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日本的統合主義?

"Waiting in the Wings" by David McNeill[Newsweek]

民主党をめぐる状況を扱ったニューズウィークの記事。なんだか見知った名前が並んで脱力する感じもありますが、ウォルフレン氏も御健在のようです。特定社会を理解するのに"the System"なる単数形の仮説的実体を立てる氏の方法論の問題点-陰謀論に接近する-が発言部分でも見事に露呈しています。記事では自民党のばらまき批判がなされていますが、民主党もやる気まんまんな訳ですよね。また官僚対民主党という対立図式を強調していますが、前にも書いたように非妥協的に対決した場合、民主党は政策立案能力を失うことになるでしょうし、党の支持母体を考えても無謀な賭けではないでしょうかね。まあ修辞なら修辞でいいんですけれども。最後に小沢氏の検察批判ですが、これを日本政治において検察の果たしたネガティヴな役割の歴史を想起すれば、その意味は理解できますが、この事件でそれを弁明の論拠に持ち出すことには今のところあまり説得力を感じていません。正直、こんなタイミングで「政治と金」がテーマになりそうなことには激しく溜息が出てしまいます。ところでこの記事ですが、ところどころでなんだか臭みがあるなと思ったらマクニール氏でしたか。

裁判員制度で大わらわ 新聞各社が「自主規制」を開始[Cyzo]

(Hat tip to Adam)

裁判員制度については基本的なアイディアとしてはいいけれども細かい部分で修正は必要だろう、いろいろな波及効果はありそうだけれどもどういうネガティヴな効果がもたらされ得るのかについての想像力も保っておこうぐらいのスタンスで見ている訳ですが、これはポジティヴな効果でしょうね。新聞各社が事件報道の際にソースを明示するようガイドラインを変更した、あるいはしつつあるという話です。前に書きましたが、事件報道の際にセンセーショナリズムに頼って社会不安を必要以上に煽る傾向には困ったものだなと思っていましたのでこれはこれでひとつの進歩でしょう。日本国民の正義感の強さはそれ自体悪いことではないと思いますが、メディアが商売繁盛のためにこれを動かす構図には醜悪なものがあります。もっともこうした原則はテレビにこそ適用されるべきでしょう。こちらのほうが影響力が強い訳ですから。ドラスティックな変化とはいかないのかもしれませんが、この小さな改善については評価しておきたいと思います。といいますか、こんなの基本中の基本ですよね。

日本人同性愛者の外国での同性結婚が可能に[JanJan]

前エントリの続きで紹介しておきます。書き手は「僕の悪い癖」かもしれないと述べていますが、これといった方針もなく法務省が諸外国への配慮で動いているというのはどうやら正しいでしょう。ルース・ベネディクト流の罪と恥の文化論や阿部謹也流(?)の世間論はあまり信用しないのでちょっと一般化し過ぎに思えますが、日本の「遅れ」は「一神教圏」よりも差別やバッシングが露骨でないために問題化しにくいことによるという経験的な観察そのものはおそらくは正しいでしょう。条件はそれほど悪くないと思います。この件に関しては特に利害関係はないのですが、ポジティヴな政治闘争が展開されるのを見てみたいという気持ちがあります。ご健闘を祈ります。

"For enlightenment, step this way" by Mark Schilling[Japan Times]

"Masterpiece Maker"[Japan Times]

私とは趣味がずれているようですけれども、シリング氏の映画評にはある一貫性が感じられるので読んでいます。中村義洋監督の『フィッシュストーリー』が好評価ですね。監督のインタビューもあります。同監督の映画はなかなかいいけれども個人的にはそれほど訴えかけない-全作品を見ている訳でもないですが-ぐらいですが、面白そうなので天気のいい日にでも見に行きましょうかね。

映画ということでついでに書いておくと、今日、渥美清主演の『拝啓天皇陛下様』を見てうならされました。別に深刻ぶった戦争映画ではなく気のいいはぐれものを主人公にした喜劇映画なのですが、妙なリアリティーがありました。どうも戦争から遠ざかれば遠ざかるほどイデオロギーの声が大きくなり、悲劇が過剰に演出される傾向がある訳ですが、この字もろくに書けない朗らかな山田二等兵の泣けてくるほどの現実感の欠如に戦争のリアルの一面が描かれているように思えました。また周縁の者たちがいちばん熱心に天皇陛下万歳だったことはよく知られた話ですが、例えば、色川大吉が重視した水俣病患者の天皇陛下万歳とはまた違うのでしょうけれども、この天涯孤独者の忠君のあり方にもそれと通底するなにかを感知しました。つまらぬ機関説論者なのでこういう不透明なものに「底知れぬ日本」を感じて畏怖の念のようなものを覚えてしまいます。もっともらしい説明やら安易なレッテル貼りやらをして安心したような顔をできる人々が羨ましいです。

