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提唱王

"IMF Probes Chief Over Tie to Worker"[WSJ]
IMF総裁のドミニク・ストロス・カーン(DSKと略す)氏が部下との不適切な関係で調査されている模様です。おそらくはフランス人の誰一人として驚かなかったこのニュースですが(そういうやつであることはみなが知っている)、なにもこんな時期といいますか、あるいはこんな時期だからなのでしょうか。盛んに陰謀論が囁かれていますね。規制論者で知られるDSK対WSJが代表するところの勢力との闘争という図式で。またこんな話はパリでは日の目を見ることはないだろうといった政治家の私生活に関する比較文化論的解説も出回っています。ピューリタン!といういつものやつです。まあ私はコメントしないでおきます。ブランシャール先生はなにをやっているのかなとかIMFの役割は今後はどうなるんでしょうかというのは気になりますけれどもね。

"La victoire de l'Europe"[Le Figaro]
先日の緊急首脳会合での欧州協調路線を主導し、それが米国の政策にも影響を与えたということですっかり気をよくしているサルコジ氏が、カナダ、アメリカで吹かしているようです。ル・フィガロが連日サルコジ万歳、欧州万歳記事を掲載しているのが微笑ましいのですが、米国に影響を与えたことが(米国にimposerしたのだと強調されています)そんなに嬉しいですか。逆にどれほど心理的に依存しているのかを示しているようでもあり、どこか切ないものもあります。あるいはこれから本格的な不況の波が欧州を襲うことについてしばし忘れたいということなのかもしれません。

"Des sommets internationaux contre la crise financière"[Le Point]
「未来の資本主義」とか「ブレトン・ウッズ」とか威勢のいいことを語っていますが、もはや任期切れを待っているブッシュ氏相手になにか実質的なことが決められるわけもなく、今回の訪問は今後の展開をにらんだ政治的パフォーマンス以上の意味はなさそうです。複数のサミットが開催される予定とのことですので今後は熾烈な外交戦になるのでしょう。ところでル・ポワンの記事の一節を引くと

フランス大統領が「未来の資本主義」の建設を望むのに対してジョージ・ブッシュは「民主的な資本主義(つまり現状の資本主義)の基盤を維持することが肝要だ」と繰り返した。土曜にはハーパー首相の報道官によれば「国際金融システムに永続的な損傷」を与えない慎重さをカナダも同様に訴えた。

といった具合のようですからそもそも噛み合っていないようです。今後しばらくは欧州が規制と監督を叫び、その他の国々はこれを横目でにらんで慎重に対応するという構図になるのでしょうか。FTはこの動きを牽制していますね。ともあれ今はいかに目前の危機に対処するのかという段階で経済新秩序について派手なパフォーマンスをする段階ではなさそうな気がします。これはこの「ハイパー大統領」の持ち味なのですけれども。確かにあの当初の混乱ぶりから政治の力で欧州協調の流れを実現できたのはたいしたものだとは思いますが、最近の欧州というかフランスは少し浮かれてはいませんかね。大変なのはこれからだと思うんですよ。辛過ぎますか。

"Nicolas Sarkozy veut un gouvernement économique pour la zone euro"[Le Monde]
キャンプ・デイビッドで「未来の資本主義」について語った大統領は、ストラスブールの欧州議会ではユーロ圏の「経済政府」の樹立を訴えております。一部引用すると、

「明確に定義された経済政府なくしてユーロ圏の存続はあり得ない」とストラスブールの欧州議会で彼は主張した。現在ユーロ圏の唯一の連邦組織たる欧州中央銀行が「独立すべきである」としても、欧州中央銀行は「経済政府と討議できるというのでなければならない」と論じた。

記事によるとバローゾはECBの独立の観点から距離をとったとされます。さらにサルコジは中国に出向いて資本主義の立て直しの枠組みにアジア諸国を参加させるべく説得すると宣言している模様です。欧州中央銀行とサルコジの因縁の対立を想起するならばこの「経済政府」の主張に警戒する人は多いでしょうし、果たしてドイツはこの提案に乗るのでしょうか。ベルルスコーニは賛成しそうです。アイディアそのものはそれなりに理に適っているとは思いますがね。また北京に来てこちらも引っ掻き回す予定らしいですので、日本も警戒したほうがいいのかもしれません。ともかく矢継ぎ早に提案を繰り出して手数を増やし続けるサルコジです。壮大かつ曖昧な構想を提唱することにかけてはこの人の右に出る人はそうはいないでしょう。構想倒れのパターンもあるのですが、やはり侮れないんですよね、この行動主義者は。

