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秋の戯れ

どうもJapan Timesが日本国民の与り知らないところでいつものごとく不思議な動きを見せているので紹介しておきましょうか。まあ、別にいいんですよ、この自由民主主義国においてはどんな論調だって決定的に報道のルールや倫理に悖らない限りは許される訳ですから。かつてシドニー・モーニング・ヘラルドというオーストラリアのタブロイド紙(嫌み)から怒りのブロガーというありがたい称号をいただいたことがありましたが、別に怒っているわけではなくてですね、英語圏ではこんな議論がなされているのだということを日本の公衆にも知っていただこうかなと考えているのですね。

ひとつは例の失言国交相の辞任の話です。この世界的危機にあってあなたいったいなにをやってるんですか、というのが私の偽ざる感想ですが、もう少しなにか言えと言われれば、日教組という組織に対してはなんら敬意を抱かない私のような人間にとっても国交相の発言は政治家として不適切というかお粗末に過ぎましたね、政治家たるもの敵とはにこやかに談笑しつつ悟られぬようにしかし決定的なやり方で打撃を与えるぐらいの狡知は持ち合わせるべきではないでしょうか、青年の主張じゃないんですから、ぐらいの気のない返事をするしかないですね。ずこーっというんですか、ドリフの大爆笑みたいな話ですね。そんなことやっている場合ですか。

それでこのつまらぬ話に日本のメディア同様にJTさんもはしゃいでいたわけですが、勿論この新聞の論調からある程度予想されるようにフォーカスがあたっているのはかつてのスターリン主義の残滓を引き摺る教職員組合や頑固一徹な成田空港建設反対住民よりも「単一民族」発言のほうですね。まず中山氏の発言を引用しておきます。

日本は単一民族といいますか、世界とのあれ(交流)がないものですから、内向きになりがち。(訪日観光客を増やすには)まず日本人が心を開かなければなりません。

という発言です。それでアイヌ民族を忘れているではないかという批判を前に氏はその発言の不適切性を認めて謝罪したのでした。「単一民族」言説については、これは多民族帝国たる日本帝国には存在しなかったのであって戦後のある時期に生まれたものであり、「戦後的」なナショナル・アイデンティティーの在処を示す言説であるとする小熊英二氏の有名な歴史社会学的な研究がありますが、その経緯はともかく1980年代に日米経済摩擦が文化戦争に転化した際に日米比較文化論の形をとった対抗的言説として表舞台に躍り出たというのがとりあえずの私の認識です。その心理的動機をなしていたのは内政干渉の度合いを深めるアメリカと喜々として「アメリカ化」を受け入れるかのごとき日本国民に対する保守派の不安と恐怖ですね。これが多文化主義的、反国民国家的、グローバリズム的な視点から批判されるようになったのが1990年代であったという流れを思い起こしておきましょう。ちなみに英語圏ではこの点についてはけっこう厚いヒストリオグラフィーがあります。騒々しい議論を別にすれば、これが「べき論」なのか「である論」なのか、規範的主張なのか事実の描写なのか、パフォーマティブな言明なのかコンスタティブな言明なのかといった点が議論の焦点になっているようです。やはり同質性が相対的に高い国には違いないですからね。別にそういう国は日本だけではないですけれどもね。

そうした議論はとりあえず脇に置いておいて、過去の保守派の政治家達の「単一民族」発言と中山発言を比べてみた場合、要は、島国根性を捨てて外の世界にも心を向けにゃいかんぜよ、我が同胞よ、という意ですから、ここでは批判的にこの概念が提示されている点が違っています。その点においてこの発言に対する批判はこの言葉を使用したことそのものへの批判、つまり言葉狩り的な印象を与えるものでした。単一民族「幻想」みたいなものがあるのかもしれないが、とでも言えば叩かれなかったのでしょうか。あるいはそれでも叩かれたのかもしれませんね。なぜなら正義の仮面をかぶりつつ閣僚の揚げ足を取る事そのものが政局報道において自己目的化して久しいのですから。ああ、なんとちまちまとした政治なのでしょう。

それはともかくこのネタをJTがいかに報じたのかを見てみましょう。第一報からしばらくは日本の報道とだいたい同じ内容ですが(アイヌに失礼とかですね)、残念ながら後段の「日本人が心を開かなければなりません」の部分が省略されている記事が多いのが問題と言えましょうか。つまり「単一民族」根性の批判の要素が消去されて単に日本は「単一民族」国家なのだという主張をしたことになってしまっているわけですね。そして9月29日付でスタッフライターのMasami ItoさんとTakahiro Fukadaさんの記事が駄目押ししています。

"Gaffe-prone Nakayama quits Cabinet" By MASAMI ITO and TAKAHIRO FUKADA[JT]

In an interview with The Japan Times and other media organizations Thursday, the conservative Nakayama said Japanese "do not like nor desire foreigners" and that Japan is inward-looking and "ethnically homogenous.

