« 日本的統合主義? | トップページ | 美術とそうでないもの »

防空ヘルメット

病院と理髪店と高層ビルには近寄りたくもない、できれば忌避したまま生涯を終えたいものだと心より願っているのですが、そうも言っていられないのが人生というものでありまして、歯医者に通っています。いい具合に古び、くたびれ、うちのめされた風情の歯科医院に飛び込んだ訳ですが、治療の後に沈んだ気持ちになったり、悪い夢を見たりしないのが不思議です。あるいはこれまでとはなにか違う局面に入りつつあるのかもしれません。

それはともかく今日は受付の年配の女性とテポドンについて話した訳ですが、その意気込んだ話ぶりに、ああ、こんな風に人々の安全意識を静かにしかし着実に揺り動かしているのだろうなと実感させられました。ちなみに発射の日に近所のあほの子がヘルメットをかぶっているのには笑わせられました。防空壕について訴えていましたが、このあたりには地下駐車場のようなものはないですねえ。やはり子供は「テポドン」の響きに反応するようです。怪獣みたいですからね。以下、意味のあることは書けそうもないのでぬるーい感想を書いておきます。

"N Korea launch sparks arms race fear"[Financial Times]

北朝鮮のロケット発射が東アジアの軍拡競争を惹起するのではないかと懸念するFT記事です。韓国の首相が議会でMTCR遵守に関して見直しの可能性を発言した模様です。記事によれば、長距離ミサイル拡散を管理するMTCRは加盟国に開発そのものを禁じている訳ではないが、米国の要請で300km以上の飛距離のミサイル開発をしないことに韓国政府は非公式に合意しているとのことです。これは中国を刺激することになるだろうと。また日本では先制攻撃能力の保有論が浮上しているとして、前財務相の中川氏の発言が引用されています。こちらもまた中国を刺激するだろうとしています。しかし、後半では、韓国側の発言は国連の安保理決議をめぐる中国へのシグナルの意味合いが強い可能性があること、保守サイドでも長距離ミサイル開発への批判が強いことに触れて記事のトーンを抑えています。

"North Korea rocket revives Japan pre-emptive strike talk"[Reuters]

こちらは日本の先制攻撃能力保有談義をめぐるロイター記事です。FT記事同様に、

"We should hold a proper debate about attacking launch bases and about shelters in case something does happen," Kyodo news agency reported former finance minister Shoichi Nakagawa as saying on Sunday.

と攻撃、防衛両面の抑止能力の保有について議論せよとの中川氏の発言が引用されています。また前回の発射の際にも同様の声が聞かれた点、それが中韓の激しい反発を呼んだ点、世論にも歓迎されなかった点について紹介しています。CSISの研究員のグロッサーマン氏は、こうした議論をオプションと考えている人も多いが、個人的にはextremely destabilizingだと思うと述べています。憲法上の制約や専守防衛論の基本的な説明の後、記事は現在の財政状況や不況から考えてこれを変更する政治的タイミングではないだろうと述べ、英語圏における日本の安全保障論の基本書となっているSecuring Japanの著者であるMITのサミュエルズ教授の発言を引いています。

"It is very hard to focus for very long and very hard, even on things as important as national security, given the economy"[...] "Since the incident proceeded without direct impact on Japan, I think we are not going to get the hard focus we got in 1998."

と。記事は、98年の実験がミサイル防衛体制の構築のきっかけとなったが、直接攻撃は正当化困難であると多くの人々に考えられており、既に6兆ドル以上を費やした[註:これ金額合ってますかね]MDの増強が受け入れられるオプションだろうとしています。ここで岡本行夫氏が登場し、北朝鮮の領空でミサイルを破壊する訳にはいかない、より戦略的な防衛システムを保有すべきであり、研究開発がなされるべきだ、と述べておられます。また林前防衛大臣は先制攻撃にはラウンチ前とブースト時の二種類があり、法的には後者のほうが厳しくないが、技術的には難しいとも発言しています。以上、先制攻撃能力保有の声もあるけれども、ミサイル防衛の増強という穏当な反応になりそうだという記事でした。

