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実るほど頭をたれる稲穂かな

"Prosperity's Children: Generational Change and Japan's Future Leadership"J. Patrick Boyd and Richard J. Samuels[pdf]

via Observing Japan

ボイド氏とサミュエルズ氏による日本の政治家の世代間比較と未来予測の論文です。結論そのものにさほどの意外性はなかったのですが、方法論的にふーんとなりました。マンハイムらの歴史的経験を共有する世代単位ごとに価値観の差異が生まれるという理論的仮定を基に三世代間の統計的な比較分析をしています。具体的には経済政策、安全保障政策、文化の問題について全政治家を対象にしたアンケートに基づいて分析し、今後の予測をしています。ここから浮かび上がる限定的な発見として、

(1)世代間の差は経済観に現われている。年長世代は中堅世代や若手世代よりも日本的資本主義の維持を好む傾向がある。

(2)世代間ではごく限定的な差異しか見られない。ただ若手世代は他の世代に比べてタカ派的である。

(3)右派的ナショナリズムの問題を含む文化の問題について意外なことに世代間では有意な差異は見られない。ただ中堅世代は相対的に進歩的である。

といった点を指摘しています。(1)は財政政策と公共事業、政府の市場介入、終身雇用などに対する考え方で中堅世代と若手世代は「新自由主義的」としています。もっとも英米のそれとは異なるだろうが、と留保した上で今後も経済改革は継続されるだろうと予測しています。(2)は日本の国防力の増強、日米同盟の強化、武力の使用(先制攻撃、集団的自衛権、憲法改正、イラク派兵)、国連常任理事国などについての考え方のことですが、中堅世代に比べて若手世代と年長世代がタカ派的であるが、それほど極端な分裂はないとしています。ここから米国の動機や意図への疑問が増大したとしても、日米同盟のマネージャーは東京からの支持を期待できるとしています。(3)は首相の靖国参拝、太平洋戦争の正当性、治安と市民的自由のトレードオフ、特別永住者の地方参政権などについての考え方のことで中堅世代がやや進歩的であるもののここに世代間の差異があまりないことに調査者は驚きを感じています。ここから引き続き文化戦争の問題は続くだろうと予測しています。

論文は次の15年をリードする政治家をリストして各人を個別に分析していますが、誰が選ばれているのかはお楽しみということでご確認下さい。これが出版されたのは昨年の夏ですが、そうですねえ、短期的には、経済改革は後退し、日米同盟は現状維持のままあちこちからいろんな声があがり、文化戦争については沈静化に向かうように思えます。これはただの一日本国民による願望やら失望やらの入り混じった予測に過ぎませんけれども。

それからサミュエルズ氏の安全保障に関する立場の類型化(neoautonomists、normal-nationalists、middle-power internationalists、pacifists)は全般的な傾向性をつかむにはよく出来ているとは思いますが、あくまでも類型は類型であって実際には複数の類型が個人の中に濃淡の差異とともに共存しているし、状況に応じてシフトも起こるのだろうなと思います。私は氏の言う「普通の国派」と「ミドル・パワー国際派」の間ぐらいになるのでしょうが、そこからはみだす部分もあるようです。そもそもこの類型に完全にはまるような政治家はどれほどいるんでしょうかね。だからと言って無意味だとは勿論思わないのですが、言葉だけが一人歩きしないといいなと思います。こういうラベルは便利ではありますが往々にしてなにも説明しないばかりか場合によっては誤解を生むものだからです。後は文化戦争がらみについては穏当ではありますが、最終的には米国的な視点からの分析ですね、といったところです。本当に多様で人それぞれなんですよ。

まあ、こんな風に分析されている訳です。さて日本のアメリカ学者はちゃんと分析していますかね。

検察vs政治の歴史的対立を考えれば、 小沢代表秘書逮捕は国策捜査ではなかった[ダイヤモンド・オンライン]

