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独仏の不和

"A quand l'Union économique?"[Vues d'Europe]
アフリカ政策を担当するアンリ・ゲノーについては前に書きましたが、欧州問題担当閣外大臣であるジャン・ピエール・ジュイエはサルコジ政権の欧州政策全般を担うキーマンです。外相のベルナール・クシュネル同様に社会党出身の左翼ですね。日本で今、左翼と言うと、反国家的なイメージになりますが、この典型的なエリートは「左のゴーリスト」、つまり国家主義者とされています(左翼というものの正統的なあり方なんですけれども)。この政権の欧州政策の中心人物のブログは正直退屈なのですが、この「経済連合はいつ?」というエントリでは2009年の欧州連合の暗い経済見通しについて語っています。曰く、委員会報告によれば、欧州連合は金融危機に対して米国に比べても抵抗できず、景気の回復も2010年まで不確実なままにとどまる。フランス大統領の後押しで委員会は金融危機への対応に比肩し得る経済危機に対応した共通戦略の策定を試みたが、この提案はきわめて大胆さを欠いたもので景気後退の時期に有効な手段となっていない。欧州連合が低成長(ケインズ的不況)の文脈で経済戦略を見直せないリスクは大きい。2009年には米国との比較は再び衝撃的なものになるだろう。景気後退はまたしてもユーログループ内部での経済政策の協調メカニズムの不在と各国の行動の余地の乏しさを明らかにしている。ECBのみが現在真に有効な共同の機関である。委員会の報告は家計の借金に基づいた経済の「奇跡」(アイルランド、スペイン、イギリス)と欧州中核国経済の相対的な抵抗の時代の終焉を画している云々。ということで経済危機に対する欧州協調の弱さへの苛立ちとをまたアメリカに負けるのかという屈辱感を静かな筆致で漂わせるエントリでした。

ここで氏が不十分としている経済危機への共通戦略ですが、サルコジ氏が提案した欧州レベルでの景気刺激政策案がまたしても却下されて国別対応になったという経緯があります。英語の記事だと
"EU Rules Out Joint Stimulus, Backs Coordinated Action"[Bloomberg]
がいいでしょうか。ラガルド財務相も諦めないと述べている通り、共和国大統領は今後も提案魔として動き続けるでしょう。

"Crise financière: mésentente franco-allemande?"[Coulisses du Bruxelles]
リベラシオンのジャン・カトルメール氏のブログの独仏の不和についてのエントリです。今回の危機への対応をめぐる独仏の不和にはたびたび言及していきましたが、まとめ的な内容ですね。後半でユンカーがたいした違いはないのだと強弁していますが、明らかに両国には利害の対立があります。以前紹介したミュンヒャウ氏が述べていた通り、危機が深刻化すればフランスに有利な展開になるでしょうね。私はドイツが貧乏クジを引く光景はあまり見たくはないのですが。以下概要で正確な訳ではありません。

銀行、経済危機に直面して独仏は明らかに波長が合っていない。衝撃の波が欧州連合を襲って以来、ベルリンはパリが展開する行動主義を拒絶している。パリの10月5日のG8の欧州4カ国サミットの際の共同行動計画の拒否の後、ベルリンは金融ツナミの規模に驚いて、一週間後の10月12日のフランスの首都でのユーロ圏の首脳サミットの際に圧倒され、強いられてこれに賛成したに過ぎなかった。その後もベルリンは景気後退に対応するのに国別対応を好んで欧州レベルの景気刺激案を拒否する側にまわっている。10月15日、16日の欧州評議会の際にもベルリンはフランスあるいはオーストリアが提案したような「失業率上昇を防ぐための実体経済のためのパッケージ」の採用をブロックした。この時、「欧州の金融危機に協調対応ができたのだから、欧州の経済危機にも協調対応をすべきではないのか」とニコラ・サルコジは問うている。

フランスが設立を求めているユーロ圏の「経済政府」もドイツは同様に拒否している。10月22日にストラスブールでフランスの国家元首は「ユーログループの真の経済政府、それは首脳レベルが集まるユーログループのことだ」と説明した。「いつから欧州は前例なきこの金融危機に協調した対応をできたのだろうか。いつ我々はユーログループの首脳全体を集結したのだろうか。これは危機における画期だった」と。ベルリンは即座にこうした機関を制度化するのは問題にならないと告げた。(ベルリンにとって)ユーログループというのはルクセンブルクの首相にして財務相のジャン・クロード・ユンカーの権威の下に集まるユーロ圏の財務相達のことなのだ。

パリでは苛立ちが感じられる。その後はあからさまに英国カードを切っている。首相のゴードン・ブラウンは必要な共同的な協調をより受け入れるように見える。要するに現在の危機はその規模によって欧州をリシャッフルしたのだ。

ベルリンが当初より過小評価していたように思える経済情勢の深刻さを前にしてのドイツの不信は理解し難い。ドイツ首相のアンゲラ・メルケルが完全に麻痺し、古い図式にとらわれていたかのように物事は展開している。ベルリンにとってはECBの独立を脅かすものとみなされる「経済政府」を押し付けるためにパリは明らかに状況を利用しようとしている。しかしベルリンは独立とは対話の不在を意味しないことを示して政治権威との完全な協調を受け入れた。同様にベルリンは他国、とりわけフランスのために支出しなければならなくなることを怖れている。ベルリンが苦労して財政の均衡を回復したのに、蝉という評判に忠実にヘキサゴンは赤字と負債を拡大(2010年にはGDPの70%)させた。

しばしばパリとベルリンの間の仲介者を演じるジャン・クロード・ユンカーはユーログループに関してドイツを支持した。「首脳レベルでのユーログループを制度化してもあまり有用でない」。同じく「私はフランス人が全面的な景気刺激案と呼ぶものにもドイツ人が言うような景気プログラムにも賛成ではない」。

ルクセンブルク首相はいわゆる独仏の不一致を「際立たせる」必要がないと評価した。「ドイツ人が好まない言葉である「経済政府」の例のようにライン川の両岸で同じ意味を持たない言葉は使用すべきではない」。彼にとってはドイツとフランスは実際には波長が合っている。「必要な情勢の時に開催されるユーログループのサミットに反対する者はいない」。景気刺激の考えについては「1970年代スタイルのケインズ型の景気刺激策」を避けることが彼によれば重要だ。「これはかつて実行したのだが、赤字と負債を減らすのでなければ無意味だ」。彼によれば「人口の最も影響を受ける層と自動車業界のような特定の経済セクターのために目標の絞った措置が必要だ。そういうわけで本日ドイツ人は今後2年間の新車への税の免除を公表する予定だ。各国が他国と協調して予算の余地を用いる必要がある」。「私はニコラ・サルコジと会談したが、二つの点で完全に合意した」とユンカーは主張する。パリとベルリンの軋轢というのは言葉の問題に過ぎないのだろうか。

おまけ
同じブログですが、欧州議会でユンカーが自己批判した模様です。この危機が欧州を脅かすと当初は考えていなかったと。どう考えても欧州の方が悲惨になるに決まっていたのになぜか自画自賛していたのだから仕方がないです。また銀行の無謀な投資に関しても「アングロサクソン型資本主義」批判は全部自分にはねかえってしまいます。ともかく目前の景気後退への対応に集中すべきではないでしょうかね。

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