Nakayama retracted the statements the following day and offered an apology to the ethnic Ainu, who were officially recognized as an indigenous people for the first time by the Diet in June."

単一民族はethnically homogenousでありますが、ここで気になるのが前段です。木曜日のインタビューでJapanese "do not like nor desire foreigners"、つまり観光行政に関わる大臣が日本人は外国人が好きじゃないし、来て欲しくもないと思っていると語ったという新情報が追加されています。このインタビューの席には他のメディアもいたとされていますが、中山氏がこのように語ったと報じられているのはJTのみのようですね。さて問題は以下のようです。

1. the conservative Nakayama said Japanese "do not like nor desire foreigners"にあたるような発言を実際にしたのか。

2. 引用符はこの文の述語及び目的語の部分であり、主語は引用符の外に置かれている。中山氏は「日本人」を主語にしたのか

1に関してあるいは懐疑主義的に過ぎるように感じられるかもしれませんが、これまでの実績から言って政治面の事実報道に関しては私のJTに対する信頼はかなり低いです。ファクト・チェックの次元でエラーになるはずの記事を配信してきた過去があるのですね。とはいえこれを報じているのがJTのみであり、他のソースとのクロス・チェックもできないとなると私自身に検証する術はありません。話を進めるためにとりあえず引用部分は事実だと仮定してみましょう。

次に問題となるのは2の点です。主語はなんだったかという問題です。仮に記事にあるように「日本人」を主語にして氏がこのような発言したのだとすれば、それは単なる虚偽命題となるでしょう。総称命題の批判には反例を挙げればいいだけです。外国人が好きではなくてあまり来て欲しくないと思っている日本人もそれなりにいるという言明の場合にはこれは虚偽ではないしょう。もし仮にこの大臣が日本人は総じてゼノフォビックだと宣言したのであれば無論政治家失格となります。いったいどんな大臣ですか。しかしもし仮にこれがこの記事を書いた記者の創作であった場合には中山氏を政治的に批判することを意図したのみならずそれに便乗して「日本人」全体にあるイメージを付与するために虚偽を記事に紛れ込ませたことになりますからジャーナリスト失格となります。さてどちらなのでしょうかね。なんの確証もありませんが、これはジャーナリズムにおける声の引用の政治の分析対象になるようなケースではないでしょうかねというのが私の直感です。妙に細かいことを言っていると思われるかもしれませんが、こういうせこい情報操作の技術を好んで使うわけですよ。他のメディアによる検証が待たれるところですね。

[追記:コメント欄でPnetQさんから情報をいただきました。ありがとうございます。朝日報道によると、中山氏の発言は以下のようです。

外国人を好まないというか、望まないというか、日本はずいぶん内向きな、「単一民族」といいますか、世界とのあれがないものだから内向きになりがち。まず国を開くというか、日本人が心を開かなければならない。

この前段ですね。なるほど。まあ全くの虚偽とは言えないでしょうけれども、これを「日本人は外国人を好まないし、望まない」とパラフレーズして叩きの材料にするのは公平なんでしょうかね。むー。やはりダーティーですね。駄目報道だと思います。ただ島国根性批判にしてもこんなつっこまれそうな発言はやはり大臣としてはすべきでないでしょうね。ですからこの発言は支持しません。保守派の政治家の先生方にはワード・ポリティックスでいかに勝つのかについてもっと戦術的になっていただきたいです。連中(って誰だ、まあ)は誠実な自己批判ですら叩きの材料に利用しますからね。]