といった具合に英語圏では前回同様「日本の先制攻撃論」として報じられています。ロイター記事では林氏が記事の末尾で簡単に解説していますが、現憲法体制下における策源地攻撃論を予備知識のない外国人に説明するのはなかなか難しい話のように思えます。前回もブッシュ・ドクトリンみたいに受け取って大騒ぎしている人々がけっこういました。専門の日本の防衛の研究者を別にすれば、理解しろといってもある意味無理からぬところもありますが、この言葉だけが一人歩きする可能性があるかもしれませんね。とはいえロイター記事が英国yahooのbreaking newsになっていたのを除けば大きくは報じられてはいないようです。

ところでこの中川氏の発言ですが、前回とは異なり、日本語圏ではそれほど報じられなかったようですね。閣外だからということなんでしょうけれども、あるいは以前ほどのヒステリカルな反応がないのは世論の微妙な変化を反映しているのかもしれません。件の共同通信の記事は見あたらなかったのですが、東京新聞の記事が上記の引用部分の発言を掲載しています。さらに時事通信の記事によると、氏は前回同様に核保有の議論の必要性にまで言及したようです。むう。また自民党の部会が敵地攻撃について検討しているとされます(コレ)。もちろん議論は活発になされるべきですが、政治的インプリケーションには十分に自覚的にやってもらいたいところです。このあたり各自が持論を展開している状況のように見えますが、レベルごとに役割分担ができているようだとなおいいです。それから基本的に支持はしてきましたが、これでいっそうMDに傾斜するというのも考え物ですね。

なんだか余計な事まで報じていたような気もする今回の日本のメディアの論調としては産経の紙面にときおり浮上した対米不信の色が気になりました(コレとかコレとか)。これも一概に悪いことではないとは思いますが、このイベントにとりあえずは日米が協力して軍事的にも政治的にも対応した事実を考え合わせるとやや過敏な反応のようにも感じられます。いわゆるG2に見られるような動きや同盟を犠牲にして多国間主義に傾斜するのではといったオバマ政権に対する不安とこのイベントを利用して専守防衛論の縛りに風穴をあけたいという希求とが綯い交ぜになっているのはよく分りますけれでも。ゲイツ氏の発言に関してはなにか言っておくべきでしょうね。

Foxソースですが、これを見る限りは米国世論はだいぶ強硬に反応しているようですね。民主党員も含めて多数が軍事的対応を支持している模様です。実際、思った以上に米国メディアも報道していましたし、就任後の初の危機対応ということで大統領の発言も厳しいものでした。とはいえ国連での決議以外になにか強い措置が取られるのかどうかはあやしい印象も受けます。目に付いたものではカプラン氏のこの論説がありますが、日本に配慮しつつ放置しておけとしています。という訳で1ミリでも状況を動かすために韓国と一緒になってでも声を出しておくべきなのでしょうし、国内の「冷戦残滓」を粛々と周縁化していく機会として有効に利用すべきなのでしょう。今後どういう動きになるのかは分りませんが、とりあえず日本の世論に影響を与えたようだという点で社会的に意味のあった事件として記憶にとどめておきたいと思います。

ではでは。

追記

自民・坂本組織本部長「日本も核保有、国連脱退」[読売]

こちらはストレートな核保有の主張ですか。国連脱退も辞さずと。いや、本部長殿、足をすくわれないようにお願いします。国内外の反響を計測しながら物事が進展するような形で「議論」をなさってください。

再追記

上の件、こちらの朝日の記事のほうが詳しいです。読売記事に釣られてしまったようです。ただ議論によるプレッシャーというのも露骨だと無意味かつ有害だと思うのですがね。

[本日の一曲]

http://www.youtube.com/watch?v=CIHCI5dVzHM&feature=related

岩崎宏美『銀河伝説』(1980年昭和55年)

Unhaつながり以外は関係ないですが・・・劇場用アニメ『ヤマトよ永遠に』の劇中歌です。若いのにしっかりした歌唱です。

|

« 日本的統合主義? | トップページ | 美術とそうでないもの »

アジア情勢」カテゴリの記事

我が国」カテゴリの記事

政治」カテゴリの記事

コメント

古森氏の今回の意見には全面的に賛成です。
もともと日米同盟は政治同盟の性格が強く、両国の軍隊が肩を並べて異国の地で血を流す、といったものではありません。「アジアのことは中国と話せばなんとかなる。」とワシントンが思っただけで、もう東京にとっては価値が半減しますよ。
日米同盟の価値はアメリカが東アジアにおける覇権国としての意志と能力の双方を持ち合わせているから意味があるので、そうでなければそれこそ小沢代表の言うとおり、「第七艦隊だけで結構」だと思います。
憲法同様見直しも必要でしょう。

