どうもJapan Timesが日本国民の与り知らないところでいつものごとく不思議な動きを見せているので紹介しておきましょうか。まあ、別にいいんですよ、この自由民主主義国においてはどんな論調だって決定的に報道のルールや倫理に悖らない限りは許される訳ですから。かつてシドニー・モーニング・ヘラルドというオーストラリアのタブロイド紙(嫌み)から怒りのブロガーというありがたい称号をいただいたことがありましたが、別に怒っているわけではなくてですね、英語圏ではこんな議論がなされているのだということを日本の公衆にも知っていただこうかなと考えているのですね。
ひとつは例の失言国交相の辞任の話です。この世界的危機にあってあなたいったいなにをやってるんですか、というのが私の偽ざる感想ですが、もう少しなにか言えと言われれば、日教組という組織に対してはなんら敬意を抱かない私のような人間にとっても国交相の発言は政治家として不適切というかお粗末に過ぎましたね、政治家たるもの敵とはにこやかに談笑しつつ悟られぬようにしかし決定的なやり方で打撃を与えるぐらいの狡知は持ち合わせるべきではないでしょうか、青年の主張じゃないんですから、ぐらいの気のない返事をするしかないですね。ずこーっというんですか、ドリフの大爆笑みたいな話ですね。そんなことやっている場合ですか。
それでこのつまらぬ話に日本のメディア同様にJTさんもはしゃいでいたわけですが、勿論この新聞の論調からある程度予想されるようにフォーカスがあたっているのはかつてのスターリン主義の残滓を引き摺る教職員組合や頑固一徹な成田空港建設反対住民よりも「単一民族」発言のほうですね。まず中山氏の発言を引用しておきます。
日本は単一民族といいますか、世界とのあれ(交流)がないものですから、内向きになりがち。(訪日観光客を増やすには)まず日本人が心を開かなければなりません。
という発言です。それでアイヌ民族を忘れているではないかという批判を前に氏はその発言の不適切性を認めて謝罪したのでした。「単一民族」言説については、これは多民族帝国たる日本帝国には存在しなかったのであって戦後のある時期に生まれたものであり、「戦後的」なナショナル・アイデンティティーの在処を示す言説であるとする小熊英二氏の有名な歴史社会学的な研究がありますが、その経緯はともかく1980年代に日米経済摩擦が文化戦争に転化した際に日米比較文化論の形をとった対抗的言説として表舞台に躍り出たというのがとりあえずの私の認識です。その心理的動機をなしていたのは内政干渉の度合いを深めるアメリカと喜々として「アメリカ化」を受け入れるかのごとき日本国民に対する保守派の不安と恐怖ですね。これが多文化主義的、反国民国家的、グローバリズム的な視点から批判されるようになったのが1990年代であったという流れを思い起こしておきましょう。ちなみに英語圏ではこの点についてはけっこう厚いヒストリオグラフィーがあります。騒々しい議論を別にすれば、これが「べき論」なのか「である論」なのか、規範的主張なのか事実の描写なのか、パフォーマティブな言明なのかコンスタティブな言明なのかといった点が議論の焦点になっているようです。やはり同質性が相対的に高い国には違いないですからね。別にそういう国は日本だけではないですけれどもね。
そうした議論はとりあえず脇に置いておいて、過去の保守派の政治家達の「単一民族」発言と中山発言を比べてみた場合、要は、島国根性を捨てて外の世界にも心を向けにゃいかんぜよ、我が同胞よ、という意ですから、ここでは批判的にこの概念が提示されている点が違っています。その点においてこの発言に対する批判はこの言葉を使用したことそのものへの批判、つまり言葉狩り的な印象を与えるものでした。単一民族「幻想」みたいなものがあるのかもしれないが、とでも言えば叩かれなかったのでしょうか。あるいはそれでも叩かれたのかもしれませんね。なぜなら正義の仮面をかぶりつつ閣僚の揚げ足を取る事そのものが政局報道において自己目的化して久しいのですから。ああ、なんとちまちまとした政治なのでしょう。
それはともかくこのネタをJTがいかに報じたのかを見てみましょう。第一報からしばらくは日本の報道とだいたい同じ内容ですが(アイヌに失礼とかですね)、残念ながら後段の「日本人が心を開かなければなりません」の部分が省略されている記事が多いのが問題と言えましょうか。つまり「単一民族」根性の批判の要素が消去されて単に日本は「単一民族」国家なのだという主張をしたことになってしまっているわけですね。そして9月29日付でスタッフライターのMasami ItoさんとTakahiro Fukadaさんの記事が駄目押ししています。
"Gaffe-prone Nakayama quits Cabinet" By MASAMI ITO and TAKAHIRO FUKADA[JT]
In an interview with The Japan Times and other media organizations Thursday, the conservative Nakayama said Japanese "do not like nor desire foreigners" and that Japan is inward-looking and "ethnically homogenous.