"This toxic crisis needs more than one shot" by Wolfgang Munchau[FT]
ミュンヒャウ氏の論説。以下訳ではありません。この金融危機がトキシックなのは実体経済への多くのフィードバック・ループがあるからであり、先週の救済プランのような一撃的な解決策は思われているほど有効ではない。第一に住宅市場。米国の住宅市場は既に20%下落したが、今後さらに10%から15%下落するだろう。これはまた価格と賃料、価格と所得の比率を長期的な均衡へともたらすかもしれない。しかしこうしたトレンドが続くと想定する理由はない。不動産市場はさらに乱高下しそうだ。これは住宅価格の下落したイギリス、スペイン、アイルランドにも当てはまる。第二にクレジットカードだ。クレジット・クランチの際にこれは多くの家計にとって自由に融通のきく最後のクレジットである。ここ数週間カードとカード・ローンのCDSスプレッドが拡大している。クレジットカードの証券化された市場はサブプライムモーゲージ市場と同じぐらい大きい。景気後退が進めば、クレジットカード・デフォルトも上昇し、証券化されたクレジットカード商品が大打撃を受けるだろう。第三に企業倒産と支払いデフォルトだ。アメりカは長期にわたる残酷な景気後退に突入したが、企業倒産の上昇は確実だ。不明瞭なのはデフォルト・レートが10パーセント以上に上昇するかどうかだ。こうならない理由が私には判らない。CDS市場がリーマン・ブラザーズの没落に、さらに二桁のデフォルト・レートの本格的な景気後退に耐えられるかどうかは不明瞭だ。第四に株式とクレジット商品の評価だ。現在の評価がそのままであるならば、時価会計ルールの一時的免除はほとんど意味がない。どんな会計的トリックを弄しても多くの金融機関が実際には支払い能力がない事実から目を逸らすことはできないだろう。ヘッジファンド危機や新興市場のメルトダウンのような他にも悪化するかもしれない要素がある。アイスランドに続いて危機は今や他の国々を襲っているところだ。また国際的な海運の混乱が始まり、もはや信用状の受け取りもあまねくなされていないと言う。

こうした一連の危機を前にして最善の政策的対応とは何だろうか。第一に実体経済とクレジット市場の間の多数の相互作用に鑑みるに、賢明な対応は金融の安定と経済成長の両者に向けられなければならないだろう。先週のEUの指導者達がなしたようにきわめて寛容な金融救済パッケージを通す一方で財政刺激のロジックを拒むようでは有効でないし公正でもない。有効でないというのは不必要なまでに深刻な景気後退は金融制度の健全さに否定的な影響を与えるからであり、公正でないというのは現在のアプローチは低所得者から高所得者へのリソースの大規模な移転に相当するからだ。またこのパッケージにはインバランスがある。全銀行システムの資本増強の可能性を提示しているものもあるが、そんな仕事は一国の能力を超えているのだ。イギリスが8行に限定しているのは正しかった。完全に欠けているのは銀行間貸付市場の明瞭な保証だ。ユーロ圏では多くのローンやモーゲージがEuribor(ユーロ銀行間取引金利)のようなマネーマーケットの金利と結びつけられている。中央銀行の利下げは歓迎されようがマネーマーケットが機能しない限りは不十分な効果しかない。欧州諸政府が銀行間貸付保証の提供に失敗した最もありそうな理由は銀行間貸付はユーロ圏の市場なのだから国家レベルではこれは有効になされなかったというものだ。これは悪い理由づけだ。こうした大規模な流動性の注入は奇跡的に市場を再活性化するだろうとECBは論じている。私にはそうは思えない。マネーマーケットの金利が先週やや低下したのは事実だが、トレーディングはほとんどなかった。現在、銀行は必要な流動性をECBから得ているが、中央銀行にファンドを一時的に預け入れている状態でマネーマーケットにまだ貸し付けてはいないのだ。こうしたインバランスは是正されなくてはならない。的の絞られた資本増強、マネーマーケットの保証、消費を維持するための刺激策、所得の再分配といったものが包括的な戦略の一部として必要とされている。先週のパッケージは差し迫ったメルトダウンを防いだかもしれない。しかしこれは通常のセカンド・ベストな政策対応で静められるような危機ではないのだ。

