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仏露の接近

"Pourquoi Paris et Berlin ne s’entendent pas sur la relance" by Philip Ward[Telos]
独仏両国の歴史的経験と経済思想の差異に関してフランス人読者に解説する記事。ドイツにおいてトラウマとなっているのは1930年代の大恐慌よりも1920年代のハイパーインフレであること、また現在、英米でルーズベルトが想起されているが、ドイツでは大規模な公共投資がナチスの記憶と分ち難く結びついてしまっていること、それで現在想起されるのがケインズではなくて戦後の奇跡の復興の象徴たるエアハルトであることなどを説明しています。メルケルの演説でも「オルドリベラリズム」や「社会的市場経済」といった戦後ドイツ的な概念が参照されていると。米国的な「無秩序な」規制緩和主義への反発や不況時のケインズ主義的な国家介入への懐疑にこうした歴史的経験があるというのはいかにもそうなんだろうなという気がしますが、なにぶんにもドイツ事情には疎いので正確な解説になっているのかどうかはよく判りません。ともかくドイツ人の思考を理解せずには説得できないぞとのことです。

"Bruno Le Maire, loyal avec Sarkozy mais fidèle à Villepin"[Le Monde]
関連する話ですが、ジャン=ピエール・ジュイエ氏の辞任を受けてブリュノ・ル・メール氏が欧州担当閣外大臣に就任するとこのことです。この記事もそうですが、サルコジ氏のライバルであったド・ヴィルパン派の人物であるという点にメディアのフォーカスがあたっていますが、氏がドイツ語話者であるという点が重要だと思われます。この点については以前エントリに書きましたが、最近冷え込んでいる両国関係を調整するためにぜひともドイツ語能力が必要であるという点は識者によって指摘されていました。外務にも携わっている経歴がありますが、説得役ということで語学能力を買われたという面があるような印象を受けますね。

"Cold War takes gloss off Nicolas Sarkozy's presidency"[Times]
フランスの欧州およびロシア外交に関する記事。独仏関係の冷却化についても触れていますが、ジャン=ダヴィッド・レヴィット氏の発言の部分が重要でしょう。サルコジ氏はギリシアのような第二ランクのメンバーを使って欧州のバランス・オブ・パワーを揺るがしたいと考えていると。随分率直な物言いですね。またEUの議長国の任期切れに合わせてユーロゾーンのチェアマンに就任する事で事実上の欧州大統領への道を目指した試みはメルケル氏の反対で頓挫したが、EU地中海連合のチェアマンの任期はまだ18ヶ月残されていると。最後にロシアについては、

His next plan, not yet announced, is a new “economic and security space” with Russia, Mr Levitte disclosed. Given anger in the West towards Russia's occupation of northern Georgia, European leaders will be surprised to learn that Mr Sarkozy aims to offer a new security pact to Russia and hopes to bring in Ukraine and Turkey.

といった具合に新たなる「経済・安全保障空間」をロシアとの間に設定するプランを提出するつもりのようです。やはり先日のミサイル・ディフェンス批判はレヴィット氏の入れ知恵だったのでしょうかねえ。徐々にパズルの完成形が見えてきました。これではアメリカとの齟齬がだんだん大きくなりそうな予感がしますね。上手く立ち回る自信があるのでしょうけれども。しかし地中海連合にせよ親ロシア外交にせよやはりゴーリスムの伝統は永久に不滅でありますねえ。極東の見物人としてはそうこなくちゃという感じですけれどもね。

以下日本関連記事です。
"Fallout from Pentagon's gaffe spreads" by Kosuke Takahashi[Asia Times]
高橋浩祐氏のペンタゴン報告書をめぐる記事。同報告において北朝鮮を核保有国と記述した点について韓国では騒がれているようです。記事は志方俊之、権鎬淵、李英和各氏や外務省関係者の取材に基づいています。専門家の各氏は核実験は失敗だったのであり、核保有国とは言えないとし、senior officialは

"As the only nation in the world to be bombed with atomic weapons on Hiroshima and Nagasaki [in 1945], Japan can never accept such a policy stance," a high-ranking Japanese diplomat told Asia Times Online on the condition of anonymity. "In addition, Japan upholds the NPT. Also, admitting North Korea as a nuclear state is not a good negotiation tactic. It only benefits Pyongyang. "

と述べたとのことです。日本のメディアがスルーしている理由はよく判りませんが、こうやって英語記事にすることは十分に意味があるでしょう。ところでいつになったら日本のページからAsian Sex Gazetteのリンクバナーを撤去してくれるのでしょうねえ。非常に目障りなんですけど。

"Japan's premiers doomed to failure" by Yasuhiro Tase[Asia Times]
何故日本の首相の任期が短いかについての考察。これは首相個人の資質の問題ではない。アメリカ大統領の資質だって似たりよったりだ。問題は大統領を支えるようなシステムが日本にないこと、また公衆に訴えかけるには専門のスピーチライターが必要だが、日本の首相は生の言葉で語らされている。最後に各メディアが毎月支持率調査をしては騒ぎ立てるが、これは政策ではなく個人のパーソナリティーの投票に過ぎず、これを乗り切れる人間などそういない。それゆえ

As a result, the PM's approval rating falls day by day. The market is sensitive to this figure, leading to drops in the Nikkei Stock Average, which in turn pulls down the PM's approval rating. Japanese politics is caught in a vicious circle. A Japanese prime minister is expected to do an impossible job of implementing policies welcomed by the public, maintain a lovable character and exercise strong leadership on the world stage at the same time. This results in prime ministers with an annual income of approximately 30 million yen (US$325,000) being criticized by TV presenters earning hundreds of millions yen in income as "thoughtless of the public". The day might come soon when no one wishes to become prime minister in Japan.

