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テレグラフもなあ

"Japan’s Historical Memory: Reconciliation with Asia" by Kazuhiko Togo[Japan Focus]
東郷和彦氏の歴史問題についての論考。先の大戦の認識に関する左派と右派の飽く事なき言論闘争がもたらした国論の分裂を克服すべく中道派は結集し、功罪含めたバランスのとれた認識を打ち出すべく自らの立場を強化せよとのこと。前にリンクしたジェニファー・リンド氏の提言に呼応しつつ「アジアとの和解」の道筋を描いています。後者の論点について言えば、国内でゆるいコンセンサスが生まれるまでは下手な動きはすべきでないでしょうね。リンド氏も言う通りこじらせるだけでしょう。国論の分裂状態を克服すべきだという点については誰のためでもなく我が国のためにそうした方向に向けた動きがあってしかるべきでしょうねとは思います。もっとも自由民主主義国においては意見の多様性がある以上は難しい話ですが、言論の世界のあまりに極端な分極化とそこに飽きたマジョリティーの無関心といった事態が進行することは望ましくはないでしょう。新刊は未読ですが、氏の言動の背後に東郷家のパーソナルな歴史をぼんやりと思い描いていたのであるいはそこに触れているのかもしれません。それとこれは如何ともし難い話ですが、私はやはり東郷氏の言うmy generationに属していないので温度差があるような気がします。いや、これは世代とは関係ないのかもしれませんが、できるだけ距離をとって「理解」したいという感じですね。なお英語圏においては左右の極論ばかり紹介される傾向がありますので中道派の声を英語にすることはそれだけで意義があると思います。ともかくこの実務に長けた分厚い層が大人し過ぎるのが日本の言論の世界の最大の問題だといつも思いますね。

"So Now the US is Trying to Emulate Japan's Lost Decade?" by Yves Smith[Japan Focus]
まあこの記事そのものはどうということはないのですが、いつも見ているnaked capitalismのスミス氏の記事がJFに掲載されていたので。アメリカは日本の90年代と同じ運命を辿るのだろうかという疑いを表明しています。いろいろ懸念もありますし、後遺症に苦しむことになるのかもしれませんが、多分アメリカはそうはならないだろうと今でも思っています。なぜこの記事がJFに掲載されたのか考えたのですが、今ひとつよく判りません。ともかくJFはもっと論調を多様化すべきです。読める記事もありますが、少な過ぎます。

"Japan concerned over US relations with China"[Telegraph]
中国海軍のソマリア沖派遣は国内外ともに大々的に報じられていますが、日本の懸念については英語圏ではこの記事が扱っていました。日本はオバマ政権の日本軽視と中国への接近を怖れている、海自の派遣には公明党と憲法の制約といった障害があるといった基本的な事柄が書かれています。ソマリア沖については前からけっこう騒がれていましたし、安全保障関係者は提言もしていたのにあいかわらず日本の動きは鈍いですね。この件に関してインド側のリアクションが知りたいところです。それはともかくテレグラフの日本ページがけっこう無惨なことになっていますね。コリン・ジョイス氏以降はどうにもならないようです。ジョイス氏の告白に書かれたように新米記者がデスクの注文仕事をさせられているだけなんでしょうけれども。そうですねえ、日本にはイエスの子孫もいますけれども、唯一神そのものが存在していますよ、こちらのほうが凄いと思うのですが、取材したらどうですかね、どうなっても知りませんけれどもね。

"Koons reste à Versailles, n'en déplaise à l'héritier de Louis XIV"[Rue89]
ヴェルサイユでジェフ・クーンズの展覧会を開催しているらしいのですが、そこに展示されている「ピンク・パンサー」という作品がフランス王家の子孫の気にえらく障ったらしく訴訟沙汰になっています。この子孫氏はルイ14世とマリ・アントワネットの直系の子孫にあたる人物だそうでその名もドつきのシャルル・エマニュエル・ド・ブルボン・パルム氏というなんとも高貴なお名前です。この獣と熱情的に対話をする女性の表象はご先祖様への敬意を欠いていると上品な口調で憤慨しています。獣姦は古代からそしてアンシャン・レジーム下でも禁止されていた、っていったいいつの時代の話ですか(笑)。ことごとく王家に物事を関連づけないと気が済まないようで、なるほど由緒の世界の住人の方のようですね。ヴェルサイユ城は国有財産だということで訴えは退けられたそうです。

