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NATO軍事機構への完全復帰をめぐる論争(4)

ずっとこの話題に関連するニュースを追っていた訳ですが、各人各様の反応でいろいろなものが炙り出されてなかなか面白いものがありました。サルコジ大統領が議会多数により不信任動議を否決して完全復帰を決めたようですが、メモしておきます。以前のエントリで世論は賛成反対で多分拮抗しているだろうと書いたのですが、最新の調査では賛成派の方が多数でした。58%が賛成で反対は37%、意見なしが5%ということでけっこうな差がつきましたね。ところが政界や言論界での討議は相変わらず止まないようでした。

賛成派のカトルメール氏のポストから引くと、

当時は[註:1966年]社会主義者とキリスト教民主主義者(Modemの先祖)が君主ド・ゴールの振る舞いに対して不信任動議を提出したものだが、彼らは今日では滑稽を怖れずに「フランス的例外」を護持するために「ゴーリストの遺産」を引き合いに出している。反帝国主義(オバマ効果は過ぎたようだ)で沸騰したありそうもない同盟の中には歴史的なゴーリスト、シラキアン[シラク派]、右派主権主義者、極右、社会主義者、共産主義者、ラディカル左翼、おまけにModemすら肩を並べているではないか!

ということでありそうもない同盟が成立していました。Modemのバイル氏の意見は既に紹介しましたが、社会党側からは、例えば、オブリ氏は「私たちは欧州にプライオリティーを与えたいのです。私たちは欧州防衛を重視します。米国に与するどんな理由もないのです。そのことはバラク・オバマと仲良くやっていくこと-それを望みますが-を妨げるものではありません」と述べていました。ジョスパン氏によれば、この動きは「米国の大人しい長女」-お隣さんのこと-となることを免れされた半世紀にわたる左右の「コンセンサスを破壊」するものであり、「私には自らを凡庸化する利益が分からない。私たちはもう少しオリジナルでありたい」と批判していました。ファビウス氏もコンセンサスの不在とフランスの凡庸化と欧州防衛の無意味化を嘆き、この動きを「誤り」と断じていました。最後にロワイヤル氏は、この決定は「西洋圏への退却」を意味し、フランスの独立を毀損し、冷戦思考への後退を促すものであり(ロシアとの対決をイメージしているのでしょう)、オバマのマルチラテラリズムに対しては追従ではなく独立で応じるのがよいと論じています。バイル氏もそうですが、自分たちは「西洋圏」のみに属しているのではないといった種類の普遍意識がある訳ですね。

与党UMPの中からもシラク派から反対の声が挙がっていました。イラク戦争の際の国連演説で有名になった、しかし国内政治ではけっこう優柔不断だったド・ヴィルパン氏が盛んに批判していましたが、このインタビューでは凡庸化に抗してフランスの特異性を守れと主張しています。特異性とは西と東、北と南の掛け橋の位置を占めることであり、対テロ戦争のロジックがもたらすブロック化の趨勢に反対することだ、シラク時代の試みは冷戦崩壊後の文脈の中でなされたものだが、その文脈は失効していると。また元首相のジュペ氏も批判に連なっていました。本人のブログによれば、ドグマではなく国益に従って考えなくてはならない。失敗に終わったが、シラク時代にNATOとの接近が試みられた際には米国と欧州の対等な関係を前提にしていた。その後大きな歴史的転換があった。出発点にあった条件、米国と欧州の対等性は満たされているのか。否。欧州防衛はまだ途上にある。推進派の議論は強いが、立ち止まって考えるべきだ。NATO内部の特殊性を放棄することにいかなる利点があるのか、同盟内で影響力が増大するというのは本当なのか、欧州諸国はどう反応するのか云々。ド・ヴィルパン氏やジュペ氏の活発な批判の背景に年来の主義主張ばかりでなく政局的な配慮を読むのは必ずしもシニカルという訳ではないでしょう。

一般にシラク派はゴーリストとされる訳ですが、あいつらは真のゴーリストではないというもっと理念的な人々もいます。主権主義陣営からは「立ち上がれ!共和国」のデュポン=エニャン氏の痛憤の叫びが聞こえてきました。「最も高くつく、最も破滅的な政策、それは小国であることだ」というド・ゴールの言葉を引用し、米国への従属の道の危険を訴えています。ブログで反対署名を集めたり活発です。またフランス運動のド・ヴィリエ子爵もまた熱烈に反対しています。自動的にフランス軍が参戦する可能性を防ぐこと、この原則は多極化する世界にあって死活的に重要だと。米国はよき友であるが、自分たちのイデオロギー的ヴィジョンを押し付ける傾向があり、この決定は対米追従につながる。フランスの国際的なイメージも変わってしまうだろうと。

修辞やアクセントには違いはあるのですが、反対派の論調に共通する要素として、フランスの独立と特異性(singularite)を守るべしというナショナルな理念、大西洋主義ではなく欧州の地域秩序の形成者たれという地域主義的な理念、さらには西洋主義ではなく諸文明の掛け橋となれといった普遍主義的な理念、これらの複合を見て取れることができるようです。またロシアとの「新冷戦」はなんとしても避けるべきだという地政学的な判断に共通性が見られるようですね。後者への懸念はよく分かりますが、ここまでのサルコジ政権の動きを見る限りは対ロシアでは反対者とはそれほど戦略的に違わないように思えますがね。極左や極右の意見は割愛しましたが、だいたいこんな論調のようです。

英語圏での受け止め方はおおむね好意的のようで、そこにはなにか放蕩息子の帰還を暖かい目で迎え入れる一家のようなおもむきが感じられます。またこの機会とばかり人類の教師のごとくBBCがフランスは暗黒の歴史との和解が必要だと説教しています。戦後のレジスタンス神話のことですが、マクミラン氏の言葉を引用すると

France, he said, had made peace with Germany, had forgiven Germany for the brutality of invasion and the humiliation of four years of occupation, but it could never - never - forgive the British and Americans for the liberation.