投稿: Aceface | 2009年4月 8日 (水) 20時54分

ええ、リンクした二つの記事は悪くないと思いました。アジアのことは米中で決めるということになれば現状の日米同盟は日本にとっては重しになりますね。実際、もうそういう動きも出始めていますし、手遅れになる前にいったん思考を白紙に戻して戦略を組み直して動かないといけないだろうと思います。とはいえ政治的混乱が続くようだとちょっと先が思いやられます。とりあえず麻生政権には解釈改憲を期待してたんですけれども・・・

投稿: mozu | 2009年4月 8日 (水) 23時21分

MozuさんMTFで同様の話題が出てきたので、コメント欄でちょっとキツいのを載せたら、なんかみんなドン引きになって議論がとぎれてしまいました。
一つボクよりリベラル寄りのコメントを入れて活性化してくださいよ。

投稿: Aceface | 2009年4月 9日 (木) 22時46分

ゲーツ長官の言は、ある意味当たり前ーーー「おまいらおれらのところへくるロケット打ち落とさないのに、なんでおまいらのところへいくロケット打ち落とすと思ってんの?」、ある意味衝撃的ーーー「えっ頼りにならないの?」ーーでしたね。
で、一般国民の反応はどうか、というと確かに、多少は意識をもつようになったのかもしれませんが、まだまだ、あまり実感がない、目先のおまんまのことの方が重要というのが、現実なんじゃないですかね?
 実際の政治の方向性は選挙後になってみないとわかりませんけど、対米関係について、どちらにするにせよ、多少軌道修正はしないとまずいでしょうね。

投稿: 空 | 2009年4月11日 (土) 10時10分

ゲーツ長官の発言は文脈上曖昧な部分があるので深読みせずに真意を問うて確認すべきでしょう。黙っていて疑念だけ残るというのはよくないパターンだと思いますね。

国民の大多数が目先のおまんまがいちばん大事なのは常にそういうものでしょうね。それは大戦争の最中だってそうだった訳ですから。それ自体は悪いことだと思わないです。生活から離れた事を考える習慣のある層や考える社会的責任がある層が他人事みたいに思っているのは許されないと思いますが。

現状維持のままだと静かに追い詰められていくことになりそうな予感もします。「フリーハンドを増やすために」日米関係を強化しておいて、後は好きに動いたほうがいいと思うのですが、ここは異論がある人も多いところでしょうね。

投稿: mozu | 2009年4月11日 (土) 19時19分

>日米関係を強化しておいて、後は好きに動いたほうがいいと思うのですが


ここらへんが、これからの議論の焦点になってくるところだと思いますね。

日米関係を強化し、後は好きに動けるというメリットがえられるか、どうか?あるいは、そもそも、米国さんが中国との関係で日米関係を強化する価値を見いだすか、どうか、などなど、微妙な問題が山積しているようにも思います。


本当、どっちに振れるかわからないですけど、日本もいろいろカードは用意しておいた方がいいんでしょうね。もっとも、変なカードをもって、誤解されることもありますから、やはり、日米の情報交換が必須なんでしょうね。

投稿: 空 | 2009年4月12日 (日) 06時07分

「関係の強化」というのも曖昧な表現かもしれませんね。日本の防衛に限定して言えば、今の厳格な専守防衛路線は見直して役割分担を再考していかないといけないでしょうね。

投稿: mozu | 2009年4月12日 (日) 15時04分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/507226/29007426

この記事へのトラックバック一覧です: 防空ヘルメット:

» 女性の痔の治し方 [女性の痔の治し方]
女性の痔の治し方についてですが、自宅ででも適切に処置すれば、痔は治せます。女性の方は便秘になりやすいためか、痔を患っている人が多いですね。 [続きを読む]

受信: 2009年4月14日 (火) 23時18分

» 東方神起 [東方神起]
東方神起は、韓国のトップスターグループ 韓国のスマップのようです。 紅白出場を果たし、ますます。絶好調。 [続きを読む]

受信: 2009年4月17日 (金) 19時32分

« 日本的統合主義? | トップページ | 美術とそうでないもの »