Nakayama retracted the statements the following day and offered an apology to the ethnic Ainu, who were officially recognized as an indigenous people for the first time by the Diet in June."
単一民族はethnically homogenousでありますが、ここで気になるのが前段です。木曜日のインタビューでJapanese "do not like nor desire foreigners"、つまり観光行政に関わる大臣が日本人は外国人が好きじゃないし、来て欲しくもないと思っていると語ったという新情報が追加されています。このインタビューの席には他のメディアもいたとされていますが、中山氏がこのように語ったと報じられているのはJTのみのようですね。さて問題は以下のようです。
1. the conservative Nakayama said Japanese "do not like nor desire foreigners"にあたるような発言を実際にしたのか。
2. 引用符はこの文の述語及び目的語の部分であり、主語は引用符の外に置かれている。中山氏は「日本人」を主語にしたのか
1に関してあるいは懐疑主義的に過ぎるように感じられるかもしれませんが、これまでの実績から言って政治面の事実報道に関しては私のJTに対する信頼はかなり低いです。ファクト・チェックの次元でエラーになるはずの記事を配信してきた過去があるのですね。とはいえこれを報じているのがJTのみであり、他のソースとのクロス・チェックもできないとなると私自身に検証する術はありません。話を進めるためにとりあえず引用部分は事実だと仮定してみましょう。
次に問題となるのは2の点です。主語はなんだったかという問題です。仮に記事にあるように「日本人」を主語にして氏がこのような発言したのだとすれば、それは単なる虚偽命題となるでしょう。総称命題の批判には反例を挙げればいいだけです。外国人が好きではなくてあまり来て欲しくないと思っている日本人もそれなりにいるという言明の場合にはこれは虚偽ではないしょう。もし仮にこの大臣が日本人は総じてゼノフォビックだと宣言したのであれば無論政治家失格となります。いったいどんな大臣ですか。しかしもし仮にこれがこの記事を書いた記者の創作であった場合には中山氏を政治的に批判することを意図したのみならずそれに便乗して「日本人」全体にあるイメージを付与するために虚偽を記事に紛れ込ませたことになりますからジャーナリスト失格となります。さてどちらなのでしょうかね。なんの確証もありませんが、これはジャーナリズムにおける声の引用の政治の分析対象になるようなケースではないでしょうかねというのが私の直感です。妙に細かいことを言っていると思われるかもしれませんが、こういうせこい情報操作の技術を好んで使うわけですよ。他のメディアによる検証が待たれるところですね。
[追記:コメント欄でPnetQさんから情報をいただきました。ありがとうございます。朝日報道によると、中山氏の発言は以下のようです。
外国人を好まないというか、望まないというか、日本はずいぶん内向きな、「単一民族」といいますか、世界とのあれがないものだから内向きになりがち。まず国を開くというか、日本人が心を開かなければならない。
この前段ですね。なるほど。まあ全くの虚偽とは言えないでしょうけれども、これを「日本人は外国人を好まないし、望まない」とパラフレーズして叩きの材料にするのは公平なんでしょうかね。むー。やはりダーティーですね。駄目報道だと思います。ただ島国根性批判にしてもこんなつっこまれそうな発言はやはり大臣としてはすべきでないでしょうね。ですからこの発言は支持しません。保守派の政治家の先生方にはワード・ポリティックスでいかに勝つのかについてもっと戦術的になっていただきたいです。連中(って誰だ、まあ)は誠実な自己批判ですら叩きの材料に利用しますからね。]
ちなみにこの失言についてはJTはご丁寧に読者投票をとっています。読者からの投票では中山氏は東国原氏の慰安婦発言を抑えて見事にトップの地位に輝きました。中山氏の発言ですが、「単一民族」ではなく上の「日本人は外国人を好きではない・・・」が候補に挙げられていますから、JTとしては日本国民には知られていないこちらの発言を重視しているわけですね。なお「単一民族」は伊吹氏の発言としてエントリーされているのですが、3%程度しか票を集めていませんね。ちなみにバッシャーの認識というのは日本は外国人嫌悪の強い同質的かつ排他的な国であるというものですから、彼らにとっては中山発言は真理であって虚偽ではないというのが皮肉な話ですね。ええ、あなた方の発言も失言扱いなんですよ、困りましたね、商売あがったりで。前にも書きましたが、通俗的な日本人論をこよなく愛するのは文化保守と左翼とバッシャーなんですね。前者は自己肯定のために後者は自己否定そして他者否定のために互いの言説を利用し合うわけです。そしてそこにおいては個々のあやしげな命題群について検証してみようという健全な実証精神が発揮されない。この伝言ゲームのごとき入り組んだ政治については研究もそれなりになされていますが、より洗練された分析による解明が待たれるところです。
