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グアドループのゼネスト

カリブ海のグアドループでゼネスト暴徒化、死傷者も[AFP]

不満の海外県支援に700億円=仏大統領、暴動沈静化狙う[時事通信]

しばらく前からフランス海外県のストの話が報じられていたのですが、ここ連日「海外危機」などという見出しでずいぶん騒がれていました。特にグアドループのゼネストが暴徒化し、治安部隊を投入したあたりはずいぶん緊迫した空気でした。死傷者も出てしまったようです。それでサルコジ大統領が沈静化を狙って海外県に援助を約束したというのがここまでの流れです。これで収束に向かうのかどうかは予断を許さない、ということになるのでしょうか。

報道によればこのたびのゼネストは物価上昇による生活の厳しさが原因とされますが、理由がいまひとつよく判りません。一般に観光や農業が主産業でパリからの補助に頼っている経済面での弱さが今回の危機で露呈したといったイメージで語られているのですが、少し前まで海外県で最高水準の成長率を達成していた記憶があるのですね。これは90年代のグアドループ経済に関するInseeのリポートですが、メディアの報じる援助頼りのイメージは修正すべきだとしています。ただ経済の近代化の進行の楽観的な記述とともに失業率の高さ、公的セクターの比重の高さ、生活コストの高さ、輸出の弱さ、観光の脆弱性といった問題点も指摘されています。またこちらは海外省のページの2007年の概観ですが、やはり楽観的な記述になっています。ユーロ使用にともなう問題があり、成長にともなうインフレ気味の経済で賃金水準が追いついていない状態にあって火がついたということなんでしょうかね。今回の危機の影響がどう及んでいるのかがよく見えないです。石油の供給がストップしたという話もありますが。政治的理由が大きいのかもしれません。

で個人的にはRue89のクレオール語に注目する記事が目に止まりました。それほどレベルの高い記事ではないですが、ニュースを見ていてなにを語っているのかさっぱり判らなかったので。以下要約です。ストを組織したLKPのメンバーはクレオール語で語っているが、演説の重要な側面が非クレオール語話者には理解できないように思える。それは演説者と公衆との言葉のやりとりだ。これはマーティン・ルーサー・キングの演説の例のように黒人文化の重要な側面だ。LKPのメンバーの演説はキングを参照している。聴衆は演説者を応援し、言葉を提供し、演説者は聴衆を挑発し、冗談を言い、叱り付ける。特に女性達がこうしたやり取りを行う。これは住民に根を下ろした運動である証拠だ。クレオール語は構造化された思考の担い手となったのだ。長い禁止の後にこの言語は感情のみを表現し、フランス語が思考を伝えると言われたが、徐々に政治表現の道具として鍛えられていたのであった。ニュアンスが重要だ。演説者は「組織される」ということを言うのに"poté métod"を好むが、この表現は団結や絆を意味する"lyannaj"を強調する。この"lyannaj"は敵を"fouté lyann"する、困難に陥れるという表現と結びつく。 "Nou an lyannaj" とは闘いでそして日常でもみな一緒だという意味になるが、この言葉は10日間の当地の滞在で感じられた感情だ。運動に敵対する側からは「クレオールで話し続けて彼はもうフランス語を話せないのだ」といった非難の言葉が聞かれた。ここに断層が走っているのだ。言語選択は断層の存在を示すもののひとつだ、ということです。この記事で書き手が言っている断層の意味が今ひとつ不明瞭なのですが、パリ寄りの島民とそうでもない島民との間で使用言語の選択に差があると言いたいのでしょうかね。フランス語も話すけれどストで日常語を使用するというのは特に驚くべきことでもないような気がしますが、LKPが独立志向のスローガンを叫んだこともあって過敏になっているのかもしれませんね。

ワールド・ファンではないですが、島嶼音楽が好きみたいで当地の音楽はわりと聴いてます。伝統的なものではグウォ・カが有名です。街のダンサーがいいです。

http://www.youtube.com/watch?v=y6h1MJNchoQ

http://www.youtube.com/watch?v=P4pp0mYmKFs

http://www.youtube.com/watch?v=2sFqXviSEng&feature=related

ビギンとかズークとかいろいろあるのですが、最近ではレゲイのadmiral-Tが人気者みたいです。グウォ・カの伝統が入っていると言われます。

http://www.youtube.com/watch?v=lepyxp_0kwQ

http://www.youtube.com/watch?v=KWdUzaT2D6I&feature=related

ではでは。

追記

よく調べずに適当に書きましたが、経済成長にもかかわらず物価指数は弱インフレ程度で推移しているようです。直接の原因(のひとつ)とされる燃料費の高騰はどうも供給側の問題のようですね。最近の食料品の高騰についてはデータや分析が見当たりませんが、もともと高いと言われていますね。ユーロに加えて輸出入の構造にもなにか問題があるのでしょうか。植民地時代の白人子孫の地主層との人種対立に触れたガーディアンの社説はひとつの模範的な解釈です。確かにこの要素が不満の根源にあると思います。ただこのゼネストにおいて人種対立の要素の大きさをどこまで評価すべきなのかは正直判らないです。

