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宿命ですか

"The 'Honne-Tatemae' Dimension in Japan's Foreign Aid Policy Overseas Development Aid Allocations in Southeast Asia"
読んでいて頭が痛くなりました。たぶん善意の人達なんでしょう。批判はいいんですよ、でもこの論文のなにが憂鬱にさせるかというとタイトルからも判るように外国人受けしそうな「文化的説明」を恥ずかしげもなく披露している点です。「本音と建前」論の誕生が実は最近のことらしい(それ以前は言葉の意味も違ったらしい)という「歴史的事実」を知らないようですね。といいますか参考文献にアンチ日本人論やメタ日本人論を挙げているのになんでベタな日本人論を展開しているのか意味不明です。それからずいぶんと理想化しているようですが、諸外国の援助の実態を知らないのでしょうかねえ。日本に必要なのは自己満足を止めて厳密な成果の評価と戦略的視点を導入することだと思います。なお私は「文化的説明」は好みませんが、援助をめぐる戦略性の乏しさという点ではいわゆる「お大尽」志向のほうがイメージ的には説得的なような気がしますね。まあ見直されるべき時期だという点には同意しますけれどもね。

"The Anxiety of Influence: Ambivalent Relations Between Japan's 'Mingei' and Britain's 'Arts and Crafts' Movements"
民芸運動とイギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動の影響関係に関する考察。産業主義への反発から英国で生まれたモリスやラスキンらの伝統工芸の復興運動が柳宗悦の民芸運動に与えた影響についての入り組んだ関係を解き明かそうとしています。モリスやラスキンの著書はすぐに翻訳され知識人の世界ではブームとなった訳ですが、柳は民芸運動を日本オリジナルな運動と称して影響関係を認めなかったとされます。論者はこのアンビヴァレンツに西洋コンプレックスとナショナリズムの結合を読み取っています。また柳による朝鮮の民芸の美の発見の眼差しには帝国日本の他者に対するオリエンタリズムがあったとしています(「オリエンタル・オリエンタリズム」)。一方で英国では自己の文化的優越性を維持すべく日本の工芸を「野蛮」視するという冷ややかな態度が一般的であった点を指摘することを忘れていません。最後に西欧への劣等コンプレックスを抱くアメリカにおいては日本の工芸は欧州の工芸に匹敵するものと絶賛されたのことです。西欧コンプレックスを媒介に日米が結ばれるわけですね。いささか図式的な感じもしますが、イメージとしては判らなくもありません。

ただこの論文では近代日本の美的階層秩序の中における民芸が占める位置への言及が乏しいような気がしました。近代日本では「美術」制度は非常に不安定な状態だったわけで近代英国におけるモリスの占める位置とはやはり違うわけですから。またロシアの影響に言及しないのもどうかと思うのですがね。民芸運動というのはトルストイ主義や白樺派運動とリンクしているわけですよね。大正時代の日本帝国をめぐるジオカルチャラルな構図を描くのだとしたら、最大の仮想敵国である一方で知識層が非常に親近感を抱いていたやはり西欧への劣等コンプレックスに苦しむ大国ロシアへの言及は省くべきではないように思いました。あれがないこれがないというのはあまり上等な意見ではないのでしょうけれどもいわゆる大正生命主義に多少興味があるので柳宗悦のもう少しややこしい位置づけをおさえて欲しかったのです。

"Yosano rejects increased public spending"[FT]
"Japanese stimulus will fail, warns minister"[FT]
"Japan shuns role as leader of recovery"[FT]
与謝野氏がFTのインタビューでなにか評論家風の発言をしています。政治家としてこういう場面で正直に持論を展開するのは止めていただきたいのですが、与謝野氏になにを言っても無駄なのかもしれません。政策余地は少ないができることはしていきたいぐらいのことを言えばいいのに、ここで日本はなにもしないぞ宣言を高らかにされてもね。いや、そんなに大規模な財政政策を期待しているわけではないのですが、ここまで頑固だとは思わなかったです。私も見る目が甘かったようですね。ふう。ところで関連記事が3本もあるのはなぜでしょう。財務省からのクレームでもついたのでしょうか。どれも似たような記事に見えますけれども。「宿命論」というのは言い得て妙ですね。意図はともあれこれだと単にもう駄目だとしか聞こえないのですよね。

"German complacency poses a serious threat"[FT]
ミュンヒャウ氏のドイツについての論評。ドイツの欧州協調の拒絶が深刻な脅威となるという内容ですが、ドイツが意固地になっている理由として、ドイツの経済「構造主義者」の癖のある思考(改革はすべてうまくいっている)、歴史的にこうしたスランプに対応する能力のなさ(メルケルは大恐慌時のハインリヒ・ブリューニングと同じ)、最後にメルケルとサルコジの強烈な敵対感情の3つを挙げています。ドイツ経済の沈没もあきらかであり、またドイツがこの路線に固執する限り、欧州レベルでの適切な対応は不可能だ。アメリカの景気刺激策は大規模に過ぎ、欧州の財政刺激策は小規模に過ぎる。ECBの金融政策は限定的な効果しか持たない。最後は例のごとく

The dual problem in the eurozone, and in Germany in particular, is the conviction that all economic policy is structural and that the creation of a single currency is irrelevant to economic policy. The fallacy of those convictions will be demonstrated shortly – at crippling cost.

