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デジャヴュな日々

"Après la démocratie", d'Emmanuel Todd : la société française en crise[Le Monde]
"Europe urged to protect and survive"[FT]
以前「保護主義の声」というエントリで歴史家にして人口学者にして社会学者のエマニュエル・トッドの経済自由主義批判と保護主義の訴えについて少し紹介しましたが、新刊の「民主主義以後」の書評が出始めています。現物は読んでいません。多分そのうち邦訳も出るでしょう。なぜか日本にはファンが一定数いるようですから。私自身は人口学的、家族論的な著作には刺激を受けた記憶はあるのですが、その大仰な口吻の時事的な評論はどうも好みに合わないようです(ちなみに日本には核武装を勧めています)。今度の著作ですが、反グローバリズムの書のようです。それでル・モンドとFTに書評が出ているのですが、奇妙なことにル・モンドがこき下ろし、FTがわりと好意的な評になっています。前者は、こいつは冗談を言っているのかといった冷たい反応ですが、後者は自由貿易主義の議論について問題提起をしている書だというあまりらしくない評です。なにがあったのでしょう。紹介を見ている限りでは、要は、今の世界というのは先進国が中国とインドを経済的に搾取することによって成立しているが、先進国の生活水準の低下と民主主義の機能不全がその巨大な対価である、欧州は英米型の自由貿易主義を袂を分って断固として保護主義政策を採用して中国の労働者との競争から自らの労働者を守らなければならないということのようです。それでフランス政治についてはサルコジはもはや沈める船に過ぎぬアメリカに追従する愚か者で、ロワイヤルの空疎な人気ぶりを見ると社会党ももう駄目だということのようです。またエリート層はもはや革命前の貴族層のごとく傲慢で選挙民の声など無視している。ポピュリズム現象の背景にあるのはイデオロギーと宗教の空洞化であり、反民主主義的なエリート勢力が成長し、イスラム移民を標的にした排外主義を煽って選挙民の不満を逸らしていると。タイトルの「民主主義以後」というのはグローバル・エリート専制みたいなイメージなんでしょうかね。ともかく保護主義によって民主主義が復活し、賃金水準が上昇し、社会的連帯も強化されるということのようです。なんだかひどい論理の飛躍があるような気もしますが、こういう論調そのものは実はフランスではけっこうありふれたものですから、別にいまさら驚きはしません。ただトッドはそれなりに有名な人ですから、それがここまでストレートに保護主義を主張するというのは兆候的な現象に見えます。こうした保護主義の声の高まりを予期し牽制するかのようにVoxEUも反保護主義のE-bookを新たに公表していますね。

"Rencontre historique entre Sarkozy et le dalaï-lama"[Le Figaro]
北京のあいかわらずの強烈な恫喝にもかかわらず、土曜日にグダンスクでサルコジ氏がダライラマ猊下と会談した模様です。猊下は独立を望んでいる訳ではないと述べ、大統領は中国の主権を侵害する意図はないと述べるといった具合にこの会談そのものを過剰にドラマタイズしないように配慮しているようです。かならずしもそうなることを意図していなかったにもかかわらず、行きがかり上すっかり強硬派のような立場に置かれてしまった仏国ですが、ここで会談という展開はなかなか悪くない人権カードの切り方だったのではないでしょうかね。これで両者の仲介役としての役割を果たす資格を得たということなのかもしれませんから、やはり時には根性を見せることも大切なのですね。もっとも中国はあいかわらず恫喝しているようですし、チベット問題についてのフランスの国家戦略はまだよく見えてきませんけれども。

"Devedjian et l'avenir de son ministère"[Le Figaro]
"Hortefeux appelé à devenir le nouvel homme fort de l'UMP"[Le Figaro]
サルコジ氏の盟友にして失言野郎のドゥヴェジャン氏がこのたびUMP幹事長から経済回復大臣に就任したようです。このたびの危機に対応して新設された特命大臣職です。ドゥヴェジャン氏が入閣できずにこぼしていたのは知っていましたが、それほど経済に強いようにも思えませんのでやや意外でした。もっと重視されているポストかと思ったのですがねえ。党務はどうやら移民・国家アイデンティティー相のオルトフー氏が担当することになるようです。あまり我の強くなさそうな氏のことですからこちらはたぶん適任のような気がします。

"Le plan de relance de Sarkozy, toujours très critiqué"[Le Monde]
サルコジ氏が公表した260億ユーロの景気刺激策に対する社会党とモデムの批判の記事です。社会党第一書記のオブリ氏によれば、400億ユーロが銀行に注入されたのにこの景気刺激策は危機のレベルに対応していないとのこと。中道派のモデムのバイル氏もまたドゥヴェジャン氏が担当するこの刺激策は危機のレベルに対応しておらず、この規模では経済機構を再起動させるのには不十分であるとしています。他方、OpinionWayの調査によれば、国民の61%が賛成している模様です。OFCEのグザビエ・タンボー氏はこのプランは不十分なものであり、需要を喚起するにはほど遠いため、第二次の景気刺激策を待たねばなるまいとし、バークレーズのロランス・ボヌ氏はこのプランは「必要」なものであるが、景気後退のレベルに対応しているかどうかは疑問だとしています。この措置そのものは悪くないが、その効果は短期に限定され、家計に信頼を回復させ、投資を再活性化させるかどうかは確かではないと。