再追記

これを人種対立と理解すべきか否かに関連してRue89に記事が掲載されましたので簡単に紹介しておきます。面倒な論点ですが、この解釈ゲームそのものが既に政治を構成してしまっているらしいので。以下忠実な訳ではありません。これは社会危機なのか人種危機なのかというリード文が内容を集約しています。

"Guadeloupe : Paris dit "statut", le LKP crie "faux débat""[Rue89]

LKPと政府とが交渉している案件は賃金を200ユーロ上げろといった具合に社会的な領域に属しており、この紛争の社会経済的根源は明瞭である。物価高、失業率、特に若者の失業率の高さ、中小企業の多さなどである。しかし別の側面が見え隠れしている。この危機は人種あるいは独立に関する危機なのだろうか。 "La Gwadloup sé tan nou, la Gwadloup a pa ta yo"(「グアドループはわれらのものだ。グアドループはあんたらのものじゃない」)というスローガンは、ベケ(beke 註:17世紀の白人奴隷主の子孫)に向けられているにせよ、メトロ(metro 註:メトロポリテーヌの略、帝国の中心の住民)に向けられているにせよ、社会的な断層と折り重なるアイデンティティー上の断層線を露呈している。ベケもメトロも白い肌の所有者である。LKPのリーダーのエリ・デモタは「奴隷制社会について語ることは肌の色とはなんの関係もない」と述べているのだけれども。しかし現地ではこの問題が存在しないなどはとうてい言えない。4月30日のCanal+のドキュメンタリーで放映された島でもっとも強力な産業家のあるベケが「人種の純粋」を求める一方で、デモタ自身が「黒人とインド系のグアドループ島民は借地人に過ぎないと感じている」と述べているのだ。

パトリック・ロゼスによれば、マルティニクに比べてグアドループでは混血の度合いが低いことが緊張の原因であり、グアドループ島民はアフリカへのルーツ意識がより強いとされる。歴史家のフランソワ・ドュルペールはもっと慎重だ。氏によれば、グアドループ人が特にracistな訳ではなく、小アンティル諸島は遠くにあるブルターニュという訳ではない。彼らは7000キロメートル離れたところに住むアメリカ人なのであり、ブルトン人やアルザス人の地域的要求とは異なるのだ、と言う。公的にはこの紛争は独立主義的な痕跡をとどめないが、ロゼスは厳格な社会的な解釈、あまりにも政治的に正し過ぎる解釈に疑問を呈する。LKP内部で低い声で表明されているのだが、独立主義的な主張が聞き取れると。そこにはフランス人との連帯の喪失があり、メトロポルもまたこの島の運命への関心を失っている。現地の役人は白人メトロで占められ、黒人の役人はC級の役職に追いやられている。

エリ・デモタは怒っている。LKPの代表の誰も独立を語っていないのに、運動の反対者達はわれわれを不安定にするために古い件を再び持ち出している。不満の真の大義を簒奪するための偽りの議論だ。じらして疲弊させるためにLKPが主張したことがない事柄で応答しようとしているのだ、と。.デモタの苛立ちはこの点でLKP内部の深い意見の不一致と関連している。独立の議論をもちだすことは40の運動の連合体であるこの運動の凝集性を弱めることになることを知っているのだ。デモタが昨年そのリーダーだった組合であるUGTGは1973年の創設以来「自決」を訴えている。ギアナの議員のクリスティアヌ・トビラは独立派がリーダーだとしてもLKPを独立運動とするのは誤りだと述べている。フランソワ・ドュルペールにとって意図の勘ぐりはまったくの「時代遅れ」だ。「彼らが市民性と手を切りたいのは彼らがグアドループの国や人民について語っているからではない。われわれはもう19世紀にいるのではない!アイデンティティーの問題を抱えているのはフランス全体なのだ。」

ということです。つまりフランス政府だけでなくLKPのほうもこれを人種の問題や独立の問題にしたくない一方、誰も単なる社会経済的問題だとは思っていないのでかくも運動の意図に敏感になっている、という状況のようです。これはこれで奇妙な状況のような気もするのですがね。市民性ってなんだろとか。

再々追記

"Le mouvement social en Guadeloupe justifié pour 78% des Français"[20minutes]

今回の社会運動に対する世論調査結果が出たようです。BVA pour Orange、レクスプレス、フランス・アンテルの共同調査によれば、78%のフランス国民がこの運動を正当とみなし、17%が正当ではないと考え、5%が意見なしとのこと。また右派の67%、左派の89%、どちらでもないの68%が共感的だとされます。BVAのアナリストによれば、この数値はさまざまな社会運動に関する調査の開始以来最も高い、またアンティルに固有の問題ばかりでなく一般的に社会的抗議に対するメトロポルの受容の高さを示しているとのことです。どうやら危惧し、深読みしているのは一部のインテリだけでこの件は分断を深めずに一定の収束の方向に向かうのかもしれません。

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