ちなみにこの失言についてはJTはご丁寧に読者投票をとっています。読者からの投票では中山氏は東国原氏の慰安婦発言を抑えて見事にトップの地位に輝きました。中山氏の発言ですが、「単一民族」ではなく上の「日本人は外国人を好きではない・・・」が候補に挙げられていますから、JTとしては日本国民には知られていないこちらの発言を重視しているわけですね。なお「単一民族」は伊吹氏の発言としてエントリーされているのですが、3%程度しか票を集めていませんね。ちなみにバッシャーの認識というのは日本は外国人嫌悪の強い同質的かつ排他的な国であるというものですから、彼らにとっては中山発言は真理であって虚偽ではないというのが皮肉な話ですね。ええ、あなた方の発言も失言扱いなんですよ、困りましたね、商売あがったりで。前にも書きましたが、通俗的な日本人論をこよなく愛するのは文化保守と左翼とバッシャーなんですね。前者は自己肯定のために後者は自己否定そして他者否定のために互いの言説を利用し合うわけです。そしてそこにおいては個々のあやしげな命題群について検証してみようという健全な実証精神が発揮されない。この伝言ゲームのごとき入り組んだ政治については研究もそれなりになされていますが、より洗練された分析による解明が待たれるところです。

Japanese "do not like nor desire foreigners." — recently resigned transport minister Nariaki Nakayama
733 (34%)
"Even people with Alzheimer's disease could understand." — Prime Minister Taro Aso, when he was Japan's foreign minister
140 (6%)
A reference to women as "baby-making machines" — former health minister Hakuo Yanagisawa
454 (21%)
The dropping of atomic bombs by the U.S. in World War II "could not be helped." — former Defense Minister Fumio Kyuma
162 (8%)
"It is very difficult to confirm as a historical fact that the 'comfort women' actually existed." — Miyazaki Gov. Hideo Higashikokubaru
594 (28%)
"Japan is an extremely homogenous country." — former education minister Bunmei Ibuki
73 (3%)
Total Votes : 2156

もうひとつは中川昭一大臣に関連した多分日本国民のほとんど誰も知らない話です。

Nakagawa shakes up press with move to plant Hinomaru in briefing room[JT]

Rightwing Finance Minister Shoichi Nakagawa created a stir Tuesday by backing a plan to display the Hinomaru flag in the ministry's press briefing room.

という書き出しで記事は始まります。右翼の財務大臣の中川昭一氏が財務省のブリーフィング・ルームに国旗を置こうとして騒動を起こしていると。なんという小ネタなのだというのが一読した感想でしたが、こういうどうでもいいネタを積み上げて印象づくりをするのはJTの得意とするところです。

Though officially Japan's national flag since 1999, the Sun Flag remains controversial due to its association with the nation's militarist past.

というように日章旗は軍国主義との結びつきゆえに論争的な象徴なのだと述べています。ソ連製メソッドを日本教育界に導入した某組織以外で現在国旗について騒いでいる存在を私は寡聞にして知らないのですが(彼らもかつては愛国だったんですけどね)、まあわけありの旗なんですよとこうやって教育しているんですね。不毛という言葉以外に語るべき言葉を見出せなかった学校式典妨害騒動の時にもずいぶんと"dissident teachers"をフィーチャーしていましたね。そういうわけで軍国主義だからといって日の丸を嫌う単細胞な在日外国人というのもそれなりにいたりするわけです。

記者クラブ内にはこの中川氏の動きに対して意見が分裂したそうで、中川はタカ派だから政治的意図があると反対する記者もいれば、なにも悪いことはないじゃないかという記者もおり、個人の受け取りだから記者クラブとしては共通の反応はすべきでないという記者もいたと。それで中川氏に意図について説明を求め、この問題について記者クラブのメンバーで議論するまでは国旗を置かんでくれと要求したということです。また1999年にも中川氏が農相の際に同様の騒ぎがあったそうです。ここで「リベラル」な宮澤喜一氏の無関心な発言を引用して中川氏との差異化をはかっています。そして現在半分の省庁がブリーフィング・ルームに日章旗を設置していると記事を締めくくっています。

記事の最期に見事なオチがついているので半分の省庁に置いてあるなら大臣が「右翼」であるかどうかとは関係ないんじゃないですかというつっこみを入れたくなりますが、要は中川氏だから問題にしているわけですね。ここでは日章旗の歴史についての説明はいらないでしょう。そもそも私はこの種の象徴政治の不毛性には心底飽き飽きしているので賛成だの反対だのどこかの無人の離島ででもやっていてくれという感想以外になんら興味を感じません。問題のないところに問題を捏造している暇があったならば、国民生活に直結するもっと実質的かつ喫緊な問題に我々の有限なリソースは費消さるべきではないですか。空騒ぎはもう止めましょう。

