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憂鬱な月曜

ぐぅ。以下気になった記事のクリップです。

"A Partner and an Adversary"by BHL[The New Republic]
すっかりプロパガンダ・ライターと化しているBHLの記事です。いつものように民主主義の擁護者として西洋の奮起を促していますが、こういう扇情的な文章はどうにも私の性に合わないようですね。こういうというのは

People say, "We knew this war was going to happen. We should have foreseen it and prevented it." That's true. But what exactly did we know was going to happen? And once again, how dare reverse the roles in this way? On one side there is the Georgian whose only mistake may have been to overestimate our willingness to support him. On the other is the Russian who is pursuing the program he laid out in April 2005, when, in an address to the Federal Assembly, he said the collapse of the Soviet Union had been "the greatest geopolitical catastrophe of the 20th century." Yes, you read that correctly: the greatest catastrophe. Greater than the world wars. Greater than Hiroshima, Auschwitz, Cambodia or Rwanda.

というような調子のことですね(ちなみに仏語圏ではこうした文脈で躊躇なく広島が出てきます)。68年の怒れる反スタ青年の姿を彷彿とさせる文です。グリュックスマンとともにロシアに関してはずっとコミットメントしてきたのでその思いに嘘はないことはよく判るのですが、どうもこの世代の思想家の書くものは私の好みではないようです。意見の是非以前に深みに決定的に欠けているような気がしてきます。いえ、戦略家が戦略論を展開するのは無論それでいいのです、思想家には違ったアプローチがあるだろうことですね。現代のサルトルにはなれそうもないですね。Tant pis pour BHL!

"Nicolas Sarkozy appelle Moscou à un comportement 'responsable'"[Le Monde]
8日にモスクワ訪問したサルコジがメドヴェージェフに「責任ある」振る舞いをしろと訴えた模様です。ロシア大統領はEUの監視団の派遣の受け入れを拒否したとされます。国連とOSCEが既にその役割を果たしていると。サルコジはフランスの提出した和平案が「よき出発点」となって解決が見出されることを望む旨語ったようです。ちなみに例の和平案の文面の「翻訳問題」というのがあります。オリジナルのフランス語では「アブハジアとオセチアにおける安全」となっているところがロシア語版では「アブハジアとオセチアの安全」となっている問題です。enとde、英語だとinとofの違いです。これをロシア側が部隊駐留の根拠としているのですが、フランス側はフランス語版の「における」が正しいのだと主張しています。領土一体性の文言の欠如もそうですが、これはフランス側がわざと逃げ道をつくってやっているようにしか思えないのはさすがに穿ち過ぎでしょうかね。ロシアが国際法や国際条約を徹底的に利用する(都合の悪い時は破る)国だということは知り抜いているはずですからねえ。

"Down but not out"[Economist]
少し明るい気分になる記事ですのでおすすめしておきます。いや、米欧に比べたらそんなに悪くなるはずないんですよね。しばらく落ち込みがあっても復活は早いだろう、来年は他の先進国よりもいいパフォーマンスを示すだろうという予想です。根拠は日本は西洋諸国を襲う経済的、金融的インバランスを避けたからというのが一つ。惨憺たる有様になっている米欧とは異なり、クレジットクランチを経験していないし、住宅価格も急落していない。また家計の借金が2000年の71%から60%に減っている点、また企業についても1991年の131%から78%にまで減っている点が挙げられています。最期に日本の輸出の半分はアジア地域向けである点。長期的に成長するには改革が必要だが、来年は米欧よりもGDPはより速く成長するだろうし、一人当たりGDPも─人口減少によってではなく─米欧よりも増大するだろうと。問題は他のアジア諸国が大丈夫かどうかですが、もう上を向いていきましょうよ。Don't panic, it's just a test!

"Aso braced; Fukuda into the sunset"[Economist]
"Another grey man bites the dust"[Economist]
同じくエコノミストの政局記事。やはり他よりはだいぶまともに見えます。麻生氏についてはさっそく過去の発言の恣意的な引用によってナショナリストとか右翼とか色をつけるような記事が続々と出ているのですが、エコノミストはさすがに少しはニュアンスがあります。

Mr Aso, a 67-year-old Catholic, is from a prosperous right-wing family. He was foreign minister under both Mr Koizumi and Mr Abe. A hawk who wants Japan to play a much more robust role abroad, Mr Aso is also an original compared with more ideological conservatives. For instance, he advocates taking the sting out of the militarist Yasukuni shrine, which bedevils Japan’s relations with its neighbours, by moving worship of Japan’s war dead to somewhere less contentious.