Japanese "do not like nor desire foreigners." — recently resigned transport minister Nariaki Nakayama
733 (34%)
"Even people with Alzheimer's disease could understand." — Prime Minister Taro Aso, when he was Japan's foreign minister
140 (6%)
A reference to women as "baby-making machines" — former health minister Hakuo Yanagisawa
454 (21%)
The dropping of atomic bombs by the U.S. in World War II "could not be helped." — former Defense Minister Fumio Kyuma
162 (8%)
"It is very difficult to confirm as a historical fact that the 'comfort women' actually existed." — Miyazaki Gov. Hideo Higashikokubaru
594 (28%)
"Japan is an extremely homogenous country." — former education minister Bunmei Ibuki
73 (3%)
Total Votes : 2156
もうひとつは中川昭一大臣に関連した多分日本国民のほとんど誰も知らない話です。
Nakagawa shakes up press with move to plant Hinomaru in briefing room[JT]
Rightwing Finance Minister Shoichi Nakagawa created a stir Tuesday by backing a plan to display the Hinomaru flag in the ministry's press briefing room.
という書き出しで記事は始まります。右翼の財務大臣の中川昭一氏が財務省のブリーフィング・ルームに国旗を置こうとして騒動を起こしていると。なんという小ネタなのだというのが一読した感想でしたが、こういうどうでもいいネタを積み上げて印象づくりをするのはJTの得意とするところです。
Though officially Japan's national flag since 1999, the Sun Flag remains controversial due to its association with the nation's militarist past.
というように日章旗は軍国主義との結びつきゆえに論争的な象徴なのだと述べています。ソ連製メソッドを日本教育界に導入した某組織以外で現在国旗について騒いでいる存在を私は寡聞にして知らないのですが(彼らもかつては愛国だったんですけどね)、まあわけありの旗なんですよとこうやって教育しているんですね。不毛という言葉以外に語るべき言葉を見出せなかった学校式典妨害騒動の時にもずいぶんと"dissident teachers"をフィーチャーしていましたね。そういうわけで軍国主義だからといって日の丸を嫌う単細胞な在日外国人というのもそれなりにいたりするわけです。
記者クラブ内にはこの中川氏の動きに対して意見が分裂したそうで、中川はタカ派だから政治的意図があると反対する記者もいれば、なにも悪いことはないじゃないかという記者もおり、個人の受け取りだから記者クラブとしては共通の反応はすべきでないという記者もいたと。それで中川氏に意図について説明を求め、この問題について記者クラブのメンバーで議論するまでは国旗を置かんでくれと要求したということです。また1999年にも中川氏が農相の際に同様の騒ぎがあったそうです。ここで「リベラル」な宮澤喜一氏の無関心な発言を引用して中川氏との差異化をはかっています。そして現在半分の省庁がブリーフィング・ルームに日章旗を設置していると記事を締めくくっています。
記事の最期に見事なオチがついているので半分の省庁に置いてあるなら大臣が「右翼」であるかどうかとは関係ないんじゃないですかというつっこみを入れたくなりますが、要は中川氏だから問題にしているわけですね。ここでは日章旗の歴史についての説明はいらないでしょう。そもそも私はこの種の象徴政治の不毛性には心底飽き飽きしているので賛成だの反対だのどこかの無人の離島ででもやっていてくれという感想以外になんら興味を感じません。問題のないところに問題を捏造している暇があったならば、国民生活に直結するもっと実質的かつ喫緊な問題に我々の有限なリソースは費消さるべきではないですか。空騒ぎはもう止めましょう。
