎む様に似ていると思っていたのですが、その両国を関係改善へと動かしたのは、アメリカなのかフランスなのか、それとも別の国なのか。

投稿: Baatarism | 2008年9月 5日 (金) 10時00分

トルコは「コーカサス同盟Caucasus alliance」というのを提唱しているようです。アルメニア、アゼルバイジャン、グルジア、ロシア、トルコからなる「同盟」ということです。どういう中身なのかはよく判らないのですが、経済協力だけでなく領土問題なども扱う仕組みのようですね。英語のwikipediaからリンクが辿れます。
http://en.wikipedia.org/wiki/Alliance_for_the_Caucasus

EUやアメリカとも調整しているようですが、トルコ主導の動きに見えますね。「新冷戦」になったらトルコはダメージが大きいですから。トルコのナショナリストがアルメニアとの接近を激しく批判しているようですけれども、歴史問題なんて死活的利害を前にしたら吹き飛びますからねえ。

投稿: mozu | 2008年9月 5日 (金) 13時31分

昔読んだフランスの小話に、クレマンソーの言葉として、猫とハエと女はよく似ている、というのがありますが、アメリカにとってのフランスはそのどれかだと思います。
フランスは建前上反ロシアの姿勢を採ったので、裏のパイプ作りを始めた、と考えるのは考えすぎでしょうか。
日本外交もフランスくらい厚かましく行えればいいのですが・・・

投稿: chengguang | 2008年9月 5日 (金) 14時36分

>フランスは建前上反ロシアの姿勢を採ったので、裏のパイプ作りを始めた、と考えるのは考えすぎでしょうか。

いえ、考え過ぎではないと思います。仲介者の役割を果たすには実際にパイプをもつ必要がありますから。露仏関係というのもなかなか複雑なので口では対立したふりをしても単純な敵対関係にはしないでしょうし、狭間の国々にもこうしてアプローチをかけていくのでしょうね。敵対役は英米にまかして間をとりもつ形で方々で影響力の拡大をはかると。

フランスに比べると大人しく見えるかもしれませんが、日本もけっこう老獪なリアリストだと思いますよ。外国から見た日本外交のイメージと日本国民のもつそれとは少しずれているように思いますね。

投稿: mozu | 2008年9月 5日 (金) 15時37分

読解力がない所為かもしれませんが、海外記事を見ても日本の老獪な外交が見えていません。偶には良い気分に浸りたいので、是非、外国から見た日本外交を、貴ブログで紹介して戴けませんか。

投稿: chengguang | 2008年9月 5日 (金) 21時35分

胸のすくような華々しい外交を期待するとなにやってんだみたいな感想になると思うのですが、海外から見るとうまいことやっているように見えるようですね。日本外交の研究者には「二重保険戦略dual hedge strategy」なんて呼ばれ方をされていますね。政治的パートナーと経済的パートナーの切り分けのことですが、これはかなり狡猾かつ老獪に見える戦略みたいですね。特にアメリカから見ると。日仏が並べられて指弾されることもありますね。お前ら汚いぞと。

投稿: mozu | 2008年9月 5日 (金) 23時20分

早速『二重保険戦略』を検索してみました。お二人の名前が判りました。お一人は米外交問題評議会シニア・フェローのエリック・へジンボサム氏、もう一方はマサチューセッツ工科大学政治学教授のリチャード・J・サミュエルス氏とありました。この他にもこの説を唱えている方がいらっしゃるのでしょうか。また、この方々のアメリカ政府に対する影響力はどの程度あるのでしょうか。

投稿: chengguang | 2008年9月 6日 (土) 11時29分

たぶん2002年のフォーリンアフェアーズ掲載論文が初出だと思うので「二重保険外交」と命名したのはこの二人だと思いますが、政治パートナーと経済パートナーの切り分け自体は冷戦時代を通じてアメリカは不満をもって眺めていたので誰もが認識していたことだと思います。一番気に障るのは日本とイランの関係でしょうね。アメリカの敵とでも経済的利益のためならつきあう同盟国ですからある意味フランスと同じように見える部分もある訳です。上の論文はアフガニスタン戦争の時に書かれたものですが、この点についても触れています。お読みなったかもしれませんが、このpdfですね。
web.mit.edu/polisci/research/ samuels/japan's_dual_hedge.pdf