いや、大久保利通も牧野伸顕も吉田茂も別にright-wingじゃないと思うのですがね。どちらかと言えば右も左もない政治リアリストの家系ではないでしょうか。この記事では他のイデオロジカルな保守に比べるとオリジナルであるという留保をつけていますが、こういう一文があるかどうかでちゃんと見ているのかどうかが判ります。なおGlobal Talk21の奥村さんがこの点について英語圏で説明されているのには頭が下がります。本当に「日本の保守」というと色眼鏡で見られるんですよね。無知なくせにイメージと逸話だけでなにか判ったような口を利くから困ったものです。麻生さんを支持している濃い人々もこの点よく判っていないようですし、足あげとりばかりの日本のメディアがどうしようもないんですけどね。ただあの口の軽さはどうにかして欲しい。私的にはあのお祖父様譲りのユーモアのセンスは嫌いではないですが、こうもグローバルに情報化されてしまうと冷や冷やしてしまいます。いや、サルコジやらベルルスコーニやらなんかのほうが口は悪いんですけどね。狙っているジャーナリストが多くて本当にうざい話であります。ちなみに私は財政出動派じゃないので積極的には支持しません。地方分権はオーケーなんですけどもね。

もうひとつはこの混乱を通じて政界の再編を待望すという内容の記事です。自民党の改革派と民主党の改革派がくっついて政策に基づく真の政党政治が開始されることを希望すると。そうなりますかねえ。FTといい本当に小泉氏が好きみたいですね。ちなみにエコノミストの記者さん、Observing Japanを参考にしてますでしょ、英語圏ではいいブログだと思いますけどね、死角もけっこうあると思うのですよ。ひとつはハリス氏は政局分析にイデオロギーを持ち込んでいますよね。でもですね、ここはアメリカじゃないんですよね。妙に大義名分にこだわる生真面目さの一方でですね、いざとなると尊王攘夷を叫んで暴れていた連中がいつの間にか文明開化を唱導していたような国なんですからね、hahaha。

ふう。なんだか妙なノリなのは憂鬱な一日だったことの反動です。それではみなさん御機嫌よう。愉快な火曜日になりますように。

追記
サルコジのモスクワ訪問ですが、記事が差し替えられていました。EUの監視団を受け入れ、南オセチアとアブハジアを除いたグルジア領内から撤退する合意がなされた模様です。監視団が入れるのはグルジア領内にロシアが設定したzones tamponsのみであり、撤退するのもここのみだという点で限定された合意内容ですが、トビリシはこの「非常に重要な結果」を歓迎しているようです。

"The Power of De"by Paul Krugman[NYT]
エントリでリンクするのを忘れたのですが、クルーグマンの気になる記事。ますます状況が日本に似てきているという観察です。ファニー・メイとフレディ・マックの救済は正しいが(住専の時に喚いていた人は今なにしてますか?)、fedはこの戦いに敗れつつあるように見える。住宅価格の下落は「債務デフレ」の状況を生んだ。インフレではなくデフレだ。フィッシャーが1930年代に"stampede to liquidate"と呼んだアセット売りの悪循環の現象が見られる。さらに借金で買ったアセットなだけにこの債務デフレは醜悪だ。現状は1980年代末の日本の金融危機にそっくりだ。日本型金融危機に対する処方箋は利下げと財政出動のアグレッシブな組み合わせになるはずだった。バーナンキは思い切った利下げをしたが、財政出動はtoo smallで poorly targetedだ。我々はどうやら戦いに負けつつあるようだ云々と悲観的な見通しを示しています。うーむ。アメリカは回復は早いだろうと思っていたのですがね。思い切った財政政策ですかあ、共和党政権には無理そうに見えますね。というところでこのオピニオンをアメリカ国内政治の文脈で解釈するべきなのか、いや不偏不党のエコノミストの正論と考えるべきなのかどうか迷ってしまう自分がいたりもします。いや後者なんでしょうけれどもね。ところでタイトルのDeはdebt deflationとdeleverage、あるいはdefeatのDeなんでしょうかね。

それからOberving Japanですが、麻生氏についてニュアンスのあるポストを書いていますね。こういう部分は評価しているところです。一応書いておきますが、もちろんイデオローグがいないとかイデオロギーは重要ではないなどとは言っている訳ではありません。ただ国際情勢次第、政局次第でいくらでもトーンが変わってしまうことを知っているのであんまり真に受けないんですね。無定見とか無節操とも言えますが、こういう日本流プラグマティズムの伝統というのはまあ基本的によい政治レガシーだと思っていますのでね。

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コメント

>同じくエコノミストの政局記事・・・
こうしてみると、
英語圏のジャーナリストがもっている情報ってのは、かなり薄いでしょうね。英語で情報発信しない日本の政治家も悪いんですが・・・
ハリス氏のはおもしろかったですね。
政局は一寸先は闇ですから、どうなるかわかりませんが、国民の第1優先事項は、やはり、パンとバター、経済でしょうね。ただ、今度の選挙は、自民党にお灸をすえるといった制裁的な雰囲気はまぬがれないでしょうね。自民党がいくら頑張ります、といっても空々しく聞こえる。

投稿: | 2008年9月10日 (水) 08時02分

>英語圏のジャーナリストがもっている情報ってのは、かなり薄いでしょうね。
薄いですね。だいたい決まった人々からの情報なのではずすことも多いですし。インフォーマントをもっとたくさん確保すればいいのにという話なのですが、あまり熱意が感じられないですね。カオス的な政局を読むのは日本人にも難しいですし、一方で誰が首相になっても安定している国なので調べる意味があるのかという気分になってくるのは判るのですがね。ただなんじゃこりゃという記事が出るのはどうにかしてほしいです。

>ただ、今度の選挙は、自民党にお灸をすえるといった制裁的な雰囲気はまぬがれないでしょうね。
逆風には違いないですが、どこまで自民が負けるかはちょっと判らないですね。中長期的に見たら後の政界再編につながる選挙だったということになりそうな予感もしますが、どうなるのでしょうねえ。

投稿: mozu | 2008年9月10日 (水) 16時34分

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