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まあ、ぼちぼちいきましょうよ

"One France Is Enough" by Roger Cohen[NYT]

ロジャー・コーエン氏のNYTのコラムです。フランスを当て馬にしてオバマ政権に忠告を発しています。つっこみどころが多過ぎるのですが、要はレーガン以来の小さな政府路線には確かに行き過ぎがあったが、現在のオバマはまるでフランスのエタティスム(etatisme国家主義)のようだ、フランスはふたつもいらない、移民の国としての米国は可能性とチャンスの国であり続けるべきなのだ!と主張しています。このベタベタな記事を紹介するのはこの話法のままフランスを日本に置き換えても成立しそうな論調に見えたからです。例えば、記事のタイトルを"Turning Japanese"とでもして、ウォルフレン氏流の官僚陰謀論を持ち出して、主題に関係ない性的な話題をなぜか入れて・・・、あれ、もう読んだことがあるような。実際、アメリカのフランス叩きと日本叩きは似ている部分があるので比較言説分析の面白い素材になるかもしれません。トップ・ダウン的なものへの敵意、歴史や文化への妬み、センシュアルなものへの道徳的不安などなど。日本の場合には異文化への不安が入る分さらに不当なものになりがちな訳ですが。

一応フォローしておくと氏とは意見が一致することも時にありますし、最近では「イランのユダヤ人」のコラムなどは世界の複雑性を読者に示すという意味で悪くないとも思いますが、それでもある種のリベラルって・・・、止めておきますか。言い忘れましたが、コーエン氏はわりと知られたフランス・バッシャーです。かの国ではアメリカ嫌いに対して個人的にはなんの義理もないのにアメリカを擁護する役割を果たしていたのですけれどもね。

"Japan's Crisis of the Mind" by Mamoru Tamamoto[NYT]

こちらは同じくNYTの玉本氏の記事です。玉本氏のことはご存知の方もあるかもしれませんが、日本解説者として英語圏の一部で知られる政治学者です。かつて外務省系の財団法人と産経新聞の古森記者と玉本氏、さらに何人かのジャパン・ハンズや半可通ブロガ-達を巻き込んだ脱力系の事件がありました。クレモンス氏がワシントン・ポスト上で逆上、古森氏がこれに反論、NBRなどでの場の罵り合い、と心底くだらないと思いつつも見物人的には手に汗握る展開(笑)と相成りました。古森氏のWikipediaの項に経緯の記述があります。日本語のブログもけっこうヒットしますね。

この記事はスルーしようと思ったのですが、それなりに反響があるようなので一言だけ。内容は現在の日本の危機は精神的なものであり、戦後、西洋に追いつけ追い越せでやってきたが、もはや目標を失い、自由の原理に基づく西洋諸国とは異なり、日本では官僚が支配する自由も幸福もないシステムが立ちはだかっている(ウォルフレン症候群!)、今必要なのはリスクをとる意思とダイナミズムであるといった感じです。「日本人の心理的危機」ではなくて「私の心理的危機」ないし「我ら戦後リベラル左派(?)の心理的危機」ぐらいにしておくのが謙虚な姿勢というものではないですかと思いました、はい。また英語圏の日本言説に呑み込まれた善良な魂の痛ましさみたいなものをところどころで感じました。ただの偏見や叩きを真に受けなくてもいいのにと。リベラル層のオブザーバーに動揺を与えるわさびのきいた記事を一本でも書いたら-まあ全部読んでいる訳でもないので分かりませんが-氏のことを評価するかもしれません。そうですね、ダイナミズムが必要だという点は同意しますが、私は不幸でも不自由でもないですね、悪しからず。共感というのか同情する部分もゼロではないですが、こうした語りに巻き込まれたくないんですよね。だってちっとも生産的でないではないですか。もう聞き飽きました、泣き言を言ってる暇があったら地味なところからでもなにかやりましょうよと。

"A Japanese lesson for Afghanistan" by Matthew Patridge[Guardian]