"Refugees, Abductees, “Returnees”: Human Rights in Japan-North Korea Relations" by Tessa Maurice Suzuki[Japan Focus]

北朝鮮の難民の扱いをどうすべきかについてのテッサ・モーリス・スズキ氏の記事。救う会や守る会や現代コリア研究所の活動を「人権ナショナリズム」とレッテル貼りをした上で「普遍主義的な人権」の観点に立って救済すべきであると説いています。確かによく調べていますし、記述に多少のニュアンスもありますが、私は右派だろうが左派だろうが実際に汗をかいて真面目に人助けをしている人には基本的には敬意を持つし、勿論意味はあるとは思いますが、論文を生産したりしているだけの人にはそれよりはだいぶ低い敬意しか持たないです。三浦小太郎氏の評価については(コレです)、政治思想的には多文化主義対統合主義の変奏なのでしょう。エマニュエル・トッド氏の「開かれた同化主義」の概念は確かにフランス的偏りがあるとは思いますが、それなりに練られた概念なので感情的に反応すべきではないと思います。コストの観点からの批判はあるでしょうけれどもね。また歴史は飛躍をなさず、日本の多文化共生派についても氏は大いなる見込み違いをしていると思います。ところでJapan's cultural uniquenessなんて言い方をしていないように思えるのですが、いつもの藁人形議論ですか。まさか英語はよくて日本語は駄目なんて言わないですよね。また「国家の保護」的発想を批判していますが、悪しきNGO主義といいますか、細部に批判はあっても現実には政府の保護なくして人権が保障されることはないと思いますけれども。この論点は氏の国家安全保障的発想批判にもつながるのかもしれませんが、極東の戦略的環境についての認識が根本的に甘過ぎると思います。夢を見ることは人間の自由に属しますが、それがあまりにも非現実的な時には、悪夢に転じるかもしれないことは肝に銘じるべきではないでしょうか。最後に氏の言説の動機に触れている部分

The problem for those who take this view, though, is that it is very difficult to promote engagement with North Korea while also publicly condemning that country’s human rights violations, and it therefore becomes all too tempting to ignore these violations or sweep them under the carpet. The task of identifying alternative responses to the North Korean human rights problem – responses not linked to a hawkish political agenda – is an urgent and difficult one. In the pages that follow, I shall use a critical analysis of some Japanese debates on North Korean human rights as a basis for considering some aspects of this problem.

抱擁政策を支持し、タカ派と自分を区別したいので、北朝鮮に対する人権侵害の批判は手控えよう、北朝鮮の人権問題を考えるオルタナティヴとして(なぜか)日本を批判しよう、というのは追い詰められた日本左翼の心情論理そのままじゃないでしょうかね。それに他人の疚しい良心を政治的に利用しようなんて下品で卑しい振る舞いだと思いますがね。ジャパン・フォーカスはそういう場所ですけれども。佐藤勝巳氏の言説を批判的に扱っていますが、私はだいぶ下ですけれどこの世代のアカの人々のことはある程度は知っているつもりなので痛いほど分かるところがあります。なぜ民社党系の人々なのかとかもですね。氏の「帰国事業」のナラティヴが見過ごしているポイントというのがあって氏は歴史に復讐されることになるのかもしれませんね。なお私は別に対北朝鮮強硬派ではありませんので。悪しからず。

ではでは。

追記

いささか攻撃的だったかなとも思いますが、鈴木氏のアプローチには批判的なところがあるのですね。人権保障のあり方について意見を言うことそのものを批判している訳では勿論ないです。氏の持ち味である名もなき実存たちに寄せる思いや微細なものへの視線は評価できても、それがわりと単純な二項対立に基づいた性急な価値判断なり友敵理論に基づいた党派的主張なりに接続するところでちょっと待ってくださいな、となる訳です。