そしてこの話についてもJTさんはまたご丁寧にも読者投票をしています。ブリーフィング・ルームに国旗を設置するのをどう思うのかと。政府施設に国旗を設置してなにが悪いんだというのがトップですから、どうやら失敗だったようです。残念でしたね。新たなナショナリズムの危険な兆候だとかそんなにコントロバーシャルな旗ならなぜ新国旗をつくらないのかという選択肢がありますが、あるいはこれがJTの意見なのかもしれませんね。そんなどうでもよろしい論争には日本国民の多くはまったく関心がないのですよ。法制化されようがされまいが国旗は完全に定着していますから口汚くけなされるとかちんとくる、といっても家に国旗があるわけでもないぐらいがおそらくは大勢でしょう。大臣がブリーフィング・ルームに国旗を置くのがなぜナショナリズムの兆候なのかも理解不能ですね。いいですか、ナショナリズムというのはもっと大規模な大衆的な政治現象のことです。そもそもこんなニュース誰も知らないわけですから国民に影響を及ぼしようがないではないですか。そんなに国旗という存在が嫌いならば自国の政府機関から国旗を追放してから日本に言ってくださいね。ダブスタは許しませんからね。

What's wrong with displaying an official national flag in a government building?
235 (59%)
It's a troubling sign of renewed nationalism.
61 (15%)
I don't really care either way.
50 (12%)
Why doesn't Japan create a new flag design if this one is so controversial?
55 (14%)

ちなみにJTさんが「敵」としている人々を私は支持しているわけではないのでこのエントリで擁護しようという意図はありません。私は基本的に自由主義者ですから保守主義者とは今ひとつ反りが合わないんですね。かといってJTさんみたいに彼らを悪魔化したりはしないですけどね。悪魔化の言説戦術というのは嫌いなんですよ、ジャコバン的なものにせよ正統王朝派的なものにせよ。勿論批判すべきは批判しますし、困ったもんだという御仁が多いのも事実なんですがね、彼らの意見も意見として尊重するぐらいの寛容と公平のセンスぐらいは持ちたいものだと願っておりますし、ある種絶望の入り交じった共感とでもいった複雑な心情とともに日本史における彼らの存在意味は理解しているわけですよ。これは左翼に対してもそうです。こんなことを言っても判らないでしょうけれどもね。ともかくここで問題にしたいのはイデオロギーの話ではありません。まあこんなことを言っても友敵理論の信奉者に通じないことぐらいは知っているのですけれども。別の誰かに言っているとでも思ってください。

というわけでここ数年で微妙にトーンが変わっているとはいえ、在日外国人コミュニティーの世論誘導にいそしむJapan Timesはご健在なのでした。日本酒と焼き鳥の美味しい秋の宵ですよね。まあ、がんばってくださいね。

ganbatte! genki! yuki!

追記
小熊英二氏の著書のリンクが間違っていたので修正しました。また一部表現を変更しました。中川氏についてのJT記事はampontanさんもポストでとりあげていましたね。ともかくこういう瑣末主義的な象徴政治なんてのは暇人のやることです。もっと具体的にやるべきことはたくさんあるんですから。それからファンというわけではないのですが、中川氏はたぶんJTさんが考えるよりはスマートな政治家だと思いますよ。実務能力が高い政治家ですし、中道層にまでウィングを広げられる人ではないでしょうかね。まあなんであれ物事はイメージで語らないことですね。

ちなみに国旗を引きずりおろすことに執念を燃やすスターリン主義的な教職員組合ですが、個々に見れば、いい先生も立派な先生もいらっしゃることは承知しております。ただ組織体としては私は評価しないのです。韓国の教職員組合も同じ臭いがしますが、「アジア左翼的」というんでしょうかね。全体主義的なものへの免疫のなさをどうにかしてほしいです。またいろいろ話を聞く限りでは現在の学校教育の現場が真に求める組合のあり方からはやはりかけ離れているように思えますね。まあこれは話のついでに書いているので私は別に熱いアンチ日教組派でもないですし、それほど重要性のある問題だとも思ってはいません。ただ日本の左派が冷戦時代の枠組みから脱して成熟することを個人的に期待していることもあるのでなんというのか邪魔な存在に見えてしまいます。

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コメント

anpontanさんや、Japan probe で、日章旗の話がでてたとき、この問題を取り上げている、日本語のニュースメディアを見てみたんですが、ネット上には見あたらなかった記憶があります。で、ん?と思った。
有道センセのブログのコメント欄で中山氏に日本人は外人嫌いだ、と言ったという引用があって、これも、ん?と思った。他の日本語メディアにはない。
特ダネつかむのが得意なんですかね?

