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恐慌時のフランスですか

経済史から見たサブプライムの衝撃 (上)
経済史から見たサブプライムの衝撃(下)
なかなか興味深い対談だったのですが、特に気に留まったのは三点です。まず今回の金融危機に関してマルチラテリズムが有効かどうかという論点です。欧州における預金保護についての竹森氏の発言。

竹森 英国の銀行保護策は、ものすごく包括的なものでした。注入と預金の全額保護、銀行間取引の債務まで全部保証する。12日にはユーロ圏がみんなこの方針を受け入れた。

これを国際協調と見るかどうかです。むしろこれは協調ではなくて、英国だけが包括的な保護策で突っ走ったら、ほかの国も同じようにしないと預金が英国に逃げるから結果として協調したと言えます。

金本位制の時も、ドイツやオーストリアが金本位制から離脱する。そうすると英国は離脱した国に対して為替が高くなって不利になる。すると今度は英国が危ない。英国が離脱すると今度は米国にプレッシャーがかかる。

米国の金が英国に逃げていくと、米国もやめる。その次は金がフランスから逃げる…。こんな競争的プロセスでどんどんとみんな金本位制をやめていった。それと同じように、今回は英国というプレッシャーが、ほかの国に包括的な保護を呼んだ。

この当初の預金保護競争については前に書きましたが、確かに欧州協調というのは意志的なものではなく強いられた結果でした。この点、ブラウンやサルコジを英雄視するのは問題がありそうですね。貿易を別にすれば国際協調がいいものかどうかは疑問だとしています。プラザ合意コンプレックスかもしれないが、日銀も自国優先にしている姿勢そのものはよろしいと。ただしみったれた利下げは批判しています。

次は日本の危機対応の受動性について警鐘を鳴らしている部分です。ここで例として出されているのが大恐慌時のフランスです。最後まで金本位制を維持したためにしわよせが押し寄せたと。マジノ線に安住していたかの国同様に日本も一次被害の直撃を免れたと思っていたら一番ひどい目に合う可能性もありますよと。むう、そうならないといいのですけれども、追い込まれているの図が浮かんでしまいます。竹森氏の発言です。

金融危機では、日本は最初のうちは最もきれいな状態だったけど、最終的には最悪の状態になることだって考えられる。大恐慌のたとえで言うと、悪いところから順番につぶれていったわけですから。オーストリアが金本位制をやめる、次はドイツ、その次が英国、そして次は米国、最後がフランスでした。

フランスは最初、金の価格の評価を上げて、ともかく為替レートを切り下げて、金本位制に戻った。一番長く金本位制を持ちこたえた。ところが他国が順番に競争で金本位制をやめていった結果、最後のしわ寄せがどっとフランスに行った。結局フランスは第2次大戦が始まる頃まで、景気回復していません。一番長くかかった。

ほかの国はともかく首をつなぐために、ぼんぼん刺激策を取っている。そんな時に、日本は景気刺激策を出す前に消費税の引き上げを決めなければいけないような中途半端なことをやっている。そのしわ寄せが後でどっと来る可能性はある。

そしてこれは結局のところ政治の弱さに起因しているのではないかと。

大恐慌時のフランスと似ていると思うんです。ドイツの脅威が増して、大恐慌が広まって、フランスの中は分裂状態。国益を言う前に、小党が乱立して対立していた。

当時なぜフランスが金本位制にこだわったかというと、今の日本と似たところがあります。政治が弱かったわけです。つまり財政の規律というのがものすごく弱かった。財政の規律が弱い国は、プライマリーバランスを2010年までに回復するとか、あるいは財政赤字をGDPの3%に抑えるとか、数値目標を設けないとダメになる。
(中略)
日本の場合はどうでしょうね。1998年の長銀の救済は、危ないという銀行が目の前にあるのに、3カ月放っておいた。その間に株は落ちるわ、預金は逃げ出すわとなってしまった。あるいは今年の4月に日銀の総裁をどうするか、2カ月もめた。こういった前例を考えてみると、ほかの国がどんどん新しい形を作っていく間に、日本の2次被害がどんどん大きくなっていくようなことになるのではと思いますね。

フランスの大恐慌への対応については一般的な事柄しか知らないのですが、イメージとしてはなんとなく納得させられます。内輪もめに興じているうちに経済的にも、軍事的にもやられてしまった感じですね。政治の弱体はちょっと・・・、物の見えている方々の奮闘に期待するほかなさそうですね。まあ、あそこまでひどくはないとおもいますけれど。

最後はフーバー神話の見直しの部分です。RFCという金融公庫をつくったり、公共事業を拡大したにもかかわらず、オーストリアのクレジットアンシュタルト銀行の破綻と英国ポンドの金本位制離脱で方針転換を余儀なくされた、実際にはルーズベルトはフーバーの枠組みを引き継いだのである、オバマもブッシュの枠組みを引き継ぐことになるだろうと。ふーん、そんな評価になっているのですね。この記事は読みやすいですのでおすすめしておきます。