以上、4つのポイントから実体経済への影響に警鐘をならしています。また先日の銀行救済プランでは不十分であるとして、資本増強のターゲットをもっと絞れ、銀行間取引の保証をしっかりしろ、財政刺激も必要だとかいった提言をしています。首脳会合では否定されましたが、金融政策のみならず財政政策も実行すべきだという声はあちらこちらから聞こえてきますね。多分もっと追い込まれないと政治的にそれはなさそうな気がします。

ではでは。

おまけ
いわゆるchild abductionの問題をとりあげる際の英語圏の報道の不公平性については以前から批判的でした。ここでは法的議論には踏み込みませんが(私自身は柔軟な立場です)、私が気になったのはコーカソイドの元夫の意見のみを一方的に報じるその姿勢です。日本人の元妻の完全なる沈黙と対照的な元夫たちの雄弁ぶり—ああなんというわかりやすい構図でしょう—に見られるあからさまな権力関係には辟易とさせられるわけですね。この問題で一方の声だけを提示するというのはやはり不公平でしょう。この点に関してJapan Timesが"I 'abducted' my daughters"という記事でアメリカ人女性の意見を掲載しています。せっかく日本にいるんだから本当は足を使って日本人の元妻の声も取材して拾って欲しいんですが(難しい部分もあるでしょうけれども)、この意見を掲載した姿勢は評価しておきます。さらに各国の事例について調査した上で記事は書かれるべきでしょう。要はプロパガンダではなく問題を分析し、検証する記事を書くべきだということです。

なお北朝鮮の拉致問題での日本政府の対応を攻撃するために、あるいは単に日本をクサしたいがために、このabductionという語以外になんら関連性のない話—工作員に拉致されて国家機関によってスパイ養成されたとでもいうんでしょうか—を利用する恥知らずさん達には徹底的な軽蔑を捧げます(そういう論調があるのですね。勿論外交政策の批判そのものは構いませんよ)。

追記
サルコジ氏今度は欧州ソヴリン・ファンドの提案もしていますね。まあ次から次へと提案します。それから別に転向などしておらず、最初からこういう方だったと記憶しています。「アングロサクソン的」というレッテルの空疎さがだんだんはっきりしてきているだけだと思います。

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コメント

このところ疑問ばかりです。アルゼンチンもデフォルトしそうですし、ジャーナリズムの記事は所謂エコノミストの記事が多く、経済学者による分析と対案記事が見えないのはどうしてなのでしょうか。
マネー経済の世界に住むエコノミストに実態経済に対する影響が、と言われても脅しにしか聞こえません。時価会計制度の見直し論も、マネー経済界の住人の都合でしかないように思えます。
ポールソン氏の投資会社時代のごり押しが今日の信用危機の一因でもあるはずですし、またその会社の社員で周りを固めていることに対しても、日本のように政界やジャーナリズムからの辞めろコールが聞こえてこないのは、アメリカが大人の所為だからでしょうか、それとも無知な所為だからでしょうか。
ASEM会議でサルジコ氏たちは支那マーケットの更なる解放による欧州経済の復興を狙っているようですが、そう上手く行くのでしょうか。

投稿: chengguang | 2008年10月23日 (木) 00時32分

>ジャーナリズムの記事は所謂エコノミストの記事が多く、経済学者による分析と対案記事が見えないのはどうしてなのでしょうか。
あちらでもやはりアカデミズムとジャーナリズムは一定の距離がありますからね。ただ日本の経済学者よりは発言している印象を受けます。経済学者ブログや経済研究所のサイトが活躍しています。例えば、VoxEUというところが出した政策提言の電子ブックは随分評判になって読まれていますね。
http://www.voxeu.org/index.php?q=node/2327

>日本のように政界やジャーナリズムからの辞めろコールが聞こえてこないのは、アメリカが大人の所為だからでしょうか、それとも無知な所為だからでしょうか。
世論はそうとう怒っていますね。議員さんでも怒っている人はけっこういるようですから、エスタブリッシュメントが全体として世論の怒りを抑える役割を果たしているということではないですかね。そのあたりの空気は私にはよく見えないのですけれども。

>ASEM会議でサルジコ氏たちは支那マーケットの更なる解放による欧州経済の復興を狙っているようですが、そう上手く行くのでしょうか。
あちらの中国幻想というのは非現実的ですからねえ。中国も大変な状況にあるのがよく判っていないみたいです。そう上手くはいかないように思えますが、どさくさにまぎれて武器輸出解禁みたいなことをしてくれなければいいです。

投稿: mozu | 2008年10月23日 (木) 02時30分

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