投稿: | 2008年10月 6日 (月) 03時49分

インディペンデントを自称するのはいいですが、本当にいい加減な記事が多くて困るんですよね。日章旗は事実でしょうが、だからどうしたという話ですよね。ニュースバリュー・ゼロです。中山氏の発言はたぶん恣意的な引用だろうとにらんでいますね。この新聞はよくやるんですよね。読者投票までやって盛り上げようとしているので紹介しておきました。

クレームをつけたり、ブログで少し嫌みを書いたりしてましたが、あんまり成長がないので、ちまちまと紹介していこうかなと思います。

投稿: mozu | 2008年10月 6日 (月) 04時12分

こんにちは。こちらに、コメントさせていただくのは、初めてです。

私も、空さんと同じように、有道ブログのコメント欄に「日本人は外国人が嫌い」発言が引用されているのを見て、JTの記事を読み、驚きました。JTの記事に対する批判の主旨に関しては、Mozuさんに同感ですが、細部が違いますので、コメントさせてください。(ちょっと、長いですが、ご容赦。)

この件で、一番、厄介な点は、中山国交相の発言を、正確に確認するのが、難しいことにあります。国交省のサイトには、大臣会見というページがありますが、撤回されてしまった発言ですから、今後、いくら待っても、国交省から正式な会見要旨が、この件に関して出されることはないでしょう。

新聞等の報道は、報道各社の共同のインタビューのうち、各社がニュースバリューを認めたものを記事にしているだけで、会見の全体を正確に報道する義務がある訳けではありません。各社の報道内容に、食い違いがある場合でも、正確な発言を確認するのは、とても、困難なように思います。

そのような状況の中で、ネットで確認できた中で、この「単一民族」発言の内容を、一番詳しく紹介しているように思えたのは、朝日新聞の記事です。以下に、JTの記事の該当部分(Mozuさんの引用された辞任会見後の記事ではなく、その前の、発言撤回に関する記事です。)と、朝日の記事を引用します。

The Japan Times

Saturday, Sept. 27, 2008
Tourism minister apologizes for gaffes

By TAKAHIRO FUKADA
Staff writer

New tourism minister Nariaki Nakayama wasted no time putting his foot in it. The day after stating that Japanese do not like foreigners and that the country is ethnically homogeneous, Nakayama apologized Friday and retracted his statements.
...
A Lower House member from the Miyazaki No. 1 constituency, Nakayama made the comments during an interview Thursday with The Japan Times and other news organizations.

Asked how more foreign travelers might be enticed to come to Japan in the face of opposition from some locals, Nakayama responded, "Definitely, (Japanese) do not like or desire foreigners."

He added that Japan is extremely inward-looking and "ethnically homogeneous."

However, he also said it is important for Japanese to open up the nation and their minds to welcome foreign travelers.
...
http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/nn20080927a2.html

朝日新聞(オンライン版)

2008年9月25日21時7分
中山国交相が「誤解を招く表現」を連発、撤回

 中山国土交通相は25日、報道各社のインタビューで問題発言を連発した。「誤解を招く表現があった」として撤回したが、今後、波紋を呼びそうだ。
・・・
 来月1日に観光庁が発足するなど注目を集める観光行政。訪日観光客を増やすには閉鎖的な国民性の克服が必要ではないかとの質問に「日本はずいぶん内向きな、単一民族といいますか……」と答えた。86年、当時の中曽根首相は、「日本は単一民族」と発言し、アイヌ民族から抗議を受けた。
・・・ 
http://www.asahi.com/politics/update/0925/TKY200809250311.html?ref=reca

2008年9月26日18時38分
中山国交相の発言内容要旨

■中山国交相の発言内容(抜粋)
・・・
≪単一民族≫
 外国人を好まないというか、望まないというか、日本はずいぶん内向きな、「単一民族」といいますか、世界とのあれがないものだから内向きになりがち。まず国を開くというか、日本人が心を開かなければならない。
・・・
http://www.asahi.com/politics/update/0926/TKY200809260309.html