[本日の一曲]

http://www.youtube.com/watch?v=pE-6vwW9et8

ディック・ミネ『ダイナ』(1934年昭和9年)

戦前巻き舌界の帝王と言えば、この方です。原曲は1925年のジャズのスタンダードで昭和9年のヒット曲。

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コメント

新聞社の自主規制についてはいいこですね。
同性愛の問題については、同性愛者が”恥”ずかしがらないで、もっと発言していけばいい。テレビのタレントさんなんかも多いし、その人たちの持ち前の明るさで、「アンタたちも協力しないさいよ」などとやれば案外すんなりいくんじゃないですかね?
モリス・スズキ氏のは全部読んでいないですけど、日本のことならなんでもかんでもナショナリズムに結びつければよい、という安易さには辟易しますね。それでは、慰安婦問題の韓国やアメリカの態度についてなぜ、人権ナショナリズムだ、といわなかったのか、どうもよくわかりませんね。

投稿: | 2009年4月 5日 (日) 04時48分

オーストラリアの「人権ナショナリズム」や「エコ・ナショナリズム」もですね。要は自分が気に入らないものをナショナリズムと呼ぶということですから単なるレッテル貼りでしょう。だいたい政府や政党の方針でなくてわざわざ批判しやすそうな個人を取り上げるご都合主義的な声の選択も公正な批判の基準を満たしていないですし、個人に対する批判にも底の浅さを感じます。

投稿: mozu | 2009年4月 5日 (日) 17時00分

スズキさんは「イギリス」人なので、豪州と抱き合わせで批判はむずかしいかも。

スズキさんの研究は未発表段階で、オーストラリア国立大の同僚のアンドレイ・ランコフ教授が某韓国ブログのコメント欄で絶賛していたので、小生はとりあえず手にとった次第です。(じゃなけりゃ、絶対読まない。)

ランコフさんは実際に旧ソ連時代の機密資料などを基に北朝鮮関係の論文をお書きになっているので、期待したのですが、残念ながら、スズキ氏の依拠している赤十字の「新資料」(赤十字社の日本側担当者が戦時中は外務省の調査員だったとか、駐日スイス大使の「日本は在日を追い出す方策として帰国事業を使ってる」とかのオフレコ談話」)に著者の独断と偏見と推理をおりまぜるという「そこまで憶測まぜるなら、新資料で権威づけする意味ないじゃん。」という、何コレ?という読後感でした。

別に自己責任論を持ち出す気はありませんが、当時、在日朝鮮人の帰国事業を日本側が止めるということは、ユダヤ人のイスラエルへの出国を禁じたソ連や、拉致被害者や日本人妻の出国を基本的に許さない今の北朝鮮と同じ土俵で行動する必要があったわけで、そんなこと民主主義国にできるワケねえだろう、と。
そんないわずもがななことまで持ち出して反論しなければならないのかな、と思います。

佐藤氏とその周辺の言論活動には80年代末から「現代コリア」を定期購読してきた身としては、思うところがありますが、じゃあスズキさんはジョージ・オーウェルを単なる「反共作家」と思っているのか、ぜひ聞いてみたいですね。

投稿: Aceface | 2009年4月 5日 (日) 19時23分

英国出身者というのは知っていましたが、英国人のままでしたか。ご指摘ありがとうございます。英国ならもっと批判しやすいです(笑 鈴木氏の倫理的恫喝の書が英語圏の認識のスタンダードになるのは困るなと思うのですが、誰も反論しないですね。なぜか日本でも評価されているようですし。

佐藤氏の言説には私も影響を受けた覚えがあるのでこういう扱いをされると不愉快になります。

投稿: mozu | 2009年4月 5日 (日) 21時23分

国籍のことはわかりません。ということでカッコつきです。イギリス人がオーストラリアに住んでも、英連邦内なので、国籍変更のモチベーションも低いとは思いますが・・。いずれにしても、私はあまり興味がある人ではないです。

半年くらい前のクーリエ・インターナショナルで佐藤優がアメリカ国務省関係者との会話の中で、拉致問題を帰還運動の話で切り返されたあげく、さらに先方に日本政府の二重基準を糾弾された、という笑えないエピソードを紹介してました。
たぶんスズキ氏の著作の影響でしょうね。