小沢氏の検察批判に関する上久保氏の記事。戦前の「日糖疑獄」「ジーメンス事件」「帝人事件」を想起し、いかに検察官僚出身の平沼騏一郎が政党政治の崩壊に手をかしたのか、また戦後「昭電事件」で社会党右派が凋落することで政権交代のない55年体制が完成してしまった経緯について説明し、今回の事件は政府と検察が手を握った国策捜査などではなく、政党政治対検察の対立の歴史の文脈において理解すべきだとしています。にもかかわらず、民主党が政権交代を実現するためには小沢氏はすみやかに代表を辞任すべきであるとしています。政治的観点に立つならば、たぶんそれが賢明のように思えます。なお記事の

検察は歴史的に権力の座にある(座を狙う)政治家をターゲットにする「政治的思惑」を持って行動しているのだが、検察と政治は対立関係にある。逆に言えば、検察と政治が一体となって行動する「国策」はあり得ないのだ。今回、検察は政権交代間近と見て民主党潰しに動いた。自民党がターゲットでなかったのは、「国策」だからではなく、自民党がもはや検察が相手にもしないほど衰退したということではないだろうか。

の部分はどうなんだろうなという感じがあります。実際に民主党潰しの「政治的思惑」なるものが検察にあったのでしょうか。私もご多分に漏れず古風な言い方を借りれば「検察ファッショ」のことを想起した訳ですけれども、それについて書かなかったのは、むしろ他と類比するならば80年代、90年代あたりのフランス政界の例のほうが適当なのではないか、先進国における政治の透明性と説明責任の明瞭化の流れの一齣として理解しておくのがいいのではないかという迷いがあったからです。今でもよく分らないのですが。

小沢代表が今、行うべきこと[日経ビジネスオンライン]

それでこの事件に関する言説で注目された郷原信郎氏が民主党の「政治資金問題をめぐる政治・検察・報道のあり方に関する第三者委員会(略称:政治資金第三者委員会)」に加わったようです。なんの情報もない個人の目から見るとやや大時代がかった修辞は別にして郷原氏の検察の動きの説明にはそれなりの説得性を感じましたが、その一方でこの件で民主主義を守れ!といっても理解されにくいだろうなとも思いました。というのも90年代以降に政治と金について国民側の意識がそうとうに厳しくなった点について勘定に入れないと通じないように思えたからです。とはいえ小沢氏のみならず検察側の説明責任の明確化と報道の検証はなされてしかるべきなのでしょう。政治的思惑とやらが本当にあったのかどうかはっきりさせてもらいたいものですし、報道については検察からの情報についてもガイドラインが必要なのではないかと思います。それが実現されるならば今回の騒動も我が国の自由民主主義の進歩に少しは貢献することになると思いますので、委員会のみなさんにおかれましてはしっかりと検証作業をしていただきたいものです。ただの政局ネタに終わってほしくはないです。後世になにか残しましょう。

"Barack Obama criticised for 'bowing' to King Abdullah of Saudi Arabia"[Telegraph]

G20の場でサウジ国王にオバマ大統領がおじぎ(bow)をしたことで右翼から批判されているという和み系のニュースです。大統領はおじぎではないと否定している模様ですが、この行為は王権に対して臣従の礼をしないという米国の伝統に反するのだそうです。でこれはテレグラフの記事ですが、ワシントン・タイムズが社説で攻撃しているそうです。これですね。アメリカン・デモクラシー魂が炸裂しています。米国大統領は誰に対してもおじぎをしてはいけないというプロトコルがあるんだそうです。テレグラフに戻ると1994年にクリントン大統領が天皇陛下におじぎをしたのかどうかをめぐって論争があったことに触れています。サウジの新聞はこのおじぎを国王陛下に対する敬意を表明したと評価しているようです。でクリントン氏が我らがハイ・マジェスティーにおじぎをしたとかしないとかという話は聞いたことがなかったのですが、右翼ではなくてNYTに-ふーん-批判された模様です。これですね。日本じゃ上も下も横も斜めも誰に対してもおじぎするんですからいいじゃないという気もするのですが、建国精神なんだからそうもいかないということなのでしょうかね。

北方領土:「3島と択捉一部返還でも」 前外務事務次官[毎日]