"Les économistes pronostiquent déjà un deuxième plan de relance"[Le Monde]
こちらはエコノミストのフィトゥシ氏とアギオン氏の意見を紹介する記事。サルコジ氏の260億ユーロの財政刺激策はケインズ主義の最も純粋な伝統に即したものであり、純粋主義者はこれに拍手を送っていると。OFCEのネオ・ケインジアンのジャン=ポール・フィトゥシ氏はこれは数ヶ月前から考慮していた理想的な刺激策であると激賞しています。これは「1981年以来最も重要な措置」であり、ミッテランが夢見たものをサルコジが実現したと。大部分のエコノミストはこの刺激策の二つの柱—銀行の萎縮により悪化した企業の支援と公共投資の推進—を支持している模様です。しかし別のエコノミスト達は消費と購買力の回復に関して疑問符を付けている模様です。ハーバードで教鞭をとるフィリップ・アギオン氏はアメリカやスペインのような家計に向けた消費と需用の真の刺激策が必要であるとしています。氏によればこの危機は需要サイドの危機であり、典型的なケインズ的状況である、したがって需要を直接に支える対応をなすべきであると。「供給サイドを対象とするフランスのプランは間接的な影響しか持たず、時間もかかるだろう」と。ジャン・ピザニ・フェリー氏は付加価値税の全欧州レベルでの減税を訴えている模様です。なんだか聞いたことのある議論ですねえ(遠い目)。

それから国家公務員の削減計画はアギオン氏によれば狂気の沙汰であるということです。むしろ公共セクターの雇用をつくる必要があると。また自動車産業支援についてはベルナール・マリス氏は必要ではあるが、これが優先的かつ戦略的なセクターであるとは思えないとしています。その他のエコノミストの意見も掲載されていますが、まず必要なことをやってはいるが、これだけでは不十分であり、追加的な経済対策が望まれるというのがコンセンサスのようですね。とはいっても供給サイド重視派と需要サイド重視派で意見が割れているようなのは日本の経済論戦と似ています。マルクスの亡霊がちらちらしているところも含めて。財政均衡主義者の悲鳴も聞こえてきます。

おまけ
"Conservatives, Clientelists, and Koizumians"[Observing Japan]
小泉政権以後の自民党の党内政治の動向をまとめています。第一次近似としては判りやすく悪くない説明なのではないでしょうか。ただ問題は各グループの内部構成と境界線ですね。英語圏の議論でいつも感じるのですが、コイズミアンへの期待から逆算的に勢力地図が表象構築されているという側面はないでしょうかね。コンサバとかクライエンタリストといってもいろいろあると思うのですよ。「保守」の語に込める意味合いもそれぞれなわけでしてね。やはりルネ・レモンばりに明治以来の政治諸潮流に関する総合的歴史の決定版を日本の歴史家が書かないといけないのかもしれませんね。慣用的なラベリングを徹底的に相対化して。そこには目くるめく多様性とともに驚くべき連続性もあると思うのです。いわゆる改革派も含めてです。それはともかく麻生政権がいわゆる上げ潮派を完全排除してしまったのはやはり上手くなかったように思えます。ある程度とりこんでおいて管理しておけばここのところ目立ち始めた離反の動きを最小化できたようにも思うのですがねえ。まあ政局についてはコメントしないでおきます。だいたい政局読みで当たったためしがないですので(笑)。

"Tamp down the old ways" by Hanai Kiroku[Japan Times]
以前靖国問題でアメリカ様に介入を願って泣きついた恥知らずな(別に参拝批判はいいですよ、でも自分の足で立ちなさいということです)元東京新聞のHanai Kirokuさんが、タモガミ・アフェアでまた煽っています。ブログにも書いたように例の論文は問題外であり、また幕僚長の職務にはこの人物は不適当であり更迭されてしかるべきというのが私の立場でありますが、かといってこういう論調にも与するつもりもないのです。

If no action is taken, Japan could start moving back to the age of military dictatorship.