(1) Opposition from some locals
JTの記事で、まず、驚かされたのは、質問内容です。他の報道では、朝日にあるように

「訪日観光客を増やすには閉鎖的な国民性の克服が必要ではないかとの質問」

となっていますが、これが、JTでは

"Asked how more foreign travelers might be enticed to come to Japan in the face of opposition from some locals"

となっています。"Opposition from some locals"とは、何なのでしょうか。外国人労働者に対してなら、反対があるのもわかりますが、外国からの観光客を増やすのに反対する地元の人が、いるのでしょうか。どこの報道機関が、どういう日本語でした質問なのかを、ぜひ、知りたいものです。こんな質問をされたら、「日本人が内向きだ」云々ではなく、「反対などはない」と答えるのが、普通だと思いますが。

(2) Definiteley
次に、Mozuさんが疑問視されている中山国交相の回答ですが、JTでは、

"Definitely, (Japanese) do not like or desire foreigners."

となっています。朝日では、これに対応する部分は、

「外国人を好まないというか、望まないというか・・・」

となっています。ネットで見ることができたTVニュースの録画でも、中山氏がこの発言をしているシーンがありました。JTや朝日の書き方を見ればわかるとおり、中山氏は、「日本人」を主語としては、出していませんが、文脈からして、「日本人」以外の何も当てられないでしょう。その意味では、JTの記事は問題はないものと思います。

中山氏の発言の全体の趣旨からすれば、この部分は、彼が「日本人全部が外国人嫌いだ」と言明したわけではなく、日本人のそのような傾向を、改善すべきものとして認めたと、とるべきで、これをもって攻撃するのは、揚げ足取りに類すると思いますが、一方、大臣の公の場の発言として、いかにも、「言葉足らず」な、稚拙な表現であるとは、批判されると思います。

しかし、私が気になるのは、JTの表現にある"Definitely"の一語です。これが、あるのと、ないのとでは、英語としてもずいぶん印象が違うのではないのでしょうか。"Definitely"をつけて文章を訳せば、「日本人は、疑問の余地なく、外国人嫌いだ。」となります。これに対し、朝日や他の報道には、"Definitely"に相当する言葉が見当たりません。TVニュースの録画でも、それに相当する言葉は、聞き取れませんでした。一体、中山国交相の言った、何という言葉が
"Definitely"なのでしょうか。

冒頭述べたとおり、信頼すべき会見全体の内容が手に入らないのが、歯がゆい限りです。想像を、許していただくと、私は、これは、「確かに」という言葉を、中山氏が使ったのではないかと、疑っています。相手の質問に答えるときに、「確かに」で始めることは、よくあることです。このケースで言えば、「確かに、日本人は外国人が嫌いというか、・・・」という発言となるでしょう。しかし、もし、この「確かに」であったのなら、これは「確かに、あなたの、おっしゃる通り、・・・」という意味であり、相手の発言全体の趣旨を、まず、認めた上で、自分の意見を展開するときに使う言葉です。「日本人が外国人嫌いなのは間違いない」と強調しているのではないですから、JTの表現のように"Definitely"に置き換えてしまっては、誤訳であると思います。(残念ながら、現時点では、これは、あくまでも想像ですが。)

(3) Extremley
もう、一点、JTの翻訳が不適切だと思われる点があります。JTは

"He added that Japan is extremely inward-looking ..."

と書いています。これに対応する朝日の報道は、

「日本はずいぶん内向きな・・・」

と、なっています。(この日本語の表現は、各社とも共通していますから、間違いないでしょう。)私は、この「ずいぶん」を、"extremely"と訳すのは、誤訳とまでは言えないにしても、きわめて、不適切なのではないかと感じます。「ずいぶん」という言葉は、ずいぶん、曖昧な言葉で、翻訳に苦労する言葉かと思います。いろいろな英語があてられ得るし、文脈によっては、"extremely"が適切なこともあるようです。しかし、この文脈では、"prety"ぐらいが、適当なのではないでしょうか。日本語のネイティブでない人が、この「ずいぶん」を"extremely"と感じてしまうのなら、仕方ないけれど、この記事を書いているのは、日本人のスタッフのですから、この感覚のずれが気にならないのかと、気になります。(それとも、日系の人で、日本語が苦手なのでしょうか。)