"Fonds souverains : pourquoi Sarkozy se trompe" by Kavaljit Singh[telos]
サルコジのSWFについてはその詳細が明らかでないためまともなエコノミストの論評があまり見あたらないのですが、これはやや一般論的な批判記事です。10月21日の欧州議会でサルコジは欧州諸国は外国資本から自国の企業を防衛するために政府系ファンドをつくるべきだと提案したが、この提案の狙いは経済的というよりも政治的なものだ。実行可能性の問題だけでなく外国の政府系ファンドに対する欧州のパラノイアは誤った仮定に基づいている。サルコジが表明した不安は新しいものではなく、西洋世界全体で中東やアジアの政府系ファンドの台頭への嘆きがある。政府系ファンドをめぐる論争の大部分は政治的問題に集中している。西洋の政治指導者はこれが純粋な商業的目的ではなく戦略的目的から運営され、政治目的での重要産業のコントロールを怖れている。アメリカ、カナダ、オーストリア、ドイツなどでは最近政府系ファンドの投資を管理し限定するための法律が整備された。サルコジは10月21日の欧州議会での提案の2日後にアヌシーでフランスが重要企業を防衛するための政府系ファンドを立ち上げることを宣言した。

欧州諸国が政府系ファンドを立ち上げるには多くの問題がある。まず欧州はこうしたファンドをつくる客観的条件がない。東南アジアや中東諸国は輸出に支えられた経常黒字からこれをつくったのだが、中国やシンガポールと違って欧州諸国の多くは赤字であり、中東諸国と違って大部分の国は黒字をもたらすような資源をもたない。第二に非欧州諸国のファンドの目的はサルコジが提案したように自国企業防衛ではなく、輸出で獲得した外貨準備や所得の収益性の改善や多様化である。欧州のファンドは政治目的になるだろうし、これは海外の政府系ファンドへの敵意によるものだ。ところでこのパラノイアは誤った仮定に基づいている。現在までに政府系ファンドが金融市場を不安定化したり、戦略的政治目的を追求したような事例は知られていない。長期投資のためのものであり、キャピタルゲインを得るためにポジションの決済を迫られたりもしない。大部分の政府系ファンドは受動的投資である。その資金は主として国債や公債のような手段の下に置かれている。2007年の海外直接投資はこうした国々の国富の1%にも満たないし、直接的な投資の場合でも支配を目指しているわけではない。欧米の銀行への直接投資ですら少数派に過ぎず、敵対的なものでもなく、透明性のある方法でなされ、ホスト国の金融官庁の同意とともになされている。最後に西洋の銀行への投資は深刻な流動性の危機の際になされていることを思い出すべきだ。多額の資金を銀行に投資することで政府系ファンドは投資家として役立ち、銀行の営業を可能にしてくれたのだ。他方で大部分の政府系ファンドは西洋の銀行への投資で損失を出している。信用危機の進展とともに彼等の出資金の価値は下がったのだ。

といった具合にパラノイアと斬って捨てています。国内では右も左も支持者がけっこう多いようですが、エコノミストで支持する人はやはり稀少でしょうね。相手は政府系ファンドばかりではなくいわゆるハゲタカさんも念頭にあるのでしょうし、また中小企業支援の意味もあるのでしょうが、サルコジ氏の提案が経済目的というよりも政治目的というのはその通りでしょう。いわゆる改革を進めながら同時に経済愛国主義を掲げないわけにもいかないという根本的に矛盾した難しい舵取りになっているようです。

おまけ
"Press review: French Socialist vote"[BBC]
日本語メディアでも報じられていましたが、社会党の指導者はオブリ氏に僅差で決まったようです。このBBCの記事は各紙の論調をよく拾っているので便利ですね。ともかく予想し得る最悪のパターンに終わったようです。これでは党をまとめることは至難の業でしょう。ところで私にはなぜ人々がかくもロワイヤル氏に対して感情的になってしまうのか今ひとつ判らないんですよねえ。それはそれでたいしたものだと思いますが、結局、今回はオブリ支持というよりも反ロワイヤルが親ロワイヤルにややまさったということのようです。大統領選はあきらめていないそうですから、当分分裂状態が続きそうですね。

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コメント

今日は竹中氏が吠えているようです。あるブログで、金森氏、榊原氏、竹森氏、竹中氏などの名前を上げ、外で能書きを垂れる暇があるなら、自分の学校を何とかしろ、と皮肉っていました。
また、ゴールドマン・サックスやリーマン・ブラザーズのエコノミストが、未だ英米の経済紙に登場しては、ご宣託を宣わって居ます。
つくづく、エコノミストとは良い商売だと思います。

投稿: chengguang | 2008年11月24日 (月) 13時31分

まあ私は個々のエコノミストを品評する能力はないのですが、今回の危機に関しては金森氏の「資本主義は嫌いですか」でだいぶ見通しがよくなったので尊重して話は聞いているんですね。竹中氏はおっしゃることが二転三転するのでどうも(笑)。政治家なんでしょう。

投稿: mozu | 2008年11月24日 (月) 23時39分

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