追記
国連総会に同性愛の非犯罪化求める宣言案提出、66か国が賛同[AFP]
「性的指向や性同一性がいかなる状況でも極刑や逮捕、拘束を含む刑罰の根拠とならないよう法的および行政的を含めたあらゆる必要措置を取ることを求める」と謳われた宣言が国連で出されたようですが、日本はアジアで唯一の支持国だったようですね。この宣言に関連した教皇猊下の発言は西洋諸国ではずいぶんと波紋を呼んでいるようです。

"Gay scene: Tolerance, legal limbo"[JT]
同性愛をめぐる日本の状況についての解説と各氏のインタビューの記事。確かに同性愛に対して寛容なのか不寛容なのかよく判らない国ですね。世界に冠たる同性愛文化の歴史を誇り、宗教的原理勢力もほぼ存在せず、ホモフォーブによるヘイト・クライムのニュ−スなども聞こえない訳ですが(多分イメージと違ってフランスでもこういうニュースはあります)、寛容というよりはあまり関心がないといったほうがいいような気がしますね。アイデンティティー・ポリティックスに疲れて日本に来て「解放」されている欧米系の方はけっこういらっしゃるようですけれども。

"It took more than three decades for sexual minorities to begin obtaining rights in the U.S., but Japan does not have any religious restraint," he said. "We just need one small start, which will hopefully trigger a larger movement for the rights of LGBTs."

と記事は締めくくられていますが、法的権利運動となるとどうなるのでしょうか。不必要な敵対的修辞や上から目線の啓蒙的修辞を避けて「まごころ」的アプローチをとれば案外するっといきそうな感じは確かにありますね。これまでの運動が辿った悪いパターンを踏まなければ。

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コメント

 やっぱ、普通の人が声をあげていかないと誤解されるんだろうなあ、と思います。
それでなくても、英語圏のジャーナリズムは極端な人をピックアプしがちですし、未知のグループ同士の場合、声を上げた人の声が全体の声だと思われがちになる。

例えば、ある特定の変態外人の行動について、仮に、「別にいいじゃないか」、という声しかなければ、現実には、「やっぱおかしい」と思っている外人が大半でも、外人は日本での変態行為を是認している、と誤解することがあるように、むこうさんも日本や日本人に対して誤解するのも当然あり得る。

投稿: 空 | 2008年12月26日 (金) 13時31分

日本語圏内だと中和的な情報も探せばあるのですが、英語圏だとほとんどないですからね。日本想いの方々のご尽力にばかり頼るのはなんとも心苦しい話でどうにかならんかなと思います。また日本人が分厚い偏見の雲に覆われている事実に鈍感で墓穴を掘ってばかりなんですよね。困ったもんです。ともかくこういう変な循環に気付いて適切な介入が出来る人材が増えるといいのですけれども。

投稿: mozu | 2008年12月26日 (金) 22時01分

>日本人が分厚い偏見の雲に覆われている事実に鈍感で墓穴を掘ってばかりなんですよね

全くですね。日本社会のある側面を批判するのは多いにやるべきですが、広く社会の注目を集めたいせいか、、被害を誇張したり、あるいは、自分流の日本論や日本人論を出して説明したりして、それが英語圏のジャーナリズムに利用・悪用される。
困ったもんです。

投稿: 空 | 2008年12月27日 (土) 11時26分

>自分流の日本論や日本人論

確かに文化領域に関わる部分というのはあると思いますが、たいがいの事柄は一般的に説明できるし、そのほうが批判も生産的だと思えますね。だいたい欧州諸国や他のアジア諸国のリポートと比べても日本のリポートが異様なのはおかしいことに気づくべきだと思います。

投稿: mozu | 2008年12月28日 (日) 20時25分

『この件に関してインド側のリアクションが知りたい』とのことですが、『この件』とは中共の海軍がソマリアに派遣されることになった件についてでしょうか、それともソマリア沖の海賊の件についてでしょうか。どちらにしろ、知りたい理由は何で、何故インドなのでしょうか。
申し訳ないのですが、此のソマリア海賊の件についてのmozuさんのご意見は、その内容が全く理解できません。もう少し一般向けの説明を、できればお願いします。

投稿: chengguang | 2008年12月30日 (火) 16時29分

このたびのソマリア沖の海賊対策での中国海軍の派兵が同国のインド洋進出に過敏になっているインド政府にどう見えるのかという点です。今、パソコンが死んでいまして外から書き込んでいるのでちゃんと調べられないのですけれどもとりあえず貼っておきます。
http://blogs.reuters.com/india/tag/somalia/

投稿: mozu | 2008年12月30日 (火) 20時20分

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