と暗い見通しを示しています。ところで“We can only hope that the measures taken by other countries ... will help our export economy.”に日本の本音と似たものを感じてしまったのは私だけではないでしょう。

おまけ
"De latrinis Japonorum"[Ephemeris]
エフェメリスで日本の便所のニュースが報じられています。世界に冠たる我が邦のハイテク便所でありますが、ラテン語で関連記事を読むことになるとは思いませんでした。俳句が引用されていますね。

"Fert mihi sola mea in vita latrina calorem."

人生で暖かみを与えてくれるのは我が便所だけだといった意味です。ラテン語になるとなにか違った響きがありますね。ポンペイの壁に遺された古代人の落書きみたいです。

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コメント

日本のプロジェクトは大きなタイトル小さな内容、と思っていますが、未だ、搾取者と被搾取者と言う対立関係でしか物事を分類できない学者が居るとは思いませんでした。こういう人は、目の前の事象が目に映っていても認識できていないのかもしれません。
FTは財政出動を決めたブラウン首相の政策を全面的に支持していますし、日本はドイツと同じく貿易依存の高い国家だとの誤認識を持っていますので、内需の拡大を叫んでいます。従って、その困難さを述べる与謝野氏の発言を引き出すことで、自国の政策の今迄の愚かさを隠蔽し、まだ先の見えない将来を夢想して歪んだ自尊心を満足させているのではないでしょうか。
今回の記事は、日本の学者も英米のジャーナリズムも、インターネットの普及さえなければ、この程度の能書きで十分飯が食えていたと言う證左だと思います。

投稿: chengguang | 2008年12月 3日 (水) 20時23分

ここしばらくのFTの論調からすれば世界的な協調財政出動の輪に日本も加わることを期待しているのでしょうね。そこで与謝野氏が正直すぎる意見を述べたので驚きをもって少し大げさに書かれてしまったという話なのかと思います。ただこのインタビューに限らず、ここしばらくの与謝野氏の発言はやや政局的で無責任に聞こえることがあります。それなりに尊敬している人なんですけれどもね。

投稿: mozu | 2008年12月 4日 (木) 00時06分

日本は10月末の時点で約40兆円規模の経済対策を打ち出しています。そのことをmozuさんはご存知の上で、私のFT記事の感想に対してコメントされているのでしょうか。其処までFTに阿るのは、何なのでしょうか。また、色の付いている記事の発言を素直に受け取っているのも理解できません。
貴ブログは高等遊民を自認されておられるような書風なので、そうであるなら、もう少しフランス風の棘のあるエスプリで高説を開陳して戴けたらと思います。

投稿: chengguang | 2008年12月 4日 (木) 11時29分

海外紙でのインタビューで損をしないように話してほしいなと思っているだけです。政策担当者が他人事みたいな発言をわざわざすべきではないでしょう。ちなみに記事に対してはクレームのメールを送っていました。バランスをとってくれと。

>書き直しました。ご了解ください。

投稿: mozu | 2008年12月 4日 (木) 14時23分

それからこの件ですが、麻生首相の閣僚コントロールが効いていない兆候にも見えました。「責任閣僚制」などと言われてましたが、ここしばらくどうもちぐはぐですね。安倍政権の時の閣僚達の勝手な振る舞いを思い出します。まだあそこまでひどくないですけれども。

投稿: mozu | 2008年12月 5日 (金) 02時02分

 政治的にも経済的にも世界が混沌としてきましたなああ。地政学の奥山氏じゃないけど、カオス化してきているような感じもしないでもないし、なんか不気味ささえ感じる。
 日本の政治も然り。どうなるかわからない状況ですね。

 「人生で暖かみを与えてくれるのは我が便所だけ」というのがいやに真実味を帯びてきた。

投稿: | 2008年12月 5日 (金) 15時29分

政治的にも経済的にも、日本でも世界でも混沌とした様相を呈してきて、「人生で暖かみを与えてくれるのは我が便所だけ」というのがいかにも真実味を帯びてきましたなあ。

投稿: | 2008年12月 5日 (金) 15時32分

そうですねえ。ほんとうに不確実な状況になってきました。北朝鮮情勢も動きそうな雰囲気ですし、どうなるんでしょうねえ。家の便所は寒いので・・・。

投稿: mozu | 2008年12月 6日 (土) 00時30分

うわー、与謝野氏が言霊信仰に走ってしまいました。しかもロイターで世界中に流れています。

首相の指導力問われていない=消費税時期明記見送りで与謝野担当相 | Reuters
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-35399920081212

>与謝野担当相は「口から出た言葉というのは魂を得て世の中をさまよう。だから、言霊(ことだま)だ」とし、「3年後に消費税をお願いしたいと麻生総理の口から出た言葉は、魂を得て、いま永田町、霞ヶ関界隈を飛んでいる。やはり魂を慰霊しないといけない」と語った。

アメリカ上院でビッグ3救済が頓挫して、円が90円を突破した日にこれですか…orz

投稿: Baatarism | 2008年12月12日 (金) 14時33分

あははと笑えないところがつらいです。与謝野先生・・・

投稿: mozu | 2008年12月12日 (金) 15時21分

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muteki 第6弾でヒントが出ましたが。数学赤点の俺が「チャート式」片手にヒントの図式を回答してみましたよ。 [続きを読む]

受信: 2008年12月 3日 (水) 15時59分

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