前外務事務次官の谷内正太郎政府代表が毎日のインタビューで3.5島折半論について語ったとのことです。

谷内氏は「(歯舞、色丹の)2島では全体の7%にすぎない。択捉島の面積がすごく大きく、面積を折半すると3島プラス択捉の20~25%ぐらいになる」と指摘した。政府は歯舞、色丹、択捉、国後の四島の帰属をロシア側に求める立場を崩していないが、麻生首相は先の日露首脳会談の際、記者団に「向こう(ロシア)が2島、こっち(日本)が4島では進展がない。政治家が決断する以外、方法がない」と強調。谷内氏の発言は麻生首相の意向を反映したものとみられる。

ということですが、実際、意向を反映したものなのでしょうか。これまでの主張とどう整合させるのか、あるいは予見される政治的波及効果を防ぐつもりなのでしょうかね。そう言えば、

日本の「右翼」がロシアを歴史的訪問[JBpress]

こんな記事もありました。民族派の日本青年社がロシアを訪問したという話です。セッティングをされたサルキソフ氏は冷戦時代にはソ連大使館前で罵声を浴びせていたあの右翼までが歩み寄る時代なのだなとある種の感慨を抱かれたようです。ロシアは共産主義を捨てて民主国家になったから協力できる、ロシアの民族主義に含まれる反米主義の要素には同調しない、というのは一瞬リベラルな意見に聞こえてしまいます。日本青年社のサイトをのぞいてみたのですが、これが「社稜」というんでしょうか、たいへんエコなメッセージが掲げられています。訪問記は読んでいてなんだか和んでしまいました。この訪問の「意義」について評価する能力はないですし、日本史こぼれ話ぐらいの話なんでしょうけれども、例えば日韓国交正常化の際の例を想起するならば、これも前触れのひとつぐらいに解釈すべきなのかなとも思いました。ロシアとは接近したほうがなにかといいとは思いますが、交渉する上では足元を見られないよう構えていたほうがいいような気も同時にします。今後は産経新聞あたりの論調が見所ですね。

ではでは。

追記

意味の通りにくいところを直しました(2009.4.17)

波紋呼ぶ「北方3・5島」返還発言報道 谷内政府代表[産経]

さっそく産経が反応しています。既に多数の記事あり。さすが。しかし、この展開、伝統芸の域に達しているようにも思われますね。

「真意伝わっていない」谷内代表が反論 「北方3・5島」返還発言報道[産経]

谷内代表が産経の取材に対して「捏造」であると反論した模様です。しかしその後、真意が伝わっていないとコメントを修正したとのことです。さあ、どちらが正しいのでしょう。

[本日の一曲]

http://www.youtube.com/watch?v=qV0U-lB45RY&feature=related

バッハ『6声のリチェルカーレ』

ウェーベルン編曲版は不安な時代の魂に届いた結晶のような古典の音の像といった感じで原曲よりも惹かれます。

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コメント

サルキソフ先生は最近、本を出されました。数年前にNHKで放送されたバルチック艦隊司令ロジェストヴェンスキー提督の書簡を元に日露戦争は防げた、と主張する内容のものです。


こういう最新の国際共同研究があって、しかもそれを自局で番組にしておきながら、いまさら司馬遼太郎の「坂の上の雲」をドラマ化するNHKの神経がわかりませんね。

サルキソフ先生はもともとサルキシャンというアルメニア系の名前で、国籍はロシアですが民族はロシア人ではありません。御子息ももともとは日本研究を志されていたのですが、ちょうど日本経済も下り坂だったので、アメリカに移民されました。というわけで、なんとなくロシアの民族主義には一定の距離を置かれているように思われます。

投稿: Aceface | 2009年4月20日 (月) 21時12分

情報ありがとうございます。最近放映したNHKのドキュメンタリーでは愛国主義に燃え上がっているようでしたので、この印象記にちふーんとなりました。その番組は見逃したのですが、面白そうですね。

いろんな方がいるのでしょうけれども、NHK的には司馬遼太郎あたりが「国民の歴史」として許容範囲なんでしょうかね。中高年の一般の方にとっての歴史としては悪くはないと思いますけれども、私にはあまり面白くないです。最新の研究がメディアの論調になかなか反映されないのは困ったものです。学者の怠惰も批判されるべきだと思いますけれども。

投稿: mozu | 2009年4月20日 (月) 23時00分

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