と英米への屈折した心理を指摘しています。ただ助けられたことばかりではなくてTimesの記事にあるこうした戦後の「屈辱的」な光景も背景にはある訳でしょうけれどもね。引用すると、

Younger French people may find it unimaginable but American forces were part of the landscape from 1944 to 1967, admired and envied, especially in the 29 base towns, where they cruised in exotic cars, lived luxuriously and taught local women to dance rock'n'roll. At Chateauroux 10 per cent of all marriages between 1951 and 1967 were between US servicemen and French women. The film star Gérard Depardieu has fond memories of a black American girlfriend of his teenage years.

もちろん戦略的な決定な訳ですが、NATO軍事機構離脱と米軍基地撤去にはパリをパリスと発音するような連中が我が国土を・・・という強い感情があったのでしょう。若い人たちには分からないだろうがと記事が言うようにもう歴史の中の出来事なんでしょうけれどもね、まあ和解ということでよかったんじゃないですか(棒読み)

追記

"Sarkozy's Power Play" by Judah Grunstein[Foreign Policy]

グルンスタイン氏のよくまとまった論評。批判者たちの言うのとは違ってサルコジ氏は米国に接近することそのものを目的にしている訳ではなくて親密な関係をツールのひとつとしてフランスの影響力の拡大のために利用しようとしているのだという見方ですね。パリをワシントンの衛星にしようとしているのではなくて強い欧州に増強されたフランスを追い求めているのだと。また一見行き当たりばったりの連続に見える外交に「ディールのロジック」を見出しています。

Yet if Sarkozy has been right on almost nothing, he has been prescient on almost everything, guided by the attention-seeker's instinctive flare for tomorrow's crisis today. (For instance, his decision to engage Syrian President Bashar al-Assad at the time of Lebanon's presidential impasse in January 2008 later paid off in access to crucial back channels during the Gaza war.) His logic is the logic of the deal, where both fault lines in opinion and emerging consensus create leverage points that maximize France's influence.

これは同時並行的にゲームを進行させているというゴールドハマー氏の見方に近いですね。最後は意味深に記事を締めくくっています。

France's return to the heart of NATO will certainly not spell the end of France's independence and autonomy, nor will it prove the alliance's undoing. But both will be changed, in ways that no one -- least of all Sarkozy -- can foresee. Rich in symbolism, profound in consequences, unpredictable in effect: The move is typical Sarkozy, for whom it is the deed, and not the outcome, that matters.

フランスの独立や自立を終焉させることも同盟の失敗を証明することにもならないだろう。しかしこの両者が誰も予測できない形で変化していくことになるだろうと。対米自立ということで単純に対立することが手数を増やす訳ではないということはひとつの教訓として覚えておいていいのでしょう。ド・ゴール外交も後半は行き詰まりましたし。もっとも一度対立した後だから言える話なのかもしれませんけれども。また具体論ではなくなんとか主義だ!と批判している人はなにも見ていないということでいいのでしょう。賭けの連続に付き合わされるのは不安な話でしょうがね。

ではでは。

[本日の一曲]

http://www.youtube.com/watch?v=bMoY5rNBjwk&feature=player_embedded

クロード・フランソワ『コム・ダビチュード』(1968)

(HT to Charles Bremner)

誰もが知っているシナトラの曲のオリジナル。タイトルは「いつものように」の意。歌詞はまったく違っていて女心の歌です。

追記
微修正しました。それと女心の歌というよりも倦怠したカップルの歌ですね(2009・3・19)

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コメント

優越感と劣等感の入り混じった感情的とも思える論議を読んでいて既視感を覚えました。歴史が全く異なる国なので今まで比較を考えたことも無かったのですが、考えて見ると共通点がありました。どちらも独力で独立を勝ち取った国ではないと言うことです。
然しこのような発言に、右や左のウルトラ・ナショナリストが騒いでいると言った批難記事が周辺国から出ないのはどうしてなのでしょう。日本の政治家が一寸発言しただけで騒ぐのに。

投稿: chengguang | 2009年3月21日 (土) 09時48分

フランスの政治論議は内政にせよ外交にせよ日本と似ているところがあります。あるいは似ているところに私の視線が向いてしまうからかもしれませんが。戦後日本の米国に対する屈折した心理は理解しやすいようですね。

国内メディアがぎゃあぎゃあ騒ぐからというのが根本原因だと思いますが、欧米メディアの不公平な扱いは日本への潜在的恐怖でしょうね。経験的に言って英米人にはフランスとの類似を指摘するとなにか腑に落ちる感じがあるようです。実際、研究者は日本のゴーリストみたいな言い方しますね。

投稿: mozu | 2009年3月21日 (土) 19時20分

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