ということです。元日経の方のようですが、メディアの政局報道への苛立ちが表明されています。日本の首相の任期の短さをメディアにのみ帰責する訳にはいかないと思いますが(明治以来の首相任期を想起しましょう)、ここで言う「悪循環」現象が現在存在しているのは確かだと思います。どうでもいい情報ばかりで本質的な議論を喚起するための素材提供の使命を十分に果たしていないどころか邪魔ばかりしているという印象を受ける人はかなりの数に達するでしょうし、供給サイドでもそう思っている人はかなりの数に達するでしょう。どうしましょうかね。少なくとも一流紙ぐらいは矜持を保って欲しいのですけれども、率先して政局を動かそうと仕掛けますからね。ふう。

"Norms of citizenship law"[Mutantfrog Travelog]
国籍法についてかつて大先生が盛んに流していたデマをとりあげている記事。なかなか考えさせられるコメントもありますね。血統主義と生地主義の歴史的展開の話は本当に複雑なんですよね。お手軽日本人論と結びつけて批判する人は大先生ならずともけっこういますが、そんな単純な話ではないです。ドイツと対比されてよく例に出されるフランスの国籍法についてもそもそも父系血統主義の元祖はナポレオン法典だという重要な事実をスルーしていはいけませんし、フィヒテとルナンの国民概念の対比を国籍法に重ね合わせるのは単なる歴史の無視でしょう。新哲学派の面々は歴史などお構いなしなのだということも忘れてはいけませんし、ルナンという人が悪名高い人種主義者で政治的にも反動派だという事実も省略すべきではないでしょうね。明治日本の国籍法でも血統主義と民族主義とはもともと別物ですし、帝国というものを無視しては国籍法は議論できないでしょうね。この点については私も勉強しないといけませんが、要はイメージで語ってはならないということですね。

おまけ
"Corporate Japan's War Stories" by William Underwood and Mindy Kotler[Far Eastern Economic Review]
Underwood氏とKotler氏の黄金コンビのご登場です。これまでのまとめといった感じで内容はpoorとしか言いようがないものでありますが、彼らの私的な正義の法廷の被告人をCorporate Japanとしているところがポイントです。クリントン時代に見られたような目立った動きはないだろうと予測しますが、まあこの二人の動きはモニターしておいたほうがいいです。Underwood氏は長年麻生氏を付け狙っている自称研究者ですね。またKotler氏の活躍はReconciliation between China and Japanという麗しい名の一方的な日本糾弾サイトで見られます。中国ではなく慰安婦ネタばかり書いているんですけれどもね。善意の人なんでしょう。でもこの人の東アジア史の絶望的な無知には溜息がでますし、ダブルスタンダードが非常に香ばしいです。中でもトルコのアルメニア人虐殺非難決議の際にこの人が見せたダブスタのことは決して忘れないでしょう。日本語読めなさそうですからここに日本語で書いても無意味かもしれませんが、米国の例の決議はあなたが思っている以上に深く持続性のある心理的インパクトを及ぼしていると思いますね。なぜかって。他ならぬ米国だからですよ。普段はなんとも思っていなくとも抑圧された記憶が回帰するという人々もけっこういる訳ですね。自己満足と引き換えになんだか困った人々を増やしてしまったようですね。ふう。文脈をわきまえない善意の介入主義は悲惨な結果をもたらし得るのだぐらいのことは学んで欲しいです。謝罪だの和解儀礼だので平和が実現すると思うほど私はナイーブではないのですけれども、そうですね、ジェニファー・リンド氏ぐらいのリアルな認識も持っていただきたいです。公正と正義を愛するならばマルチラテラリズムでやるというのもあると思いますよ。それがこの地域の大いなる和解につながるとは思えませんが、救われる人も個々にはいるのでしょうから。とっても判りやすいダブスタぶりから見てアメリカン・ナショナリズムを超えることは期待していませんけれどもね。

"Young 'Zainichi' Koreans look beyond Chongryon ideology"[Japan Times]
このブログでは批判的に言及することがありますが、別に私は根っからのJT嫌いという訳ではないです。あまりにも懐かしい論調の記事は別にして日本語のメディアではあまり読めないような記事が掲載されることがあるのは事実ですから。この記事は北朝鮮系の在日の若者の最近の動向を扱ったものです。話には聞いていましたが、イデオロギー離れの傾向は加速しているようです。拉致事件というのは戦後的なタブーを本当に破ってしまった事件だったのだなとしみじみと思ってしまいました。葛藤の中におられるようですが、みなさんに幸いがあらんことをお祈り申し上げます。私にはべき論を語る資格はなさそうですが、一つだけ言えるのは、イデオロギーなんてつまらんもんですよ、本当に、ということです。

追記
少し修正しました。タイトル変更しました(2008/12/16)。

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