以上の観点から、断定はできないものの、「なんだか、JTは、眉つばだぞ」との印象は、拭えません。

蛇足ながら、The Sydney Mornig Herald は、broadsheet版の新聞で、タブロイドではありません。Wikiによれば、オーストラリアで、一番、古い新聞だそうです。傾向としては、保守寄りのようですが、真面目な新聞ですよ。

投稿: PnetQ | 2008年10月 6日 (月) 10時48分

皆さん方が言われる、『多民族』の定義は何なのでしょうか。
日本が多民族国家とは思えませんので、単一民族という言葉の何処に問題があるのかが解りません。JT記事中に『ethnically homogenous』の用語がありますが、そもそも日本には『ethnic』と言う概念が存在しないように思います。日本人の言う単一民族とは、英語で言えば『homogeneous nation』に近いのではないかと考えます。
多民族国家とは、支那や東南アジアのような国々のことであり、日本との相違は一瞥して明らかだと思っています。中山氏が、前に日本の先住民族として承認されたアイヌ団体に謝罪したというニュースを読みましたが、純血、風俗、風習、信仰、言語を未だに維持しているアイヌが存在するのでしょうか。疑問です。

投稿: chengguang | 2008年10月 6日 (月) 14時21分

>PnetQさん、コメントありがとうございます。

詳しい説明ありがとうございました。なるほど中山氏はやはり大臣には不適任としか言えないようですね。こういう本質主義的な日本人論を語ることのリスクを保守政治家の方々には理解してもらいたいものです。

JTはあまり正確でない記事をよく書きます。それが批判派のジャパノロジストの論文などで引用されていつの間にか英語圏で事実化されていくパターンがあるんですね。批判的論調そのものはいっこうに構いませんから、事実報道についてはもっと正確にお願いしますよというのが私の要望です。

シドニー・モーニング・ヘラルドは嫌みです。たまに読んでいます。waiwai騒動の時に私のブログ名を出して毎日擁護の記事を掲載したので、ああ、あなたもお仲間の三流タブロイド紙なんですねと(笑)。最近はセンセーショナリズム頼りの記事が増えている印象を受けますね。どこの国でも少数の一流紙以外がタブロイド化していく傾向はありますので、この新聞がどうこうという話ではないですけれどもね。

投稿: mozu | 2008年10月 6日 (月) 15時14分

日本人は内向きだ何とかしないと、という批判的な論調が氏の発言なのに、意図的なのか分かりませんが誤解して感情的に記事を書くのがジャーナリズムらしいですからな。
JapanTimesではなくAntiJapan Timesに改名すればいいのに(笑)。
いえろーじゃーなりずむ、って言葉を彼らは知っているのでしょうかね。
マスコミは単なる煽り屋、総会屋となってきましたね。

投稿: オアー!⊂(;ω;*)三二一 | 2008年10月 6日 (月) 21時33分

>Chengguanさん
おっしゃりたいことは判ります。ただの事実を述べてなにが悪いんだと。確かに日本が文化的に同質性の高い国であることはイデオロギー以前の事実ですね。国内少数派にしてもほぼ文化的に統合されています。いわゆる「反日的」とされる人々にしても本人達の意識はともかく実際には「日本化」しているわけです。ただ多文化主義者はそれが気に食わないわけですね。彼らの哲学によれば同一性に対して差異性を称揚することが「善」ですから。批判のためとはいえ「日本人」をのっぺりとした同一的なものとして表象すること事態が「政治的に正しくない」と私は思いますが。

JT的論調にせよ国内左派の一部にせよ彼らが日本に押し付けようとしている多文化主義は結局北米やオーストラリアのような移民国家モデルですね。私自身はこれは日本に合わないと思っています。今後は移民かどうかは別にして経済的に外国人労働者はある程度は受け入れなくては立ち行かないわけですけれど、日本は欧州モデルに近いですから、そちらを参考にしたほうがいいと思っていますね。失敗例も含めて。どうも日本の知識人は米国コンプレックスが強くて困ってしまいますね。というわけで私は多文化主義に対しては懐疑的なんですよ。

投稿: mozu | 2008年10月 6日 (月) 23時29分

>オアー!⊂(;ω;*)三二一さん
そうですね。これは島国根性批判なわけですからそこの意は汲むべきです。ただついでにどうもいらんことまで言ってしまっているので支持はできないですね。外国人を好まない・・とかこれはもう叩き屋さんに利用されまくりですよ。あちゃーという感じです。ともかく賢くなってほしいんです。

投稿: mozu | 2008年10月 6日 (月) 23時40分

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