要は日本外交について欧米では「平和主義」だの「普通の国」だのハト派だのタカ派だのについて議論しがちだが、本質をはずしている。日本は理念がどうこういう以前におそるべきプラグマティストなのだ、それは明治の頃から基本的に変わっていないという認識ですね。政府とは距離があると思いますが、サミュエルズ教授の本は標準的な教科書になっているので影響力は大きいと思いますね。ジャパン・ハンドで読んでいない人はいないでしょう。

http://www.amazon.co.jp/Securing-Japan-Strategy-Cornell-Security/dp/0801474906/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=english-books&qid=1220703320&sr=1-1

サミュエルズ教授以外で日本の外交安全保障についての議論で有名なのはワシントン大学のパイル教授ですかね。
http://www.amazon.co.jp/Japan-Rising-Resurgence-Japanese-Purpose/dp/1586484176

こういう代表的なアカデミシャンがどう見ているのかのほうがいい加減な新聞報道なんかよりも重要だと思います。日本語で内容紹介的な書評がありますね。
http://www.tkfd.or.jp/research/news.php?id=269


もう一人の方は評議会の人なのでそれなりに影響力があるのでしょうね。日本と中国の専門家ですが、個人サイトをもっていて論文やインタビューをのせているのでだいたいどういう考えの人か判ると思います。歴史問題なんかでもこのへんの人達の見方を動かせないようでは駄目ですね。騒ぐ相手を完全に間違えていると思います。

投稿: mozu | 2008年9月 6日 (土) 21時43分

2002年9月、2003年3月のフォーリン・アフェアーズに載った同タイトルの論文、2003年2月(財)渥美国際交流奨学財団で行われたセミナーのレジュメ、そしてMozuさんの記事にあった本の解説に目を通しました。論文は、本に比べ薄い分著者の思想のエッセンスが詰まっている、と考え感想を申し上げると、『二重保険戦略』という概念が先行し、内容に乏しいと言う印象を受けました。
知日派か否かに係らず、戦後日本に関する知識(歴史及び対日アメリカ政策と日本の対応)が見られないこと(あるいは意識的に隠していること)が、この論文内容を浅くしている要因に思えます。その結果、日本の歴史や日本とアメリカとの係わり合いを知らないアメリカ人の立場から見ると、日本の立場を理解しようというよりは、一緒に行動してくれる軍事同盟国と信じ、アメリカは今まで散々日本を助けて来ているのに、日本は自己中心の国家だ、との印象しか与えないと思います。
だた、この著者が安倍首相については如何の様な評価をされていたのか、興味を持ちました。

投稿: chengguang | 2008年9月 8日 (月) 09時32分

サミュエルズ教授は明治以来の日本外交、安全保障の研究者ですので(先に挙げたもの以外に「富国強兵」「マキャベリの息子達」という優れた著書もあります)知識面で問題があるということはないと思います。

この論文が置かれている文脈ですが、日本は自己中だという非難に対して、いや、これは日本の国家戦略なのだと言うことで擁護している訳です。おおざっぱに言うと、日本は今後改訂吉田ドクトリンでいくだろうし、それは地域の安定にとっていいしアメリカの国益にも適うだろうというのがこの人の考え方だと思いますね。

アメリカには同盟国としての責任を果たせという見方の他にもこういう見方もあってわりと有力みたいです。民主党系のリアリスト受けがよさそうな印象を受けますね。あちらさんがどう考えようとも日本がどうしたいのかはっきりしないことにはどうにもならない訳ですがね。

投稿: mozu | 2008年9月 8日 (月) 22時55分

擁護というのか説明ですかね。日本はセルフィッシュな国というのは定評だと思います。アメリカにこんなに尽くしているのにみたいに思っている人が多いのは少しおかしいと思いますね。実際、本当に日米蜜月と言えそうなのは戦後でも限られた期間しかない訳ですしね。

投稿: mozu | 2008年9月 9日 (火) 04時59分

Different people in every country receive the credit loans from various creditors, just because this is fast and easy.

投稿: MullinsPaige22 | 2011年8月 9日 (火) 09時06分

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