そしてこの話についてもJTさんはまたご丁寧にも読者投票をしています。ブリーフィング・ルームに国旗を設置するのをどう思うのかと。政府施設に国旗を設置してなにが悪いんだというのがトップですから、どうやら失敗だったようです。残念でしたね。新たなナショナリズムの危険な兆候だとかそんなにコントロバーシャルな旗ならなぜ新国旗をつくらないのかという選択肢がありますが、あるいはこれがJTの意見なのかもしれませんね。そんなどうでもよろしい論争には日本国民の多くはまったく関心がないのですよ。法制化されようがされまいが国旗は完全に定着していますから口汚くけなされるとかちんとくる、といっても家に国旗があるわけでもないぐらいがおそらくは大勢でしょう。大臣がブリーフィング・ルームに国旗を置くのがなぜナショナリズムの兆候なのかも理解不能ですね。いいですか、ナショナリズムというのはもっと大規模な大衆的な政治現象のことです。そもそもこんなニュース誰も知らないわけですから国民に影響を及ぼしようがないではないですか。そんなに国旗という存在が嫌いならば自国の政府機関から国旗を追放してから日本に言ってくださいね。ダブスタは許しませんからね。
What's wrong with displaying an official national flag in a government building?
235 (59%)
It's a troubling sign of renewed nationalism.
61 (15%)
I don't really care either way.
50 (12%)
Why doesn't Japan create a new flag design if this one is so controversial?
55 (14%)
ちなみにJTさんが「敵」としている人々を私は支持しているわけではないのでこのエントリで擁護しようという意図はありません。私は基本的に自由主義者ですから保守主義者とは今ひとつ反りが合わないんですね。かといってJTさんみたいに彼らを悪魔化したりはしないですけどね。悪魔化の言説戦術というのは嫌いなんですよ、ジャコバン的なものにせよ正統王朝派的なものにせよ。勿論批判すべきは批判しますし、困ったもんだという御仁が多いのも事実なんですがね、彼らの意見も意見として尊重するぐらいの寛容と公平のセンスぐらいは持ちたいものだと願っておりますし、ある種絶望の入り交じった共感とでもいった複雑な心情とともに日本史における彼らの存在意味は理解しているわけですよ。これは左翼に対してもそうです。こんなことを言っても判らないでしょうけれどもね。ともかくここで問題にしたいのはイデオロギーの話ではありません。まあこんなことを言っても友敵理論の信奉者に通じないことぐらいは知っているのですけれども。別の誰かに言っているとでも思ってください。
というわけでここ数年で微妙にトーンが変わっているとはいえ、在日外国人コミュニティーの世論誘導にいそしむJapan Timesはご健在なのでした。日本酒と焼き鳥の美味しい秋の宵ですよね。まあ、がんばってくださいね。
ganbatte! genki! yuki!
追記
小熊英二氏の著書のリンクが間違っていたので修正しました。また一部表現を変更しました。中川氏についてのJT記事はampontanさんもポストでとりあげていましたね。ともかくこういう瑣末主義的な象徴政治なんてのは暇人のやることです。もっと具体的にやるべきことはたくさんあるんですから。それからファンというわけではないのですが、中川氏はたぶんJTさんが考えるよりはスマートな政治家だと思いますよ。実務能力が高い政治家ですし、中道層にまでウィングを広げられる人ではないでしょうかね。まあなんであれ物事はイメージで語らないことですね。
ちなみに国旗を引きずりおろすことに執念を燃やすスターリン主義的な教職員組合ですが、個々に見れば、いい先生も立派な先生もいらっしゃることは承知しております。ただ組織体としては私は評価しないのです。韓国の教職員組合も同じ臭いがしますが、「アジア左翼的」というんでしょうかね。全体主義的なものへの免疫のなさをどうにかしてほしいです。またいろいろ話を聞く限りでは現在の学校教育の現場が真に求める組合のあり方からはやはりかけ離れているように思えますね。まあこれは話のついでに書いているので私は別に熱いアンチ日教組派でもないですし、それほど重要性のある問題だとも思ってはいません。ただ日本の左派が冷戦時代の枠組みから脱して成熟することを個人的に期待していることもあるのでなんというのか邪魔な存在に見えてしまいます。
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