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海運指数

Chart1
http://www.investwalker.jp/shisuu/Baltic-Dry.shtmより転載

海運関連の記事を個人的なメモとしてクリップしておくことにします。上のグラフですが、バルチック海運指数と呼ばれる海運関連の指数のグラフです。ロンドン海運取引場に上場している鉄鉱石や石炭や穀物などを運ぶ不定期船の運賃の指標なのですが、世界の海運状況を理解するのに最も適したデータとされているようです。以前FTの記事を紹介しましたが、「世界貿易の縮小」が叫ばれる中にあってこの指数が一部で熱い視線を浴びています。上のグラフに明らかなように金融危機以来劇的な下落を続けているわけですね。93%の急落です。これはそのまま新興市場ブームに乗った海運の衰退を示しています。

私は別に投資家ではなく単に世界をより明晰に見たいものだと願っているだけの人間なのでお呼びでない感じもしますが、ココはとても判りやすい説明です。他の指標なんて忘れてしまえ、こんな環境ではBDIのみに注目せよ!とのことです。DryShip Incのサイトで日々データが更新されています。またこの指数についての詳しい解説はココがいいですね。

それでこの下落の原因についてはいろいろな人が論じているいるのですが、まず金融危機以降の景況の悪化とともに原材料の需要が落ち込んでいるということがあります。例えば、報じられているところではインフラ・プロジェクトが縮小するのにつれて中国の鉄鉱石需要が落ち込んでいるという話があります。他の原材料についても同様であり、これにともなって海運業者全体の稼ぎも減っていると。ただどうやら通常の需要と供給のカーブの問題だけではないとみなされているようです。

それで問題になっているのが信用状です。信用状は貿易の決済を円滑化するために銀行が発効する支払いの確約書のことで、この取引においては会社がローンを返済する能力を銀行が保証することになります。信用状の説明はたくさんありますが、とりあえず英語版のwikipediaをリンクしておきます。それで400年以上の歴史のあるこの決済手段は海運システムの本質的な部分をなすとされているのですが、銀行にとってはリスクを生むことになります。そのためこのたびの信用危機の中にあって信用状の発行がきわめて困難になっていると言われています。そのため輸送船が港に停泊したままの状態になっていると。したがって需給の問題に加えて金融セクターから実体経済への流動性の不足の伝染的な波及効果がここに見て取れるのではないかとされています。

さらには海運業者の収入が減少している一方で、アセットたる輸送船の価値も下落している模様です。フォーブスの記事によれば4ヶ月ほどでドライ・バルク船のアセット価値は50%ほど下落した模様です。ローンがまだ残っているわけですから不動産バブルの崩壊が住宅所有者や不動産価値に与えたのと類似したような打撃を受けていることになります。こうして多額のローンを抱えている状態であり、また新規の造船のためのローンに既存の船が担保として用いられていることもあって—担保価値の下落とともに—造船活動の停滞も予想されているようです。

"Systemic Risk, Contagion and Trade Finance - Back to the Bad Old Days"[London banker]
それでいろいろ解説を探していたのですが、naked capitalism経由で見つけたこのLondon Bankerのこのポストが一番優れた記述になっているように思えました。システミック・リスクという語は今では金融セクター内部での流動性不足の波及効果を指す言葉になっているが、1980年代以前のこの言葉のもともとの意味であった金融セクターから実体経済への波及が生じている。実体経済から遊離した金融諸組織内部の自己言及的システムが決壊して現実の人間を相手にするサプライ・チェーンへと影響が表れ始めていると。その例としてバルチック海運指数を採り上げています。それで金融危機が信用状に与えている打撃については、

The combination of the global interbank lending freeze with the collapse of the speculative, leveraged commodity price bubble have undermined both the confidence of banks in the ability of a far-flung peer bank to pay an obligation when due and confidence in the value of the dry cargo as security for the credit if liquidated on default. The result is that those with goods to export and those with goods to import, no matter how worthy and well capitalised, are left standing quayside without bank finance for trade.

Adding to the difficulties, letters of credit are so short term that they become an easy target for scaling back credit as liquidity tightens around bank operations globally. Longer term “assets” – like mortgage-back securities, CDOs and CDSs – can’t be easily renegotiated, and banks are loathe to default to one another on them because of cross-default provisions. Short term credit like trade finance can be cut with the flick of an executive wrist.

Further adding to the difficulties, many bulk cargoes are financed in dollars. Non-US banks have been progressively starved of dollar credit because US banks hoarded it as the funding crisis intensified. Recent currency swaps between central banks should be seen in this light, noting the allocation of Federal Reserve dollar liquidity to key trading partners Brazil, Mexico, South Korea and Singapore in particular.

と解説されています。以下、金融危機の実体経済への影響についての憂慮が中央銀行マン的な感慨でもって語られています。

これ以上海運指数が急落するようにも思えませんが、どうやら回復するまでには数年はかかりそうです。1930年代以前の自由貿易体制が急激に収縮するにあたって保護主義よりも通貨制度や海上輸送のコストが果たした役割が大きかったという説については以前紹介しましたが、このたびの海運の急激な沈滞の現象は当時とは勿論全然その理路は異なっている—当時は生産性ショック、海運カルテルによる独占的行動、労働運動の影響によるコスト上昇とされています—のですが、やはりきわめて雄弁な現象ですね。

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