といった個人的妄想を在日外国人に向けて垂れ流すのは止めていただけませんかね。客観的にそういう状況は存在していませんよ。見たでしょう、あのヒステリカルな反応を。それから軍事独裁ってなんなんですか。もしかして東条英機を「独裁者」かなにかと考えているのでしょうか。独裁であったらあるいは日米戦の開戦は回避できたのかもしれませんねえ。本質的に今とさっぱり変わらないですよ。弱い指導者が立っては引き摺り降ろされてとね。キツいかもしれませんが、ピアニストを撃つなというのは個人的にもう止めようかなという気分になっているのですね。まあそれほどの政治的すれっからしさんには見えませんけれども、記者さんのようですからピアニストということはないのでしょうね・・・Baaang!・・・ お元気で。

"Understanding Pearl Harbor"[Guardian]
ガーディアンのEri Hotta氏の記事。米国はパール・ハーバーから熱狂的愛国心ばかりでなく外交の重要性も学ぶべきではないのかという内容です。他者の屈辱感に対して鈍感過ぎるのではないかと。開戦に至る経緯について我々にはごく当たり前の話ですが、英語圏の記事ではあまり見ることはない解説がなされています。要はいまだに頭のおかしな連中が攻めてきたというナラティブですから。Hotta氏はアジア主義と先の大戦の研究をされている方のようです。著書は読んでおりませんが、英語でこうして意見を表明できる日本史研究者が増えることそのものはいいことなのでしょう。ただ本質的に違うがとはことわっていますが、イスラーム・テロリストと重ね合わせるような修辞は危ういのではないでしょうかね。実際、そこからカミカゼ=聖戦士みたいな奇妙なステレオタイプが生じている訳ですから。なおこの論調はフランス語圏の左翼層なら多分それなりに通じると思いますが、英語圏でもガーディアンの読者ならばあるいは通じるのでしょうか。いささか懐疑的なところがあります。

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コメント

トッドの「帝国以後」は発刊直後のブームに辟易していたので、去年まで敬して遠ざけていましたが、読んでみたらけっこう面白かったですね。

話は変わりますが、「なぜか日本で翻訳がでる不思議な人」繋がりということで・・・・
先日ジャック・アタリの新刊の邦訳を手に取ったんですが、ヒドいですね。
フランスの堺屋太一と思ってましたが、トンデモ度と異様なまでの断言っぷりは、とても日本人には真似できません。

投稿: Aceface | 2008年12月 8日 (月) 20時46分

日本におけるトッドとアタリの読者層はわりと重なっていそうですね。トッドはアカデミックな業績がある人ですが、アタリは言いたい放題です。ただ政策にも関与しているので侮れない人だと思います。この人の欧州連合のヴィジョンはそれなりに影響力がありましたしね。根拠なき断言はあちらの文人の伝統ですから慣れるとはいはいという感じでスルーできるようになります(笑)。

トッドの「文明の接近」はわりと面白いと思います。例によって家族形態が政治形態を決定するといういささか根拠不明な仮説に基づいていますが、現代イスラームへのひとつの見方(癖のある見方)を示していると思います。

投稿: mozu | 2008年12月 8日 (月) 22時20分

"例によって家族形態が政治形態を決定するといういささか根拠不明な仮説に基づいていますが、現代イスラームへのひとつの見方(癖のある見方)を示していると思います"

立ち読み程度で恐縮ですが、わりとその意見は欧州の悲観的なイスラム論への答えになっているかと思いました。
イアン・ブルマがMurder in Amsterdamでかなり微に入り細に入り論じているのですが、西欧での反イスラム論の多くはリベラル派(「元」も含む)からのものが多く、単純に人種差別とは断定できない、反発の多くは、イスラムにおける家父長主義と女性差別といった反動的習慣を西欧社会でも実践することに起因している、と論じています。

西欧近代の啓蒙主義がイスラムの家父長主義にいずれは浸透する、だからヨーロッパは安心していい、とトッドが論じるのは、イスラム圏への民主主義の拡大こそが、自国の安全にとって重要といったアメリカの議論よりも、地に足の着いたもののように私には思えます。

投稿: | 2008年12月 9日 (火) 23時06分

いわゆる原理主義(まあこの語は好みませんが)に前近代性ではなく近代性を見るという視点は基本的に正しいだろうと思いますし、中東の現状認識も文明史的な大雑把な把握としては正しいように見えます。評価できるほどこの地域には強くないので印象に過ぎませんけれども。それとイランの核武装を認めてイスラエルと相互抑止させるというのはユダヤ系知識人の意見としてはなかなかすごいなと思いますね。すごいというのはよく言えるなあという意味ですけれども。

また欧州内のムスリムについても今は二世問題が噴出していて悲観論が強くなっていますが、中長期的には統合されていくだろうと思います。といいますか移民の子弟になると社会的統合はともかく既に文化的には同化されているので彼等のアイデンティティー危機はこのずれた状態から生じているように思えます。それで政治理念のレベルで普遍主義と多文化主義でぐらぐら揺れている状況が彼等にダブル・バインドをもたらしているという側面があるように思えます。この点でトッドが統合主義を支持し、多文化主義を断固として拒否しているのは賛否はありましょうが首尾一貫していると思います。まあフランス的偏りのある議論だと思いますが。

>少し補足しました。

投稿: mozu | 2008年12月10日 (水) 00時59分

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