こちらは歴史から誤った教訓を導き出す見本のような記事です。日本の占領統治の例はイラクの際にも散々想起され、「サクセス・ストーリー」の語り手のジョン・ダウワー氏本人が引用されて反論する事態にもなっていましたが、今度はアフガニスタンですか。ふう。マッカーサー式にやれと主張しています。アフガニスタンを貶める意図はないのですが、どちらかというと豊臣秀吉が必要な治安状況のように思えたりするのですが、違いますかね。早い時期に政治権力による武力の独占が実現し、長いこと秩序社会の伝統が存在していたからこそ占領統治もありえないほどスムーズに進行したように思うのですが。また戦前についても占領軍のプロパガンダそのものですね。封建主義対リベラリズムですか、いまどき英語圏のアカデミシャンでも言わないです。言うまでもなく識字率が高く、所有権も確立し、工業化も進んだ近代国家だった訳です。それにイギリスにはfeudalな土地所有とやらが残っているじゃないですか、農地改革はむしろ後の農政に悪影響を与えたと思うのですがね。ええと、日本は凄かったんだと威張りたいのではなく、誤った歴史の教訓をたしなめているのです。本を一二冊読んだぐらいでなにか理解した気になっているだけの人なんでしょうが、よく知らないことを新聞に寄稿すべきではないですし、またこんなレベルの記事をチェックなしに掲載するようではガーディアンのレベルも知れようというものです。

追記

クレモンス氏の発言で苛立った記憶があって文句を書いたのですが、確認できないのでその部分を削除しました。ともかく氏はエキスパート面してほしくない人トップ10に入りそうです。玉本氏にはさほどの悪感情はないですが、こういうナショナルなレベルでのmindについてそう簡単に語るのは止めて欲しいです。少なくとも私は氏の語りの中に含まれたくない。それから私は別に官僚の味方ではないですし、政官関係のバランスのとれたあり方が実現することを願っていますが、昨今のムード的な官僚叩きにはいささか不健康なものを感じます(2009.3.7)

[本日の一曲]

http://www.youtube.com/watch?v=N3re38PkW_U&feature=related

江利チエミ『テネシーワルツ』(1952年昭和27年)

進駐軍のアイドル・エリーのデビュー曲。14歳の子供にしてはおませな声ですよねえ。

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コメント

Matthew Patridge氏の見解は、コメント欄では可哀相な位い支持されていないようです。彼は博士課程にいる学生なのでしょうか。
アフガニスタンは、部族社会と歴史に宗教が絡み合っているので、国として存続するとなると自治州の形態が一番可能性が高いかもしれません。しかし、そうなったとしても、利権が絡むとまた直ぐ揉めそうです。
PS:『本日の一曲』には最近気が付き愉しんでいます。

投稿: chengguang | 2009年3月 9日 (月) 00時42分

まあさすがに日本の例を持ち出すのは無理がありますからね。ただなにも知らない層はこれでも納得しそうなのが怖いところです。西洋諸国は嫌うでしょうが、イスラーム色のあるリーダーを立てないとても統治できないように思えますね。

投稿: mozu | 2009年3月 9日 (月) 02時22分

知る限りでは、イスラム教ほどアラーの神の下での平等を明確にしている宗教を他に知りません。其れゆえ、イスラム教に帰依している人が多いほど、政教分離に成功しないと統治者の存在は認め難いものとなります。中東の王家の存在については詳しいことは知りませんが、宗教指導者であったマホメットに繫がる人々なのかもしれません。然し、宗教的にはおかしな存在ですので、力で抑圧しているのかもしれません。
アフガニスタンは、イスラム教の中でも、スンニー派が大勢を占め、王国時代から、シーア派部族を迫害して来た歴史があります。また、スンニー派の中でも主導権争いによる部族対立の歴史があります。そのため、イスラム色の強い指導者が出ても、統治は容易ではないと思います。むしろ宗派や部族代表者による長老会議のような形が相応しいように思います。

投稿: chengguang | 2009年3月 9日 (月) 14時25分

>むしろ宗派や部族代表者による長老会議のような形が相応しいように思います。

印象論ですが、西洋の味方みたいなイメージが強すぎてカルザイでは駄目なような気がします。おっしゃるような形態でまとまれるといいですが、タリバンを入れるかどうかで揉めそうですね。

投稿: mozu | 2009年3月11日 (水) 18時04分

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