« まだ民主主義は損なわれていない | トップページ | shikata ga nai »

ここまではよい、しかし

ごたごたと内輪もめに興じていたユーロ圏ですが、進捗がありましたね。

ユーロ圏15カ国、金融危機に「共同行動計画」 銀行間取引を保証[日経]

金融危機への対応を協議するユーロ圏15カ国による緊急首脳会合は12日夜(日本時間13日未明)、「共同行動計画」を採択して閉幕した。銀行間取引への政府保証、金融機関への資本注入、欧州中央銀行(ECB)による一段の流動性供給などが柱。欧州各国は今回盛り込んだ政策手段を組み合わせ、金融システムの安定確保に全力を挙げる。

独仏伊などのユーロ圏主要国は今回の計画に沿った個別の危機対応策の詳細を13日に公表し、実施を急ぐ。先に包括策を決めた英国に続き、欧州では「共通の政策パッケージから各国が最適な手段を選び実施する」(メルケル独首相)態勢が整う。欧州は年内の緊急サミット(主要国首脳会議)開催などを含め、日米に危機対応を急ぐよう働きかけを強める。

12日にパリで開催された緊急首脳会合でユーロ圏15カ国の「共同基本計画」が採択されました。内容は記事にあるように銀行間取引への政府保証、金融機関への資本注入、欧州中央銀行による流動性供給などが柱となっているようです。詳細はまだよく判らないです。実際に行動するのは各国政府なわけですけれども、まあなんとか協調の枠組みを設定できてこれで格好がついたわけですね。

以下日本語ソースで各国の動きを扱ったものをリンクしておきます
スペインも銀行に資本注入へ 首相「必要あればいつでも実施[日経]
ドイツ政府、4700億ユーロの公的資金投入へ[AFP]
英大手銀3行、最大6兆円の公的資金投入を申請[産経]

"Europe acts to rescue banks" by Bertrand Benoit[FT]
この記事が欧州各国の動きをまとめています。上の記事と重なる部分が多いですが、緊急首脳会合を受けてドイツが4700億ユーロ、フランスが3400億ユーロ、イギリスが3700億ポンド、スペインは1000億ユーロの公的資金を注入するプランを公表しています。またノルウェーが554億ユーロ、ポルトガルが200億ユーロといった具合に各国の金融機関救済策が続々と公表されていますね。なかなか壮観です。

"Sarkozy calms the crisis" by Charles Bremner[Times]
このたびのサミットの件でサルコジの主導性を称える記事です。

it would be uncharitable not to give Sarkozy credit for the way that he has banged heads together -- albeit a week after his first attempt -- as the current chairman of the European Union. Sarkozy is often criticised for making splashy announcements and failing to follow through, but this time, he seems to have managed. This was an example of le volontarisme -- getting hard things done by sheer force of will, a skill in which Sarko prides himself.

という風にサルコジの主意主義(volontarisme)の成果であるとされています。関係ないですが、主意主義は主知主義(intellectualisme)と対に用いられる概念で哲学的にはいろいろと議論があるわけですが、現実の政治的文脈では「現実を意志の力に従わせんとする態度」ぐらいの意味でよく用いられます。政治家の徳です。

At the cost of bad feeling between them, Sarkozy brought Merkel into a joint operation which she had refused only a week earlier on the grounds that each EU state should clean up its own mess. The Chancellor had been extremely reluctant to offer a blanket guarantee to all banks. For their part, the Germans did their own bit of arm-twisting, persuading the reluctant French to go along with the British idea of guaranteeing loans between banks.

この首脳会合の舞台裏ですが、サルコジが提案した全欧州の預金保護案をドイツは一度蹴ったわけですが、イギリスの銀行間取引の保証案をフランスに飲ませる形で取引をしたとされます。ユーロ圏の共同行動計画ですが、実際には圏外にいるイギリスの果たした役割が大きかったとされます。

We are in strange times when a British Prime Minister comes to Paris to counsel the single currency bloc on the merits of nationalising banks and intervening in the markets. Brown's UK rescue plan served as the model for the euro-zone action. The former British finance minister, politically discredited at home, has emerged in European eyes as something of an inspiration in troubled times.

というようにこの首脳会合に出席していたブラウン首相の救済プランがモデルになったとされています。イギリスではえらく不人気なこの首相がこの困難な時期にインスピレーションを与える存在として欧州人の目に映ったとTimesは書いています。

"Gordon Does Good" by Paul Krugman[NYT]
いやあ、ゴードンはなかなかやりやがると述べているのは本年度のノーベル賞経済学賞を受賞されたクルーグマン氏です。ロンドンは確かに金融の重要な中心ではあるが、イギリス経済はアメリカに比べたらはるかに小さく、イングランド銀行はFedやECBに比べたらわずかな影響力しかもたない。したがってイギリスが主導権を握るのを見ようとは期待していなかったはずだ。しかしイギリス政府は金融危機について明晰に思考し、その結論に従って急速に行動している。この明晰と果断においては他の西洋諸国で比肩する政府はないと。引用しておきますか。アメリカがごちゃごちゃやっている間に、

Meanwhile, the British government went straight to the heart of the problem — and moved to address it with stunning speed. On Wednesday, Mr. Brown’s officials announced a plan for major equity injections into British banks, backed up by guarantees on bank debt that should get lending among banks, a crucial part of the financial mechanism, running again. And the first major commitment of funds will come on Monday — five days after the plan’s announcement.