佐藤優(あんまりあの御仁も信用してませんが)の連載から十数ページ離れたところでスズキ氏の夫君の森巣博が自分を棚に上げて、いかに日本人はダメか、という連載を持っているというビミョーな状況があって、何なんだこれは、と。世界の言論をディレッタンティズムに任せて集めるのもいいけど、国内の論壇のレベルの低さがこんなところにも露呈しているな、と感じました。

ウォルフレンに関しては最近のAERAでもオバマ政権はアメリカの権力構造に巣食う「軍産複合体」という病原体を制御できないのでは、という意見を開陳されており、今度は「アメリカ権力構造の謎」でも書く気かいな、と思いました。
今をさること15年前、SAPIO誌主催で氏の講演会を代々木に聞きに入ったことがあるのですが、(今から考えると信じられませんが当時SAPIOにウォルフレンは連載してました)その時はまだ羽田政権のころで、やはり小沢一郎がキーパーソンという状況でした。講演の中で、「日本には既成の権力構造に挑む者が現れると、テロによって排除されてしまう。今私が恐れているのは、こんなことは縁起でもないが、小沢がテロに狙われることだ。」なんて話が飛び出して、少し白けた記憶があります。

投稿: Aceface | 2009年4月 5日 (日) 23時49分

佐藤優氏だったか記憶は定かでないのですが、私も国務省関係者が帰還運動を持ち出したという話をどこかで読んでこれ既成事実化するとまずいなと思いました。鈴木氏を歴史家だと思ったことはないです。だいたい戦争直後の反天皇パンフを見てこんなのがあったのかと驚いたり、読売の戦争責任本に保守にもこういう受け止めがあるのかと感心したりしているのを見てげんなりしました。戦後の言説空間をまったく理解していなかったのかと。

ウォルフレン氏はすっかり凡庸な反米家になってしまったようですね。マイケル・ムーアばりの軍産複合体論ですか。そう言えば、もはや沈みかけた船のアメリカから独立しようとしているとして安倍首相にエールをおくるジャパン・タイムズの寄稿記事にのけぞった記憶があります。この方、あまり社会科学や歴史学の素養があるようにも見えないですし、そもそもなんのエキスパートなんだかよく分からないんですよね。今でももてはやす人がいるのがエニグマです。

投稿: mozu | 2009年4月 6日 (月) 02時26分

告白しますが、学生時代かなりウォルフレンに傾倒したことがあり、それが今の稼業につくことになった遠因でもあります。

ウォルフレンはロッテルダムで高校を卒業後、アジア向けの商船に乗り込み、来日したという異色のキャリアの持ち主です。早稲田大に一時期英語講師として雇われたことがあり、現在はアムステルダム大学の教授ですが、大学には学生として在籍したことはありません。彼の知識は全て独学でそれがいい方にも悪いほうにも作用している気がします。

彼の日本報道のスタイルはかなり「アドボカシー・ジャーナリズム」というべきもので、あまり、「客観性」を重視していません。最近の外国人記者クラブでの会報でもそのことを協調しています。
http://www.e-fccj.com/node/4372
ですから、その限界と弊害を認識すれば、まあつきあっていけるんじゃないか、と思いますね。
とりあえず、安易な権力批判や、政治家の腐敗よりも、官僚制度の弊害を日本の政論の中心に据えたという功績は残るんじゃないでしょうか。その意味では彼が今の小沢批判に不満を持っている理由も理解できます。

投稿: Aceface | 2009年4月 6日 (月) 19時41分

学生の頃にはいろんな人に傾倒するものですから。そうとうやばい牌をたくさん抱えています。

なるほど、そういう背景の方だとすると、一人の人間としては面白いかもしれません。アクティヴィストみたいなアカデミシャンよりはずっと。ジャパノロジストかと思っていました。確かにウォルフレン氏の言説の是非論とは別に、これが受容された日本側の文脈というのはよく分かります。政治改革ののろしが上がった頃ですよね。その頃の空気はよく覚えています。

私自身は官僚をいかに弱体化するのかよりも政党政治をいかに強化するかのほうが重要だと思っていて、結局は同じ事なのかもしれませんが、アクセントが違うせいか、微妙に認識がずれている気がします。それにフランス政治を見てきたせいか日本の官僚ってそんなに凄いですかねと思ってしまうところがあるみたいです。分権論的な発想なので今の官僚制のあり方がいいと思っている訳ではないんですけれども。

投稿: mozu | 2009年4月 6日 (月) 21時28分

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