At a special European summit meeting on Sunday, the major economies of continental Europe in effect declared themselves ready to follow Britain’s lead, injecting hundreds of billions of dollars into banks while guaranteeing their debts. And whaddya know, Mr. Paulson — after arguably wasting several precious weeks — has also reversed course, and now plans to buy equity stakes rather than bad mortgage securities (although he still seems to be moving with painful slowness).

といった具合でして、あちらの島国はさすがでございますね。小さくとも知恵と行動力がある。銀行間取引の保証で大西洋の彼方にも影響力を及ぼしたわけですから。サルコジもゴードンに全部持っていかれてしまった感じですね。

"Brown offers Europe a lesson in leadership" by Wolfgang Münchau[FT]
ここで紹介したミュンヒャウ氏の記事は二本目ですかね。アイルランド絡みでよく目にしていたのですが、かなり早い時期から危機の到来を警告されていました。最近はFTに寄稿されていますね。G7には失望したが、欧州の緊急首脳会合にはbetter feelingを抱いたそうです。ただこれは全欧州プランではなく国別プランであり、国境を越えた問題に対処できるのかどうかは不透明だとしています。また本当にこれで十分なのかと前に紹介した記事と同様の疑問を呈しています。巨大金融機関を救えるのかと。

But even assuming that national responses are perfectly co-ordinated – which they are not – the question remains whether that is sufficient or whether higher-level type co-ordination at the IMF and the EU/eurozone level would be preferable or necessary. Would the German scheme pass the Deutsche Bank test? In other words, would it be able to deal with the hypothetical failure of the country’s largest bank? I am not sure it would. The existence of too-large-to-save banks is one of the reasons why a purely national approach cannot be effective, and why it would be preferable to establish a fund at the level of the eurozone. Burden sharing is not merely a desirable act of solidarity. More importantly, it is needed for any such scheme to be credible.

ここで私の念頭にまず浮かぶのはイタリアのウニクレディットですが、他にもいくらでも危険なところはあるでしょう。この方は却下されたサルコジ・プランを支持していたわけですが、ここでも国別ではなく全ユーロ的なファンドが必要だとしています。また銀行間取引を再活性化させたいならば欧州連合やユーロ圏レベルで動かないといけないといい、ドイツの銀行がオランダの銀行から金を借り、ドイツの銀行が破綻したらどうするのだ、誰が国家保証のシステム下で支払うのか、と判りやすい疑問を呈しています。ようやく政府が動きだし、アドホックではなくシステマティックな反応をするようになっているのはいいニュースだが、「システミックなメルトダウンの瀬戸際」にはこれで十分なのかといい、大西洋の両岸の指導者の協調を説いています。欧州にとっては協調の失敗による金融メルトダウンはユーロの未来に影響を及ぼすことになるぞと警告しています。また上の記事と同じくゴードン・ブラウンが政治的リーダーシップなるものについて欧州人にレッスンを与えたとしています。最期は引用しておきます。

But there are still many dangers ahead. The market for credit default swaps may explode at any time. A severe recession could trigger a sharp rise in defaults with reverberations in credit markets and banks. And if we squander money rescuing the wrong banks, which we have done in parts of Europe, we may not have enough leeway to launch an effective stimulus programme. At best we may have succeeded in calming the markets for a week. But we have not solved this crisis yet.

最初の動きとしてはあの混乱からよく立ち直ったと思いますけれども、そう、まだまだ始まったばかりなわけですね。そしてこれは西欧の協調であり、例えばIMFの救援決定のハンガリーは対象にならないわけです。あちらこちらから火が吹きそうですね。

|

« まだ民主主義は損なわれていない | トップページ | shikata ga nai »

欧州情勢」カテゴリの記事

経済」カテゴリの記事

コメント

自国の救済策を自画自賛している英欧のジャーナリストの感覚が普通なのでしょうか。彼らと比べると日本のジャーナリストの精神構造が異様に見えてしようがありません。

投稿: chengguang | 2008年10月14日 (火) 12時40分

政権批判するのがジャーナリズムだみたいな硬直した思考があるせいでしょう。後は日本は駄目だ教徒が多いんでしょうね。

投稿: mozu | 2008年10月14日 (火) 13時51分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/507226/24486040

この記事へのトラックバック一覧です: ここまではよい、しかし:

« まだ民主主義は損なわれていない | トップページ | shikata ga nai »